インバウンドを引き付ける昇龍道
モノづくりに関しては他地域の追随を許さない中部地区。その一方で、第3次産業、中でも観光産業はこの地区の弱点だ。前ページの波多野・中部経済産業局長の言葉にあるように、「名古屋は素通り」されていた。これは国内観光、インバウンドを問わない。また名古屋市に関しても「名古屋城以外見るものがない」と言われることがしばしばで、地域全体の魅力が乏しいと言われてきた。
果たしてこれは本当なのか。
○2011 82万人
○2012 92万人
○2013 110万人
○2014 134万人
○2015 194万人
これは、過去5年のセントレア(中部国際空港)の外国人利用者の推移だ。これを見ても分かるとおり、利用者は倍増している。もっとも日本全体では11年に1433万人だったものが15年には3916万人で、伸び率はセントレアを上回る。空港別外国人旅客者数ランキングでも、セントレアは14年まで5位につけていたが、昨年は那覇空港に抜かれて6位に転落した。
しかし悲観する材料ばかりではない。14年の訪日外国人消費動向調査ではインバウンドの訪問地について結果が出た。
①東京・大阪の2大都市圏のみの観光客は44%、地方を訪問した観光客は56%、そのうち地方のみを訪問した観光客は28%、②地方のみを訪問した観光客の行き先は北海道や九州、沖縄が多く、2大都市圏と地方を訪問した観光客は中部地方への訪問率が高い。
つまりインバウンドの多くが、東京および大阪の次に中部地区を訪問している。
昇龍道を訪れる人たちの増加は、それを裏付ける。昇龍道とは、能登半島の形が龍の頭に似ており、龍が昇っていく様子を思い起こさせることから、中部北陸地域の観光エリアを「昇龍道」と名付けたもの。自然や歴史文化・建造物、伝説や祭りなど、盛りだくさんの観光スポットに恵まれ、日本の魅力が凝縮されたこの地区を戦略的に売り出していこうというプロジェクトで、「ドラゴンルート」「ノスタルジックルート」「ジュラシックルート」など、6つのコースからなる。
その人気を示す数字がある。昇龍道は愛知、石川、岐阜、滋賀、静岡、富山、長野、福井、三重の9県にまたがるが、この9県の外国人延べ宿泊者数は11年と15年を比較すると4・2倍に増えている。東京や大阪の伸びが3倍台にすぎないことからも昇龍道がインバウンドから注目されていることが分かる。
忘れてはならないのは、昇龍道を訪れるインバウンドが増えたことで、この地区の良さが日本人の間でも再認識されたことだ。9県の延べ宿泊者数を見ると、外国人だけでなく日本人客も増えている。昨年の北陸新幹線開業も重なり、多くの人が中部地区を訪れるようになった。
地元の魅力を知らない地元民
昇龍道だけではない。中部地区は実は観光の宝庫でもある。自然に恵まれているだけでなく、歴史もある。昨年、遷宮が行われた伊勢神宮はもとより、名古屋は戦国時代に天下を取った3人の英傑の出身地でもある。日本文化が海外でも知られるようになるにつれ、サムライ文化に興味を持つ外国人も増えている。そういう人たちにとっては、名古屋は憧れの地でもある。
今年、名古屋城の本丸御殿が復元された。書院造の建物の内部は、戦火によって消失する前の障壁画を復元模写するなど、江戸時代のたたずまいをそのまま再現している。ここには多くの外国人観光客も訪れる。
愛知県訪日外客動向調査によると、愛知県を訪れた外国人観光客の51%が名古屋城を訪れている。悪く言えば「名古屋城以外見るものがない」ということになるが、本当は、見る価値のある城だと外国人は認識している。名古屋城の天守閣は本丸同様、空襲で焼失、戦後、再建されたものだが、その姿形の評価は高い。ところが、その評価の高さを、名古屋人や愛知人が気付いていない。そしてそのことが、多くの人が指摘する「PR下手」につながっている。
もちろん各自治体とも、インバウンドを増やす努力を惜しんではいない。例えば愛知県なら、大村知事のインタビューにあるように、昨年を観光元年と位置付け、PRするためのバッジまで制作し、知事自ら売り込みに余念がない。しかしそれがどれだけ伝わっているのか。東京や大阪と違いメディアが少ない、東京経由でしか海外への情報提供ができない――といった弱点もある。逆に言えばこれを克服できれば、中部の観光地を、もっと強く世界に発信できる。
今ではインバウンド向けのサイトは数多くあり、多くの旅行者がここから情報を得て、目的地を決めている。そうしたサイトのひとつに「Deep Japan」がある。これは、在日外国人が、旅行で日本を訪れた人たちにアドバイスするサイトだが、このサイト昨年の人気記事トップ20を見ると、1位が100円ショップガイド、2位が東京の地下鉄で、以下、富士山・河口湖、イチオシ文房具、秋葉原と続く。残念なことに、富士山を除くとトップ20の中に、中部に関することは何一つ入ってこない。
楽観的な見方をすれば、それだけまだ伸びしろがあるということでもある。創意工夫次第で、インバウンドの数は今後も増えていく。中部各県の観光ビジネスへの取り組みは緒に就いたばかりだ。
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