三井住友トラスト・ホールディングス(HD)がトップ交代で迷走した。昨年11月末、現首脳陣の退任が報じられたが、トップ交代を発表したのは2月14日。約2カ月半、社内では旧住友信託と旧中央三井の暗闘が繰り広げられたのだ。市場では、メガ銀行との統合・合併も噂され始めた。文=ジャーナリスト/高橋怜史
金融庁が突き付けた“天皇”への三行半
「HDの北村邦太郎社長と傘下の三井住友信託銀行の常陰均社長が2017年4月にも交代する――」と日本経済新聞が報じたのが昨年11月下旬。
9年もトップに君臨し「天皇」といわれる常陰氏に対し、金融庁が“三行半”を突きつけたのだ。
金融庁は近年、日本最大の機関投資家である信託銀行の経営モデルは「利益相反ではないか」と疑いの目を向けていた。信託銀行は、国内年金市場の過半数のシェアを握る巨大投資家にもかかわらず、企業向け融資などの銀行業務を兼営している。このため、企業に配慮し過ぎて、議決権行使など投資家の利益がないがしろにされているとみていた。
金融庁は昨年2月から4カ月間、三井住友信託銀行を検査。6月中旬、同行に異例の「当局の所感」を突きつけた。
「投資信託の販売や住宅ローンばかりを重視し、信託の本分をないがしろにしている。そして(常陰氏の)トップ在任が長く、ガバナンスに問題がある」という内容だった。
金融庁は間髪を入れず、常陰氏を追い込んだ。10月に公表した金融行政方針の原案に「信託と銀行の兼営で生じる副作用を検証する」との文言を盛り込んだ。
国内唯一の信託専業である三井住友信託銀行の在り方に「ノー」を突きつけたのだ。
慌てた常陰氏は金融庁首脳に泣きつき、何とか名指しは回避できたものの、「(金融機関の)利益相反の管理やガバナンスを強化」との文言は残されてしまった。追い込まれた常陰氏は「トップ退任は避けられない」と判断したようだ。
ところが、北村、常陰両社長の退任を報じた日経新聞の記事では後継の社長候補は示されず、2月14日にようやくHDの次期社長は大久保哲夫副社長(旧住友信託出身)、信託の次期社長は橋本勝副社長(旧中央三井出身)と公表された。
現社長の退任報道から2カ月半も後継が決まらなかったのはなぜか。背景には、旧住友信託と旧中央三井の暗闘がある。
当初、HD社長は旧中央三井出身の北村氏から橋本氏へ、信託社長は旧住友信託出身の常陰氏から大久保氏へという案が有力視されていた。
14日発表の内容と逆の人事案で、HDと信託がそれぞれ同じ母体の出身者へバトンタッチする“穏当”なやり方だった。
しかし、HDの取締役ですらない橋本氏をトップに据えることに社外取締役から異論が出た。そこで旧住友信託側は、別の旧中央三井出身のHD取締役をトップに据える人事案を諮ろうと動き始めた。
これに対し、旧中央三井側は自ら推していた橋本氏がHDトップに立たなければ、「旧住友信託の傀儡になってしまう」と危惧。1カ月にわたって旧住友信託と旧中央三井のドタバタ劇が繰り広げられ、見かねた金融庁が「水入り」を打診した。
北村氏と常陰氏の2トップによる調整の結果、HDと信託の社長を入れ替える案で決着。2月10日の指名・報酬委員会で内定。14日の取締役会を経てなんとか正式決定にこぎ着けたが、この2カ月半のドタバタ劇は、HD発足から約6年が経過しても旧行融和が進んでいない実態を浮き彫りにした。
銀行系列を超えた子会社の合併
そして金融庁が同社のガバナンスに懸念を示したことも含め、三井住友トラストが単独で生き残れるのか、という疑問も浮上してきた。
今年1月、三井住友トラストとみずほフィナンシャルグループ(FG)が、傘下の資産管理銀行を合併するとマスコミ各社に報じられた。
みずほFGが54%出資する資産管理サービス信託銀行と、三井住友トラストが67%出資する日本トラスティ・サービス信託銀行の両行で、合併すれば、顧客から預かる信託財産は380兆円と、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)系列の資産管理銀行の約2倍となる。
市場は、銀行系列を超えた「合併劇」と仰天し、将来的にはみずほと三井住友トラストの本体同士の「統合もあり得る」と色めき立った。
みずほ関係者は「単なる臆測」と一笑に付すが、三井住友トラストと組んだメガ銀行は一気に規模を拡大できる。
みずほと三井住友トラストの接近にやきもきするのが、三井住友トラストと「同根」の三井住友フィナンシャルグループ(FG)だ。歴史的に近い関係ながら「微妙」な間柄の三井住友トラストとの協調は最大の経営課題だからだ。
もっとも、三井住友トラスト側は、みずほとの資産管理銀の合併について、「たまたま同じような規模の資産管理銀だったため。将来的に本体同士が一緒になるとすれば、三井住友FG」と打ち明ける。
ただ、三井住友トラストをめぐっては、邦銀首位の三菱UFJFGも関心を持ち始めたとみられる。三井住友トラストは将来の「メガ銀行再編」の目玉になるかもしれない。
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