自治体の中でも際立つ東京都の特異性
この夏、激震が続いた東京都政。政治とカネの問題で舛添要一前都知事の辞任劇に揺れ、出直し選挙では小池百合子氏が圧勝し、初の女性都知事となった。
小池氏は、東京都政を改革し、都政にまつわる既得権を打ち破るとうたって、291万票もの大きな支持を得て当選した。
だが、絶大な支持というものは、公約を果たさなければ一気に期待外れの逆風となり、時として批判の大合唱へと変わる。
小池氏が挑む敵について、多くのメディアが「都議会自民党」「自民党東京都連」など政治的な利害関係先をいの一番に挙げているが果たしてそれだけか。小池氏も百戦錬磨の政党人。政党との政治的な駆け引きはウインウインの折衝が展開されていくのではないか。つまり、両者が互いにけん制し合いながらも、現実的な落としどころをつくる。現に、小池氏らに対する自民党の処分も曖昧なまま進んでおり、小池氏も、官邸や自民党本部などとは協調関係を築きつつある。
私は、むしろ、「強敵」として厳然と小池氏の改革の前に立ち塞がるのは、「東京都」という地方自治体組織そのものではないかと思っている。都道府県の中でも「東京都」の特異性は際立っている。そこでの不文律や慣習を変えるのは容易ではないのだ。
まずは、予算について挙げてみたい。
舛添前知事が辞任した直後に、今度は追及の急先鋒だった都議会の海外視察費がデタラメであることが明らかになった。リオデジャネイロで開かれたオリンピック・パラリンピックに議会の視察団を送る計画で、渡航費用は当初6200万円の予算が確保されていた。ところが、都議会は今年4月、視察団の人数を増やすことを決定した上に、現地はホテルなどが既に満杯で数が少なった分宿泊代は高騰するとして「予算総額1億円を超える可能性が出てきた」(議会局)ことが明らかになったのだ。
一連の舛添氏の高額の渡航費、ファーストクラスやスイートルーム使用といった問題の本質はここにあった。舛添氏個人だけでなく、「東京都は全国に例がない裕福な自治体で、予算に対して知事も、議会も、職員もみんなが甘い」ということなのだ。
ある都庁OBが告白する。
「東京都は、大企業の本社が集積し、人口も多く税収は十分。都道府県では、国からの交付金をもらっていない唯一の自治体です。お金が十分にあるから、税金という意識が薄れ、管理や感覚が甘くなる」
東京都の年間予算は一般会計・特別会計など合わせ約13兆円。これはスウェーデンの国家予算と同じ、アジアの国などと比較するとはるかに上だ。
「今回の議員の視察の6200万なんて大した額ではありません。しかもそれが1億円になっても簡単に予備費でカバーできる」(別の都庁OB)
巣くう「金満病的体質」と「都庁官僚」の存在
全国の自治体は、どこも少子高齢化や不況で税収が少なく財政も厳しい。知事や市長らは、出張の際など常にホテルはビジネスにするなど当たり前。だが東京はその必要がないのだ。
アメリカで金持ちの子息が交通事故で人を死なせても何とも感じず、裕福な環境で育ったことで善悪の判断がつかないことを「金満病」と言うらしい。都庁はさしずめ「政治的金満病」の土壌といったところか。
また、「都庁職員たち」も強大だ。彼らは地方公務員だが、マスコミの間で「都庁官僚」と呼ばれている。
「都庁職員は霞が関の役人並みの力があるということです。予算は国家予算並み、首都として強大な権限も持つ東京を牛耳っているのが都庁職員」(総務省OB)
都庁OBは、「都庁官僚」たちの結束の強さの裏には、「天下り」を軸にした人事があることを挙げる。
「東京には大企業の本社があって都庁がさまざまな許認可権を握っています。当然再就職の受け入れ先になってくれる。辞めたあとにはまた誰かが行く。行きたい人は上のいうことを聞きながら待つ――。都庁の人事部局が調整してそうやってOBから現役へといつまでも上下関係が続くのです。さらにこの脈々と続くラインを通じて企業や業界に慮った政策的な指示が下りてくることもあるのです」
「都庁官僚」は過去、知事に対してどんな対応をしてきたか。
「都庁職員は絶対的安定とともに、各種権限の行使者でもある。知事にはうまく合わせて、一つや二つ、政策的な華を持ってもらえばいい。結局、都庁の主役は自分たちという意識が強いんです」(前出OB)
こうした「金満病的体質」を打ち破り、「都庁官僚」の岩盤をある時は壊してでも都民のための政策を進められるのか。小池氏の試練はこれからだ。
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