日本におけるQRコード決済の現状と普及への課題
ガラケーで使えないQRコード決済
元々、QRコードはガラケーのアドレスを示す表示だったにもかかわらず、現在はガラケー信者ではなくLINEの友達申請やクーポン取得などに主に使われています。QRコードでの決済については、いくつかの会社が参入しているもののまだまだ発展途上です。
いまだに20%のシェアを持つガラケー(フューチャーホン)では、残念ながらQR決済が使えません。しかし、モバイルスイカなど、交通系やおサイフケータイを使える機種はまだかなり残っています。コンビニやキヨスクでガラケー決済をしているのをたまに見かけます。ピッとかざして飛行機にも乗ることができるので、まだまだ現役です。
スマホによるQR決済に関していえば、QRアプリを立ち上げて撮影ボタンを押す、もしくはQRコードを表示して他人に撮影させるという2ステップの工程に過ぎません。
ただ、日本人は、おサイフケータイがガラケー時代に始まって以来定着していて「かざしてピッ!」に慣れています。そのため、「開く」「撮る」という作業が面倒だと感じるのではないでしょうか。
そこで、今回は、乱立状態の各社のQR対応や、手数料などを調べてみたので今後の参考にしていただきたいと思います。(※「QRコード」は、株式会社デンソーウェーブの登録商標です)
QRコード決済のデメリット
いまだに現金主義が根強い日本では、キャッシュレス決済比率はわずか20%程度と言われています。その一方で、2007年に登場したモバイルスイカなど交通系の「FeliCa」や ICチップは既に多くの人が使いこなしているのが実情です。
日本と欧米の大きな違いは、通勤電車でほとんどの人が切符を買わないことです。欧米に比べ、日本は小口のクレジット決済の比率が少ないため、おサイフケータイが流行っているのだとも考えられます。当然、日本で流通している紙幣の偽札率が断然低いという前提もあります。
通勤時間帯の駅キヨスクを観察していても現金を出すお客さんよりもスマホをかざす人のほうが断然多い印象です。駅構内の自動販売機でも、スマホをかざすだけでPETボトル飲料を簡単に買うことができます。
このように交通系の電子マネーでコンビにでも買い物ができる状況なので、わざわざQRアプリを立ち上げることに違和感を持たれることは容易に想像がつきます。
QRコードは導入店舗で専用端末を用意する必要がないなど、メリットもたくさんあると思いますが、問題は手数料が掛かるということです。導入することによって、売り上げや利益が伸びれば問題ないのですが、たとえ売り上げの数%でも持っていかれるのは、小口の商店主からすると厳しいものがあります。
QRコード決済が出来るスマホのバージョンと手数料の比較
スマホなら何でもQRコード決済ができるというわけではなく、OSのバージョンが古いと使えないということも考える必要があります。以下、各社のOS対応と手数料を紹介します。現在、キャンペーン等でこの数字以下となっている場合もありますが、標準料率を示してみました。
①ドコモQR決済:Android 5.0以上、iOS 10.1以上、手数料はドコモが提示した料率%
②楽天QR決済:Android 4.3以上、iOS 9.0以上、手数料3.24%か3.72%
③LINE QR決済:Android 5.4.1以上、iOS 4.8.0以上、手数料2.45%
④ヤフーQR決済:Android4.4以上、iOS 、10以上、3年後から有償化する可能性有
⑤アマゾンQR決済:Android 5.0以上、iOS 10以上、手数料3.5%
日本におけるQRコード決済の展望と海外の事例
日本人向けのQRコード決済普及作戦をどう練るか
最近、ヤフーやLINEが手数料無料のキャンペーンを行って、対応店舗を拡大する戦略を取ることでQRシステムの覇権争いが激化していますが、インバウンド顧客にとっては、普段使っているQRコードと違うため使いにくいと感じるのではないでしょうか。
非接触決済サービスのFelicaの基準とも全く違い互換性がありません。また、日本はType-F方式と呼ばれる方式なのに対し、海外での主流はType-A/Bなっています。
QRコード決済の推進は結局、日本人向けのQR普及作戦をいかに練るかに掛かっています。経済産業省は、QRコードを使った決済の規格統一化へ向けて動いています、が各社の思惑が交錯しており、まとまるのかどうか疑問です。
さらに政府は「支払い方改革宣言」を行って、キャッシュレス決済比率を2025年までに40%程度に引き上げることを目指しているようですが、最終的にはQRコード決済だけでなくFeliCaを使った決済がもっと普及すると予想されます。今年2月には政府主導で大手3銀行が連携してQRコード決済規格を統一し、共同でシステムを開発することで合意したとのニュースもあったので、今後統一規格ができるか注目したいとこところです。
日本人は、既に何年も前にソニーが開発したシステムに慣れているがゆえ、QRコード決済が中国のように爆発的に普及するとは考えにくい部分があります。ただし、若者が小口のクレジットカード決済をしないという状況を考えれば、将来的にある程度の普及は見込まれます。
中国でのQRコード決済の成功要因は?
中国では、爆発的に普及しているのがテンセントのWeChat(微信) Payや、アリババ集団のAlipay(銀聯)ですが、背景には現金の安全性の低さや偽札の横行といった社会的な問題があります。また、手数料も業種によって区分していて、社会インフラの医療、教育、社会福祉、介護などの業種では無料、その他業種においても最高でも 0.55%程度と安く設定されています。
その代わり、芝麻信用社(Sesame Credit)など信用情報会社が、ユーザーの格付けをAIで算出したり、取引情報や支払い記録などの膨大な利用履歴からなるビッグデータを蓄積して利用したりしています。この格付けによって、ホテル予約時の前払い不要や、金利手数料軽減などといったことが行われているのです。ある意味、金銭管理社会とも言えます。
※本連載の過去記事はこちらから
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山本康博(やまもと・やすひろ):
ビジネス・バリュー・クリエイションズ代表取締役、ブランドマーケッター。日本コカ・コーラ、JT、伊藤園でマーケティング、新商品企画・開発に携わり、独立後に同社を設立。これまで携わった開発商品は120アイテム、テレビCMは52本製作。1年以上継続した商品を計算すると打率3割3分、マーケティング実績30年。現在では新商品開発サポートのほか、業界紙をはじめとしたメディア出演や連載寄稿、企業研修、大学等でのセミナー・講義なども多数実施。たたき上げ新商品・新サービス企画立ち上げスペシャリスト。潜在ニーズ研究家。著書に『ヒットの正体』(日本実業出版社)、『現代 宣伝・広告の実務』(宣伝会議)、英語著書『Stick Out~a ninja marketer~』(BVC)など。
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