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トヨタは2割増、スズキは撤退 中国市場における日本自動車メーカーの明暗

中国自動車市場で日本の大手自動車メーカーの方針が割れている。輸入車関税の引き下げ、合弁規制の撤廃がある一方、厳しい環境規制や自国の産業育成を行いたい中国政府の思惑もある。撤退するのか、攻めるのか、日本車メーカーは今、難しい決断を迫られている。文=ジャーナリスト/立町次男

中国市場への対応迫られる日本の自動車メーカー

スズキは中国市場から撤退で事業大幅縮小

世界最大の自動車市場である中国で、日本の大手メーカーの販売実績が明暗を分けている。好調が続くトヨタ自動車や日産自動車が増産に向かう一方、スズキやSUBARU(スバル)は苦戦が続く。スズキは現地での自社生産からの撤退を発表した。

市場の成長性は高いが、中国政府は自国での電気自動車(EV)産業の振興を視野に厳しい環境規制を導入する方針で、日本メーカーも難しい対応が迫られる。さまざまなリスクを内包する市場だけに、各社の戦略の違いが際立ってきた。

スズキは9月4日、中国の自動車大手、重慶長安汽車との合弁事業を解消することで同社と合意したと発表した。スズキの出資持ち分50%を重慶長安に売却し、同国での自動車生産から撤退する。売却額は非公表だが、スズキの業績への影響は軽微という。合弁会社は重慶長安の完全子会社として存続。スズキからライセンス供与を受け、スズキブランド車の生産・販売を継続する。

スズキは1993年、重慶長安と合弁会社を設立。主に小型車を生産・販売してきたが、近年は苦戦している。鈴木修会長は、「中国が大型車への市場に変化している」とのコメントを発表。同社は合弁会社2社を設立し、中国事業を行ってきたが、6月に江西昌河汽車との合弁を解消したばかりだった。

しかし、中国から撤退し、事業の大幅縮小という決断ができるのは、スズキだからだ、との見方もある。同社は成長著しいインドでシェア首位を誇り、競争が激しい中国に経営資源を割く必要性は小さいからだ。

好調な中国市場で不覚を取ったホンダ

中国に現地工場を持たず、日本から輸出して販売しているスバルも販売減が続く。同社の場合、主力の米国の販売増で業容を拡大してきたが、成熟市場での拡販には限界が見えてきた。

トランプ大統領が輸入車関税の大幅引き上げを検討していることも不安材料で、思うようにいっていないからといって中国市場を捨て、さらに米国市場への依存を強めることはリスクが大きい。一方で巨額の資金を投じて現地工場を建てる計画もなく、現状は中途半端と言える。今年6月に就任した中村知美社長の中国市場に対する姿勢が今後、注目される。

中国で強いのはやはり、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの大手3社だ。

ただ、昨年の16%増など、2桁の成長が続いてきたホンダが足下で思わぬ不覚を取った。SUV「CR-V」のリコール問題だ。

「車内でガソリンの臭いがする」。昨年末から年明けにかけて、中国の交流サイト(SNS)でこうした投稿があり、現地で問題化し、販売できない状況に追い込まれた。ホンダの2018年4~6月期の中国での小売り実績は前年同期比6%減の32万1千台と、5月に主力車「アコード」を発売したにもかかわらず、減少に転じた。その後も問題は尾を引いている。

寒冷地で短時間運転を繰り返した時に車内に燃料の臭いが出るという問題があったようだ。また、当局との調整がうまくいかず、リコールの届け出が当初は受理されないなど、問題解消への手続きが迷走したことも痛手だった。何より、ホンダの中国販売を牽引してきたのが、CR-Vを中心とするSUVだったのだ。

中国市場で先行する日産に巻き返しを狙うトヨタ

トヨタは今年7月の現地販売が前年同月比18%増で、同月として過去最高だった。主力車「カローラ」、小型セダン「レビン」、SUV「RAV4」などの主力ラインアップが好調だった。また、中国政府が輸入乗用車の関税を25%から15%に引き下げたことで、日本から輸出している高級車ブランド「レクサス」シリーズの値下げを実施。レクサス車の販売台数は前年同月から4割近く増えた。

日産も7月は2%増で、同月として過去最高を更新したようだ。同社はセダン「シルフィ」や、昨秋に発売した中国専用ブランド車「ヴェヌーシアD60」の販売が好調だった。同社は日本メーカーの中で中国での販売台数が首位。昨年は12%増の152万台で、韓国・現代自動車を抜いてドイツのフォルクスワーゲン、米ゼネラル・モーターズ(GM)に次ぐ3位に浮上した。

昨年は、マツダや三菱自動車にとっても、中国が最大の市場となった。マツダは中国専用モデルのSUV「CX-4」が好調。米国での不振もあり、7年ぶりに中国での販売が最大となった。三菱自動車もSUV「アウトランダー」の現地生産を始めた影響で中国販売が大幅に増え、初めて最大の市場となった。中韓両国の関係悪化で現代自が失速し、日本メーカーが漁夫の利を得た側面もある。

