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三菱自動車が日産自動車の傘下に。存在感示せなかった金曜会

軽自動車燃費データ偽装問題で揺れた三菱自動車。経営破綻懸念すらささやかれた中で、日産自動車が三菱自動車の株式34%を取得し、事実上日産傘下で再建を進めることになった。一方、具体的な対策を打ち出せなかった三菱グループの結束力の低下が浮き彫りとなった。文=ジャーナリスト/曽我武史

三菱自動車の支援に関し金曜会の力量不足を指摘する声

三菱自動車による燃費データ偽装問題が発覚し、5月から提携交渉を進める中、わずか2週間で基本合意に至る超特急の再生スキームを組んだ三菱自動車の益子修会長と日産のカルロス・ゴーン社長。その経営判断の速さが高く評価されることとなったが、その一方で、三菱グループは三菱自動車の支援に対し、一枚岩になれないほか、判断の遅さもあって、今回の問題で全く力を発揮できなかった。三菱グループの社長や会長でつくる「金曜会」に対し、力量不足を指摘する声も聞かれた。

5月の第2金曜となった13日。初夏を思わせるような晴天のもと、東京・丸の内の三菱商事本社ビルには、テレビ中継車も含め、数十人の報道陣が詰め掛けた。三菱自動車の燃費データ偽装問題が発覚してから、初めての三菱グループの主要29社の社長や会長でつくる「金曜会」がこの場所で開かれるからだ。

しかし、出席するメンバーは、社用車などで、マスコミが入れない商事本社ビルの地下駐車場に乗り入れ、報道陣との接触機会はなく、駐車場に出入する社用車を見守るしかなかった。“三菱村”ともいわれる丸の内に本社を置く企業も多く、金曜会には徒歩で会場に向かうメンバーも多いのだが、この日は事前に三菱商事サイドから各社に、「必ず社用車で直接地下2階の車寄せまで着けるように。マスコミとは絶対接触しないように配慮していただきたい」と通達していたためだ。

日本郵船の本社は、商事本社ビルに隣接しているが、そこに対しても、社用車を使うことを徹底させていたという。

これだけのマスコミ対策をしていたのは、三菱自動車が生き残るには、三菱グループの支援がなくてはならないとみられており、この日の金曜会での議論がどうなるかに注目が集まっていたからだ。だが、12日に三菱自動車と日産自動車の資本業務提携については既に発表され、三菱グループが何ら動くことができていないことが明確になってしまっていた。

金曜会に出席する三菱グループ企業も「寝耳に水」

今回、三菱グループによる三菱自動車の支援は、大きく出遅れた。

12日夕方、三菱自動車と日産の提携の事実を確認した金曜会に出席する三菱グループの経営トップは、

「今回の提携は寝耳に水。次回の金曜会でも、三菱自動車からどういった不正があったのか、分かる範囲で説明が行われる予定で、グループの支援をどうするかについては、調査委員会の結果を見てからということだった。それが、日産傘下のスキームになるとは、全く聞いていなかった」と話す。

ほかの関係者に聞いても、実施を含め、支援についての議論は進んでいなかったという。

金曜会にとって三菱自動車の支援は想定外だった

三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行の金曜会の主力3社、「御三家」では、三菱自動車の支援に対する考えが食い違っていた。

大急ぎで再生スキームをまとめた益子修・三菱自動車会長(右)とカルロス・ゴーン・日産自動車社長 Photo=佐藤元樹

大急ぎで再生スキームをまとめた益子修・三菱自動車会長(右)とカルロス・ゴーン・日産自動車社長 Photo=佐藤元樹

三菱東京UFJ銀行は「三菱ブランドをつぶすことはできない。問題は問題だが、最終的には救うことが必要になる」(関係者)とみていた。益子会長を三菱自動車に送り込んでいる三菱商事も救済する姿勢だった。

しかし、筆頭株主である三菱重工業の宮永俊一社長は「株主への説明責任などを考えて判断したい」と、決算発表会見で語るなど、否定的な姿勢だった。大型客船の建造遅れ、国産旅客機「MRJ」の納期遅れ、米国での原発賠償訴訟と“3重苦”を抱え、今後の中長期的な収益として期待していた豪州潜水艦受注にも失敗する中で、新たに三菱自動車支援に乗り出せる財務的な余裕がなくなっているからだ。

御三家の歩調が整っていない上、御三家以外のグループ企業からは、「三菱自動車とは取引もない」、「支援することに意味はあるのか」、「ステークホルダーを3度も裏切った三菱自動車を支援することは、自社の株主を説得できない」といった声も聞かれ、そもそも支援は想定外だった。そのため、支援については6月以降に議論することにして、明確な方針を出せないままになっていた。

その最中でいきなり発表された日産自動車の傘下入りによる再建スキーム。三菱自動車の経営破綻は避けられるめどがついた上、三菱グループ各社にとっては、資金的な負担を強いられることがない。事前に知らされなかったことに対しての不満は残るものの、日産自動車による支援は「渡りに船」という状況だ。

日産自動車の傘下となり、存続が危ぶまれるスリーダイヤブランド

ただ、三菱自動車再建や支援を三菱グループで実施できず、日産自動車主導となることで、「三菱ブランド」を守れるかという懸念も出ている。三菱の「スリーダイヤ」をコンシューマー向けに使用しているのは一部製品を除き、三菱電機と三菱自動車の2社の製品だけだ。日産自動車がスリーダイヤブランドに思い入れもない中で、国内で使い続ける判断をする保証はない。

また、2〜3週間で、再生スキームを決めた益子会長、ゴーン社長に対し、手をこまねいて具体策を出せなかった金曜会に対し、不快感を示すグループの旧経営者もいる。三菱自動車問題が、「三菱グループの鉄の結束力」の低下を示してしまったという、負の側面も浮かび上がる格好となった。

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