国の原発事業で巨額の損失計上が発覚し、東芝が債務超過に陥る可能性が出てきた。期末の3月に向けて、自己資本増強のために事業売却などグループの解体が進む流れになっている。その一環として、稼ぎ頭であるメモリ事業の分社化と一部資本の受け入れを決定した。文=本誌/村田晋一郎
原発子会社の巨額損失で債務超過の危機
東芝が再び、危機を迎えている。昨年12月末、東芝は米ウェスチングハウス社(WH社)が買収したCB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W社)について、当初の想定を大幅に超える数千億円規模ののれんを計上する可能性を示唆。債務超過に陥る危険が生じている。
東芝は2006年に6600億円を投じてWH社を買収した。そしてWH社は原発の建設および統合的サービスを行っているS&W社と提携し、原発建設プロジェクトを積極的に進めた。しかしその過程でS&W社が巨額の損失を抱えた。この損失の処理をめぐり、S&W社の親会社であるCB&I社と東芝は対立し、最終的に15年12月にWH社がS&W社を買収することで紛争は決着した。
損失を抱えた会社を買収したことで、ある程度の損失の発生は予想されていたが、結果論で言えば、東芝側の見込みがかなり甘かったことになる。
これには日米の商慣習の違いもある。原発についてのリスクは、日本では電力会社が負うが、米国ではベンダーが負う。11年の東日本大震災の際の福島第一原発の事故の後、原子力規制委員会(NRC)の規制が強化され、原発の建設コストが高騰。S&W社の経営を悪化させた。
東芝では、当初、S&W社ののれん代を105億円程度に見ていたが、買収後1年以内に行う買収会計の過程で、昨秋になってのれんが想定を上回ることが発覚。今年に入って最終的な損失額が7千億円を超える規模に膨らむ可能性が出てきた。のれん額はいまだ算出中で、2月14日に予定されている16年度第3四半期決算発表で明らかにするとしている。
東芝の自己資本は16年9月末時点で約3600億円、また、16年11月時点での16年度通期の見通しでは最終利益が1450億円となっていた。損失額が7千億円を超える規模となると、自己資本はすべて吹き飛び、一気に債務超過に転落する。
そもそも東芝は一昨年の不正会計問題によって15年9月15日に東京証券取引所から「特設注意市場銘柄」に指定された。特注指定から1年半後の3月15日には監理銘柄に指定される。そして6月までに東芝の社内体制が改善したと認められなければ、上場廃止となる。
市場の信頼を回復させようと取り組んでいる最中に巨額の損失計上が発覚したことは、原発特有の問題はあるにせよ、東芝の経営体質の問題を露わにした格好だ。綱川智社長自身が、のれん代の損失拡大の報告を受けたのは、昨年12月に入ってからとのことで、経営陣が原発事業をコントロールできていないことを示している。
東芝から離れたほうが成長が期待できるという現実
東芝としては期末の3月末までに債務超過を回避しなければならない。そこで稼ぎ頭となっている半導体のメモリ事業の分社化を決定。3月末をメドに設立する新会社の株式の2割未満を他社に売却し、2千億円程度の資金を調達する。
売却分を2割未満に抑えるのは、まず東芝が主導権を維持することが大前提にある。次に出資に意欲を見せている企業の中には、四日市工場で協業している米サンディスクの親会社ウエスタンデジタルをはじめ、同業の名前が挙がっている。同業他社から出資を受ける場合には独占禁止法に抵触する可能性があり、特に今回は3月までに決着する必要があるため、審査を簡略化するためにも他社の出資比率は抑えたい意向だ。
メモリ事業の分社化は、これまでも取沙汰されたが、そのたびに流れてきた。しかし現状では、メモリ事業にとっても、このまま東芝内にとどまるよりは分社化したほうが、将来的に大きな成長が期待できる。
主力のNANDフラッシュメモリはスマートフォンやデジタルカメラの記録媒体として成長してきたが、今後もIoTやビッグデータ向けに需要の増大が見込まれる。現在、東芝は韓国サムスン電子に次いで世界シェア2位であり、生産能力の増強とメモリ大容量化に向けた開発で、さらなる巨額投資が必要となっている。
メモリ事業の現場からは、メモリの利益が原発事業の損失の補填に回される苛立ちが聞こえてくる。また、これまでの一連の問題で経営陣への求心力も低下している。分社化しても、東芝の保有株式が8割強のままでは、原発に固執する経営体制が変わらない限り、メモリ事業の展開も変わらないという意見がある。外部資本の比率を高めることは、外資に買いたたかれる危険性もあるが、それでも東芝にいるよりはマシとの声も出てきている。東芝から離れたほうが健全な成長ができ、将来的にはメモリ事業単体での上場も見えてくる。
東芝のNANDフラッシュメモリは、今や日本が世界に伍して戦える数少ない半導体デバイスだ。半導体を切り離した後、東芝がどうなるかは、2月に決算と同時に発表する中期計画で方向性を示すという。しかし、東芝の経営危機が招いた結果とはいえ、東芝のメモリ事業が分社化し成長する可能性が高まることは、日本の半導体業界全体を見てもプラスに働くだろう。
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