日産とフランスのルノー、三菱自動車のアライアンス(企業連合)とトヨタグループは、世界販売で首位であるフォルクスワーゲンを追いかける立場だ。そこで重要な鍵を握るのが世界最大市場で成長も期待できる中国での販売。このため、トヨタと日産は中国での増産をもくろむ。

もともと、足もとは好調とは言っても、トヨタにとって昨年の129万台という販売台数は、決して満足できるものとは言えない水準。中国への本格進出が遅れたことで、世界首位を争うフォルクスワーゲンの418万台、日産の152万台に差をつけられているからだ。このため、トヨタは水面下で大幅な中国での増産を検討しているようだ。天津市などで増強計画を進めるとともに、広州市で新工場の建設を検討。21年には現在より3割以上多い年産170万台規模となる可能性がある。

日産も、湖北省武漢市に新工場を建設する方針だ。既存の生産拠点増強と合わせて、20年をめどに年産能力を3割程度増やす。

中国の昨年の新車販売台数は2900万台に迫り、2位の米国の1700万台を大きく引き離す。9年連続で世界最大の市場となっている。

中国市場における日本自動車メーカーの次の課題

新エネルギー規制への日本自動車メーカーの対応

ただ、中国は自国産業の育成を視野に来年、電気自動車とプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCV)といった新エネルギー車(NEV)規制を導入する。中国での生産台数の一定割合をNEVとしなければならないものだ。

日本メーカーも対応を迫られるが、トヨタなどが得意とするハイブリッド車(HV)はNEVに含まれない。スズキの撤退も、電動車戦略で出遅れたため、規制への対応が難しいことも一因になったとの見方がある。北京などの都市部では、ナンバープレートの発給枚数を制限し、NEVでなければ取得が非常に困難になっていることも、EVの普及を促している。日本以外の外資でも、米テスラやフォルクスワーゲンが中国での工場建設を計画している。

トヨタは昨年12月、EV向け車載電池分野でパナソニックと提携するとともに、それまで消極的だったEVに注力していく姿勢を明確にした。また、EVを市販していないが、「プリウス」などで培ったHVのモーターやインバーターなどの技術が、EVなどの電動車に応用できるため、技術的な優位性があると説明した。

今年4月の北京モーターショーで、NEVに含まれるPHEV2車種を公開するとともに、日本でも人気のSUV「C-HR」とその姉妹車「IZOA」のEVを20年に発売する方針を公表した。トヨタの中国本部長を務める小林一弘専務役員は「トヨタブランドにふさわしい高品質なEVをお届けしたい」と強調。これらに先立ち、現地企業との合弁会社広汽トヨタ自動車は今年9月中旬に、広州汽車ブランドのSUVのEV「ix4(アイエックススー)」を投入する。

そして日産は8月、合弁相手である東風汽車との合弁会社による現地生産が累計1千万台を達成したとして、中国・広州市の花都工場で記念式典を開いた。同時に、日産ブランドとして初めて中国でつくる電気自動車「シルフィ ゼロ・エミッション」の生産を開始。セダンタイプのガソリン車「シルフィ」は、同社の中国での主力車。その電気自動車モデルなら、知名度が後押しして販売好調につなげられるという狙いがある。

西川廣人社長兼最高経営責任者(CEO)は、「中国市場での成長は中期計画の中でも大きなミッション、目標です。世界最大の市場であるだけでなく、特にEVの普及・拡大において、今後、世界をリードしていくとみています」と、有望な市場であることを強調した。日産はヴェヌーシアや高級車ブランド「インフィニティ」のEV投入も計画している。

ホンダは年内に、中国市場専用として初のEVを投入する方針。同社の中国専用ブランド車「理念」のSUVをベースにしたEVになるようだ。

日本の自動車メーカーを待つのは茨の道か?

しかし、中国で販売を伸ばし、EVなどで規制をクリアしても、各社を待っているのは茨の道だ。EVは生産コストの大部分を車載電池が占めるため、収益性は低い。電池では日本メーカーも、急成長した電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)などの中国企業から調達することになるとみられる。対抗できる日本メーカーはパナソニックくらいで、市況が高騰した時などに安定調達できる保証はない。

外資の自動車メーカーは合弁会社を通してしか事業はできず、出資の上限は50%とされてきた。その規制は今年4月に撤廃される方針が決まったが、日本メーカーは当面、当局との関係などを重視し、現地企業との合弁による事業展開を続ける方針。経営の自由度が限定されたうえ、中国事業の収益をすべて得られる訳ではない状態が続くことになる。会計上も中国で得た利益は純利益に計上されるが、合弁事業のため本業の儲けを示すはずの営業利益には算入できない。

このほか、政策一つで日本勢がさらに不利な競争を強いられたり、現代自のように、外交関係の悪化が不買運動につながったりする懸念も拭えない。中国で好調な販売を続け、世界戦略の柱と位置付ける各社にとって、環境規制導入への対応は正念場となりそうだ。

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