スマートフォン向けコミュニケーションアプリを提供するLINEが7月中旬、東京とニューヨークの証券取引所に上場する。調達資金を海外展開の強化に充てたい考えだが、過去の上場延期により絶好のタイミングを逃したほか、「成長ストーリーが見えにくい」との批判もある。
手堅すぎる戦略に疑問符
東証は6月10日にLINEの上場を承認した。市場区分はまだ決まっていないが、東証一部になる見通し。想定発行価格から割り出した時価総額は約6千億円。時価総額6千億円前後の企業には、山崎製パンや西武ホールディングス、ファミリーマートなどがあり、LINEも主要上場企業の仲間入りを果たす。
ニューヨーク証券取引所にも同時に上場する。東証が上場を承認すると、LINEは「今回、アジア市場での優位性を確固たるものにし、また、グローバル展開により一層積極的に取り組んでいくべく、新たな挑戦として、日米両国において新規上場を行う」とのコメントを発表した。
新規上場はゴールではなく、これからどう成長するかを示し、将来の株価上昇を期待する投資家に、株を買ってもらう必要がある。
LINEの国内利用者は既に約6800万人。日本では、スマートフォンでアプリを使う人のほとんどが既にLINEを使用しているとみられる。今後の伸びしろは新たなスマートフォンの購入者などに限られており、大幅な拡大は難しい。このため、「グローバル展開」に注力するのは当然の成り行きだ。想定発行価格の1株2800円から算出した資金調達額は約1千億円で、その大部分を海外展開強化のための投資にまわすとみられる。
ただ、LINEと似たサービスは、月間利用者が世界で16億人を超えるとされる米フェイスブックなど、世界のSNSの巨人も子会社を通じて強化している。アジアでも中国のテンセントという強豪が立ちはだかる。
このため、LINEは前述のコメントどおり、「優位性」のある市場をさらに強化することに重点を置く。日本のほか、タイ、インドネシア、台湾など高いシェアを有する地域で地位を固めるということだ。
これらの地域では、それぞれに合った「ローカライズ」を行ったことが強みになっている。例えば、タイでは飲食店やコンビニエンスストアからの宅配サービス、動画配信を手掛けるなど、新しい取り組みを進めていく。
市場関係者からは「全く無名な米国での上場には無理がある」との指摘もあるが、「ニューヨーク証券取引所に上場している会社」という各国で使える“看板”を得ることで、グローバル展開を少しでも有利に運びたいとの考えがLINEにはある。
もっとも、日本を含むシェアの高い4カ国に注力するという方針は、手堅いものの、世界で飛躍するというイメージを生み出せるものではない。投資家の人気をどれだけ集められるかは不透明だ。
試される真の実力
上場承認とともに提出した届出書によると、2015年12月期決算は売上高こそ40%増の1206億円となっていたが、買収した音楽ストリーミング事業に失敗した損失などの影響で、純損益は79億円の赤字に沈んでいた。
もともと、LINEが上場を申請したのは14年で、承認は2年越しだ。長引いた理由は明らかにされていないが、親会社である韓国のIT企業ネイバーが、LINEの支配権を維持する枠組みを求めていたことなどが背景にあったようだ。
例えば、ネイバーが保有するLINE株については、他の株に比べて数倍の議決権を有する「種類株」を導入する仕組みなどが提案されていたようだ。しかし、一般株主の権利を侵害する枠組みでの上場は、東証にとっては認めがたい。結局、LINE側はこの方針を撤回せざるを得なかった。
さらに、重要な収益源となっているゲームについて、資金決済法をめぐる関東財務局との攻防があったことも、上場が遅れた要因となった可能性がある。
同法では、ゲーム内で「通貨」の働きをするものは、財務局に届け出て、未使用額に応じて保証金を供託する必要がある。経営不振などでそのゲームの運営が続けられなくなったとき、未使用の通貨を持っている利用者を保護するためだ。
LINEはパズルゲームで、通貨に似た働きをするアイテム(道具)を登場させたが、通貨ではないとして届け出をしなかったため、財務局と意見が対立。結局、財務局が通貨と認定し、LINEは供託金を支払うことになった。
LINEの上場が取り沙汰された14年はまだ、日銀の大規模な金融緩和の効果などで、株式市場は活況だった。当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったLINEが上場すれば、時価総額は1兆円を超えるとの観測も広がっていた。
ネイバーとLINEの経営陣はこの好機を逃したと言えそうだ。中国経済の減速や原油安などを背景に右肩上がりだった株式市場は停滞。さらに、国内での利用者獲得の一巡などで、LINEの成長も鈍化してしまった。事業上、LINEと関係のある企業の株も上場承認を受けて堅調だったが、一部では既に人気が剥落してきた。
国内ではもはや、知らない人はいない化け物アプリに育ったLINEだが、成長への道筋を描き、実行していかなければ未来は暗い。上場を機に、真の実力が試されそうだ。
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