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劇的に進んだ日本の省エネ化 「最終エネルギー消費」が問う原発の存在意義

経済産業省が4月に発表した「2014年度エネルギー需給実績」によれば、「最終エネルギー消費」は前年度比3.2%減の1万3558PJ(ペタジュール:エネルギー量の単位)となった。エネルギー効率化と省エネ化が主な要因だが、この状況は原発の存在意義を問うことになりそうだ。文=ジャーナリスト/横山 渉

4年間で大きく進んだ日本の省エネ

 最終エネルギー消費とは、発電所などで作り出された時点でのエネルギーではなく、工場やオフィス、運搬や家庭で実際に消費されたエネルギーのことをいう。

 原油や石炭、天然ガスなどの各種エネルギーは最終的に、電気や石油製品などに形を変えて消費される。この際、発電所や石油精製工場などの発電・転換部門ではロスが生じるが、そのロスまでを含めて国全体が必要とするすべてのエネルギーの量を「1次エネルギー供給」という。

 最終消費者に供給されるエネルギー量は、発電・転換部門で生じるロス分だけ減少することになるが、1次エネルギー供給を100とすれば、最終エネルギー消費は69程度といわれる。

 東日本大震災前の2010年度、最終エネルギー消費は1万4698PJだが、これに比べて14年度は1140PJも減っている。これは、100万kWh級の発電所約36基分に相当する。

 発電所が作り出すエネルギー量を「1kWh=3・6MJ(メガジュール)」として計算したものだが、これはあくまで理論値であり、1140PJすべてが電気の削減分ではないため、単純に36基分の発電所が不要になったということではない。しかし、震災の影響があったとはいえ、4年間で省エネ化が格段に進んだことだけは間違いない。

原発停止するも省エネにはまだ余地あり

 では、主にどんなエネルギーの消費が減ったのか、あるいは増えたのか。

 1次エネルギー国内供給は、10年度比9・5%減となった。14年度はすべての原子力発電所が稼働停止したことにより、原子力の比率はゼロ。そのマイナス分を補ったのは19・3%増の天然ガス(LNG:液化天然ガス)と2・7%増の石炭だった。また、再生可能エネルギー(自然エネ+地熱)も15%増えている。原発停止による燃料転換が進んでいることが分かる。

 日本は1970年代の2度の石油ショックを契機に、製造業を中心に省エネ化が進んだ。90年代はエネルギー消費が増加したが、2000年代には再び原油価格が上昇して、04年度をピークにエネルギー消費が減少傾向になった。日本の省エネはかつて「絞りきった雑巾」とされ、これ以上は難しいと言われた時代が長く続いたが、自然エネルギー財団の大野輝之常務理事はこう語る。

 「震災後の大幅な電力削減は、絞りきった雑巾論が少なくとも電力については全く誤りだったことを証明した。エネルギー機器利用の最適化、高効率設備の導入など、賢い節電が行われるようになっている」

 大野氏は特に製造業で、まだまだエネルギー効率の改善が可能だと指摘する。

 「経産省の省エネルギー小委員会に提出された資料には、『ボイラーの配管などに用いられる断熱材の劣化により、製造業のエネルギー消費の10%以上になる大きな損失が生じている』という指摘がある」

 今後、どのくらいまでエネルギー消費を減らすことができるのかの見通しについては、「当財団では30年度の年間電力需要は、10年度比で30%削減して7725億kWhにできると試算している。熱や燃料を含むエネルギー消費全体については、日本経済研究センターが14年11月に公表した試算で、50年度までに10年度比で40%削減できるとしている。国立環境研究所も30〜40%の大幅削減が可能と試算している」と言う。

 また、国全体の省エネ推進と経済成長についてはこう語る。

 「経済成長にはエネルギー消費の増加が必須、というのが伝統的な考え方。しかし今日では、効率化により経済成長とエネルギー需要の増大を切り離す『デカップリング』の考え方が国際的に主流になっている。エネルギー消費を削減しながら経済成長の実現は可能ということだ。EUは30年までにエネルギー効率を少なくとも27%改善することを目指している。省エネ化は新たなビジネスを生み出すので経済成長を可能にする」

 

原発より再生エネ比率引き上げで効率化を

 昨年12月、パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)は、20年以降の地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を採択した。これにより日本は温室効果ガスを「30年度までに13年度比で26%減」が国際公約となった。

 温室効果ガスの排出は化石燃料(石炭、天然ガス、石油)の発電時によるものが大部分を占める。政府は再生エネと原発の比率を現状よりも大幅に引き上げて目標達成を目指そうとしている。

 しかし、原発の「40年廃炉基準」を適用した場合、すべて再稼働できたとしても電力構成に占める原子力比率は15%程度までにしかならない。原発再稼働の見通しが立たない以上、再生エネ比率の大幅向上こそ現実的な手段のはずだ。

 そして、エネルギー効率化はエネルギー需要増大に対して最も安価・容易でクリーンな対応策であり、「隠れた燃料(hidden fuel)」と呼ばれていることを再確認したい。

 
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