経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

インドビジネス界に浸透する「カルマ」と「キスマット」

マインドセットの理解がインドビジネス成功の鍵

 インドにおいてビジネスで成功するためには、インド人のビジネス上のマインドセットを十分に理解しておくことが重要である。インド人の担当者、取引先、同僚や顧客と友好な関係を構築するには、インド人のビジネス上のマインドセットを理解することが必要だ。それを理解していれば、インドでビジネスを展開する上で、競争上の優位に立つことができ、ビジネスを成功に導くことになる。

 カルマ(Karma)は、インドでは決して関心が失われることのない言葉である。何であれ自分が蒔いた種は、自分で刈り取らなければならない、という意味である。カルマとはヒンディー教や仏教の哲学で用いられたサンスクリット語で、結果を引き起こす「行い」を意味する。カルマの因果の法則は、ヒンディー教の哲学において不可欠な要素である。

 死後の世界を信じるヒンディー教の哲学においては、個人のカルマが良ければ来世で報われて、カルマが良くないと、人は退化してより下位の生命体に堕落する、という教義がある。良いカルマを手に入れるためには、ダルマ(dharma:正しい行い)に従って人生を送ることが重要である。

 キスマット(Kismat)とは、カルマによって決まる宿命や運命のことである。キスマットは、過去の人生における度重なる行い、振る舞い、考えの結果である。言い換えれば、両者はコインの両面のようなものである。カルマが積み重なって現世のキスマットになる。

 このように、カルマとキスマットはインドの道徳的哲学において中心的な機能を果たす。道徳的哲学は、悪いカルマにつながるような行いや欲望を慎んで道徳的な生活を送り、生と死のサイクルから抜け出るための主な動機付けとなる。言い換えれば、インドにおける皆の共通の目的は、宇宙の正義によってもたらされた苦しみから脱出することである。

 よって、「無カルマ」という態度を取ることが長い間の習わしであった。もし「無行為」ならばそれに対する結果が生じる余地がなく、悪行によるカルマを避けることができるという意味である。しかしながら、カルマは行いの結果であるので、とてもそれを避けることはできない。無カルマとは無行為を意味せざるを得ず、無行為とは食べることも含めて完全に何もしないということである。この考えや規律は、簡素な食生活という意味での菜食主義等いくつかの単純な実践から始まった。厳しい食習慣とは多くの感情に打ち勝つことを意味する。断食、非暴力およびヨガなどはすべて何らかの方法による脱離か、または救済の過程である。あらゆる罪から解放されるということは、あらゆる心理状況において自己統制するということである。

古代インド人の発明が世界貢献に果たした役割

 厳格なカルマ規律を実践していた古代インドの人々は、知識を得るために非常に論理的かつ批判的に思考する人たちであった。彼らの功績をいくつか挙げると、占星術、数学、アーユルヴェーダ(医学)などの発明による世界に対する貢献がある。古代の批判的思考の目的は外面ではなく、内面に向けられていたということ、そして、思考者や観察者はあらゆる存在の実在の本質を観察することによって成果を得るよう規律付けられていた、ということになる。彼らは、一瞬の詳細に注意を払い、組織立ってあらゆる問題に究極の答えを得られるようにした。それらは今日においても重要である。インドの伝統的な批判的思考は、伝統的な教育制度に端を発すると分析する者もいる。理性的な物の見方である。それはわれわれが信念を持って自らの責務を果たす源になっている。

 現代インドにおいても、人々はほとんどの場合カルマとキスマットの哲学を日々の暮らしにおいて信奉かつ実践しており、それが彼らの仕事の多くを決定している。しかし、その実践は、かつては過度な負担を掛け、歴史的苦悩と結びついた多くの転換があった。それ故、インドの伝統的な批判的思考において多くの怠惰さを生じさせた。現代のインドの教育は、人を知的にするかもしれないが、賢くはしない。伝統的な知恵は、人格、社会的意識、自己認識、人的価値そして、善悪を判断する助けとなる良心、ならびに悪よりも善を選ぶことのできる独立した意思といったものによってもたらされる。

 カルマやキスマットにも物質的な考え方が存在しているが、それらは基本的に正反対のものである。だが、最近ではインドでは変化も見られる。多くの人がインド人は批判的思考に欠けていると言うが、現代インド人には上昇志向があるところ大きく異なる点だと思う。

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