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安倍自民党憲法改正へ次の一手は12月解散?

意外に効果を発揮した野党共闘への危機感

参院選が終わった翌日の月曜日の朝。選挙では圧倒的な強さを見せる東京の自民党中堅衆議院議員のマイクを握った姿が、選挙区内の駅頭にあった。

「参院選では自民党候補の支援をありがとうございました」

話は参院選のお礼で終わらなかった。安倍政権が公約で示した景気対策、子育て支援、介護などを必ず実現して行くとその道筋を訴えていた。

そして、驚くことにこの議員は2週間が過ぎた今も、毎朝駅頭に立っている。参院選に勝利して多少は気を抜いてもよさそうなこの時期になぜそこまでやるのか――。私がそう問うと、こんな答えが返ってきた。

「参院選は本当に与党の圧勝だったんでしょうかね。私はむしろ危機感を持ちますね」

選挙区を常日頃から徹底して回っている彼は世論には鋭敏だ。

「マスコミは改憲勢力で3分の2、だから圧勝と報じていますが、1人区で11議席も落とした。共産党と民進党の協力がうまく行くはずがないとタカをくくっていましたが、野党協力をなめてはいけないということです。落ちた現職大臣2人も、安倍政権の重要な政策の柱の『沖縄』と『原発』ですからね。緩んでいたらしっぺ返しを食います」

さらに、今回1人区で見せた野党統一候補について、実は民進党と共産党との間では衆院選の小選挙区でも同じように協力の話が進んでいる。共産党幹部は「295の小選挙区のうち、220でうちは引いても構わない。覚悟はできている」と言う。

安倍首相周辺も、今回の結果をむしろ厳しく見ているという。選挙を知り尽くしている冒頭の議員や官邸中枢など、選挙を分かっている人間ほど、今回の結果を重く受け止めているのだ。

イラスト/のり

イラスト/のり

「野党共闘はうまくいかないと甘く見ていましたね。せいぜい落としても4つぐらいだと。しかし11落とし、実を言うと投開票ギリギリまでさらに3つぐらい落としてもおかしくなかった。アベノミクスの恩恵がなかなか降りてこないことや、TPPに反対の地方で野党の受け皿が成功しているのが現実です。その野党共闘が次の衆院選でも水面下で進みつつあるのだから手を打たなければと総理も分かっているはずです」(首相側近)

一方で、安倍首相にとっては悲願の憲法改正に向けて、残り任期、いよいよ勝負に出ることは間違いないと見ていいだろう。

参院選は自民党56議席、公明党14議席、おおさか維新7議席、それに非改選の無所属など改憲へ前向きな勢力で、発議に必要な3分の2を確保した。衆議院は既に改憲勢力が3分の2を確保している。

「環境は一応整った。総理は国対や党幹部に指示し、早ければ秋の臨時国会で憲法審査会の議論に入るでしょう。審議時間や国民投票まで考えればゆうに1年半から2年はかかる。安倍首相の総裁任期は2018年9月までですから、早々に始めるのではないでしょうか」(自民党国対中堅幹部)

憲法改正をめぐり次の政局が始まる

ところが、ここへきて耳を疑うような「解散」情報が首相周辺から流れてきた。憲法改正へ向けて、既に3分の2という数がある衆議院のほうをわざわざ早期に解散させるのではないかというもの。そしてそこには、安倍首相の「本気度」と「任期ギリギリではなく一気に進めたいという狙い」があるという。

ある自民党ベテラン議員が、首相に極めて近い側近から聞いた話としてこう語った。

「衆参で数があっても最後に決まるのは国民投票だと首相は強く意識し始めた。衆参それぞれで3分の2で発議しても、国民投票で過半数の賛成がなければ達成できない。そこで、支持率も高い今解散して圧勝し、憲法改正のプレ国民投票として最初にお墨付きをもらう。そうすれば、今後やや慎重な公明党や改憲論議に応じない姿勢の民進党などに対しても、『総選挙で国民の改憲の支持は得ている』という口実でねじり伏せてどんどん進められる。最後の国民投票も当然そのままの流れで過半数は確保できるというシナリオをイメージしているらしい」

その場合の解散日程は……。

「その側近は、早ければ今年12月の可能性を話していた。この秋にかつてない大規模景気対策を打ち出し、北方領土問題でプーチン大統領の来日などで成果を得て選挙を有利に戦う。そもそもこれまで2回の総選挙はいずれも12月で大勝。暮れの忙しいときの投票率は上がらないから組織票がある自公が強い。12月なら再び改憲勢力3分の2を確保できると自信を持っているんだろう」(同ベテラン)

ただ冒頭のように、参院選で一歩進んだ野党共闘が衆院選で進化する可能性も出てきた。緊迫の憲法改正をめぐる次の政局が始まろうとしている。

現実味を帯びてきた時間差ダブル選挙

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