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イチローの「世界記録」にピート・ローズが噛み付く理由

イチローの「世界記録」に対するローズのコメント

 「日本では私をヒットのクイーン(2番)にしようとしている。次はハイスクール時代のヒットまで加えるんじゃないか」

 イチロー(マーリンズ)が日米通算4257安打を達成した時のピート・ローズのコメントである。

 ピート・ローズとは1960年代から80年代にかけて通算安打や最多試合出場などメジャーリーグの数々の記録を塗り替えた名プレーヤーだ。

 私たちの世代の人間にとっては“ビッグ・レッド・マシン”の異名をとった頃のレッズ時代の雄姿が懐かしい。

 75、76年のワールドシリーズ連覇はローズの活躍なくしてあり得なかった。闘争心むき出しのヘッドスライディングは、ローズの代名詞だった。

 78年には日米野球で来日し、メジャーリーグと変わらぬハッスルプレーを演じた。そのため、日本にも多くのローズファンがいる。

 通算4256安打のメジャーリーグ記録を保持するローズにすれば、この「世界記録」が面白くなかったようだ。

「日本だけでローズの記録を抜くのは難しい」と語ったイチロー

 ローズの発言を受け、イチローは言った。

  「それはうれしいんですけど、難しいところですねえ。(日米で)合わせた記録というところが。だから米国でローズの記録を抜く選手が出てほしいし、それは(デレク・)ジーターみたいな人格者であることが理想。

 もっと言えば、日本だけでピート・ローズの記録を抜くことが恐らく一番難しいと思うので、これを誰かにやってほしい。とてつもなく難しいことですけど、それを見てみたいですねえ。

 だから、日米合わせた記録とはいえ、生きている間に見られて、ローズはちょっとうらやましいですね。僕も見てみたいです」

 イチローが、日本だけでローズの記録を抜くことが一番難しいというのは一理ある。

 メジャーリーグのレギュラーシーズンが162試合制であるのに対し、NPBは143試合制。イチローがオリックスに所属していた頃は最大で135試合だった。

 イチローがこだわった年間200安打以上にしても、日本では94年の1回だけだが、メジャーリーグでは移籍した2001年から10年連続で達成している。

 もし日本で210安打(当時のNPB記録)をマークした94年からメジャーリーグでプレーしていたら、200本近く上積みされていた可能性がある。

 とはいえ、こうした仮説はメジャーリーグでレギュラーを張ることを前提としている。言うまでもなく走攻守揃ったイチローだから成り立つ話である。

通算安打の世界記録論争はローズも歓迎?

 通算安打記録に隠れてあまり目立たないが、6月2日(現地時間)には日米通算700盗塁をマークしている。

 その時のコメントが振るっている。

 「僕はどれもできなきゃいけない選手だから。どれかできない選手がそれをやった時は特別になると思いますがね。僕は全部やりますから」

 10月には43歳になる。本人は「50歳までプレーする」と語っているが、それもあながちジョークとは思えない。

 ところで4257安打達成の翌日のスポニチ紙に、イチローの興味深いコメントが紹介されていた。

 「(バリー・)ボンズに聞いたら(ローズは)すごいいいやつだとかって言うから。でも、それは書かないであげてほしいんだけど。演じてる可能性があるからね。営業妨害になっちゃうから」

 思い出すのは昨夏のオールスターゲームだ。古巣シンシナティでのセレモニーに出席したローズの背に拍手と、ほぼ同等のブーイングが降り注いだ。

 地元でありながら、多くのファンはいまだに野球賭博への関与を許していなかったのだ。89年にメジャーリーグを永久追放となったローズは復権を求めているが、現・コミッショナーのロブ・マンフレッドはそれに否定的だ。

 そんなローズにとって、今回の通算安打記録論争は、もう1回、自らの偉大な記録に光が当たったという意味において、まさに願ったりかなったりだったろう。

 少々、過剰とも思える反応の裏には、復権への足掛かりにしたい、との思いもにじむ。

 ちなみにメジャーリーグで通算3千安打以上を記録している選手はローズを筆頭に29人いる。29人中25人がホール・オブ・フェイム(野球殿堂)入りを果たしている。ローズは部外者だ。

 「殿堂に入れるなら素晴らしいこと」

 ローズはそう語っているが、その見通しは立っていない。

 ちなみにメジャーリーグでの殿堂入りは、全米野球担当記者協会の投票によって決められる。

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

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