製品・サービス寿命の短命化や企業戦略のグローバル化など、事業環境の変化によって転職市場の常識が変わろうとしている。情勢の変化を追い風に、事業拡大を目指すのがヘッドハンティング事業を手掛けるプロフェッショナルバンクだ。
ミドル層の転職チャンスはなぜ増えているのか
突然職場に掛かってきた電話。話を聞くとヘッドハンターだと言う。即戦力として、とある会社に自分を紹介してくれるとのこと。ヘッドハンターを名乗る男に実際に会うと、保証金を支払わされて、結局持ち逃げされた….。
この手の詐欺は昔からよくある話で、部課長クラスの人材もよくターゲットにされた。騙された人は、「そもそも役員でもない人間に、本物のヘッドハンターが興味を示すはずもない」と後悔したかもしれない。世間では、ヘッドハンティングはエグゼクティブクラスの人材が対象という認識がいまだに強い。
だが、時代は変わった。今やエグゼクティブでなくても、プレイングマネージャーなどミドル層人材へのヘッドハント需要はますます高まっている。こうした人材を対象に、10年以上前からヘッドハンティングの事業を手掛けるプロフェッショナルバンクの兒玉彰社長は言う。
「リーマンショック以降、特にここ数年で環境は大きく変わりました。もともとわれわれはビジネスプロフェッショナルを市場で流動化させるインフラをつくりたいという思いで創業したのですが、ここまで市場が大きくなるとは思っていませんでした」
背景には、あらゆる業界で商品・サービス寿命が格段に短くなっているという事情がある。
例えば、競合の製品を分解、解体して分析するリバースエンジニアリングという手法があるが、自社製品の開発に生かすには既に手遅れといったケースも多い。それよりずっと前の段階で、最先端の製品開発を手掛けている技術者が欲しい、といった要求が多くの企業で増えているのだ。
崩壊する「転職35歳限界説」
SNSをはじめとするインターネットの発達も大きい。
プロフェッショナルバンクでは、人材紹介会社などに登録せず、転職する意思がない人材もヘッドハンティングの対象としている。そこで重要なのが、顧客企業の要求に対してどれだけマッチする人材を探し出すかだが、SNSなどの活用によって、情報が以前と比べ非常に集めやすくなったという。
こうした変化に伴い、長く唱えられていた「転職35歳限界説」も今や崩壊。日本社会の少子化で35歳以下の層が減少したため、この層だけを対象としていたのでは、企業戦略とマッチする人材を探しにくくなっているからだ。
「今は求職者より案件の数が多く、引く手あまた。圧倒的に需給バランスが崩れています。当社の場合、転職決定者の平均年齢は40歳前後。年収のボリュームゾーンは800万くらいですが、中には600万円台の方もいます。以前と比べると転職チャンスは非常に多い状況です」
と、兒玉氏は話す。
経営課題解決のための採用
プロフェッショナルバンクには、転職市場に出てこない人材を探す専任のリサーチャーの数が、ヘッドハンターの2倍程度いる。SNS以外にも、業界紙や専門誌、人事・特許情報、口コミなど、ありとあらゆる手段を使って、顧客企業のニーズにマッチする人材を探すという。こうした丹念なリサーチが、顧客のリピート率62%という実績につながっている。
対象となる人材が決まったら、次はヘッドハンターによるアプローチだ。そもそも転職意思のない人材をその気にさせるのは非常にハードルが高い。
そのため、まずは対象者が何を考えているかを丁寧に聞き出し、状況を顧客企業にフィードバックする作業を繰り返す。もともと転職希望の人材を相手にする場合、転職決定までの期間は1~2カ月程度だが、最初のアプローチから半年程度掛かることが多いという。
ヘッドハンティングと言えば、ターゲットに決めた人材を1本釣りするイメージが強いかもしれない。
だが、プロフェッショナルバンクでは最初に対象を数十人、数百人といった規模でピックアップし、顧客との話し合いを通じて徐々に絞っていく。重要なのはあくまで顧客の経営課題の解決であり、人材獲得はその手段という位置づけであるため、採用プロセスで必要な人材の特徴や人数が変わる、または採用以外の方法で解決法を見出すケースも珍しくないという。
「人事部でなく経営企画部や経営層がわれわれのカウンターパートナーになる案件も数多くあります。M&Aでは課題が解決できないから、人材採用で解決したいというケースもあります」と言う兒玉氏。今後の課題について尋ねると、
「ミドル層のヘッドハンティングは今後も需要が増えると思いますが、まだ一般的ではないので、いかにマーケットに知らしめるかが課題です」
とのことだ。
業界や国境をまたいだ事業展開がかつてないほど盛んになっている今、転職事情も大きく変わっているようだ。
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