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東京五輪―ずさんな計画の余波で大規模経済損失の恐れ

ゴルフコースなど競技施設の見直しが物議を醸している東京オリンピックだが、過去の決定過程のずさんさを露わにすることで、政局の道具になっている印象すら受ける。さらにオリンピック施設に関連しては、経済損失を引き起こしかねない問題が浮上している。文=本誌/村田晋一郎

20カ月にわたり展示会場の利用が制限

東京ビッグサイト 日本展示会協会(日展協)は1月、小池百合子・東京都知事宛に8万通の請願署名を提出した。請願は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、東京国際展示場(東京ビッグサイト)がメディア施設として使用されることを受けたもの。例年ビッグサイトで開催している多くの展示会が中止を余儀なくされる可能性があることから、代替の仮設展示場を首都圏に建設もしくは、メディア施設をビッグサイト以外の場所に新設することを求めている。

東京ビッグサイトは東展示場1~8ホール、西展示場1~4ホールから成り、総面積は約9万6千平米で日本最大の展示会場だ。全フロアを使う展示会は、東京モーターショーやコミックマーケットなどわずかだが、約2万平米規模の展示会が4つ同時に開催されるなど、施設全体の稼働率は高い。

東京オリンピック・パラリンピックでは、東京ビッグサイトを国際放送センター(IBC)およびメーンメディアセンター(MPC)として使用する予定。オリンピックで既存施設の利用に制限が生じるのは、ほかの施設でも起こることだが、ビッグサイトで問題なのは、制限が広範かつ長期間に及ぶことだ。

オリンピック施設は、メーンスタジアムなどの大型競技場が注目されがちだが、実は最もスペースをとるのは、IBCやMPCである。先のリオオリンピックでは、IBCが約8万5千平米、MPCが約2万7千平米の施設だった。しかもプレ大会を開催するため、IBCは1年前から稼働する。

このため、IBCやMPCの準備工事、利用、撤去の期間を含め、19年4月から20年11月までの20カ月間、ビッグサイトの利用が制限される。具体的には、IBCとして利用する東1~8ホールが19年4月から20年11月まで使えず、MPCとして利用する西1~4ホールと建設予定の西拡張棟も20年4月から10月まで使えなくなる。つまり20年4~10月の7カ月は全く利用できない状況となる。

代替処置として、東京都は近隣の東京テレポート駅付近に約2万3千平米の仮設展示場の建設を検討しているが、利用は19年度に限られ、オリンピック開催前の20年4月に撤去される。

例年ビッグサイトで開催している展示会は規模を縮小するか、別会場で開催することになる。別会場と言っても、首都圏の大型の展示会場は幕張メッセやパシフィコ横浜などに限られ、すべては代替できない。ある業界団体は、毎年開催している展示会について既に2年後の代替会場を検討・確保しているという。しかし代替会場が確保できない展示会は、2年にわたり開催中止ということになりかねない。

日展協によると、展示会の開催規模縮小もしくは中止で、例年ビッグサイトに出展している5万社のうち、3万8千社が出展できなくなり、約1兆2千億円の売り上げを失うという。

曖昧な経緯で決まったビッグサイトの活用

広大なスペースを要する機能を恒常的に稼働している既存施設で担おうとしたことに無理があり、既存の経済活動に支障が出るのは当然だ。リオでも、その前のロンドンや北京でもメディア施設は仮設施設を新築し、終了後に展示会場などに転用する方式をとっていた。

そもそもなぜビッグサイトなのか。話は16年のオリンピック誘致にさかのぼる。08年に招致委員会が国際オリンピック委員会(IOC)に提出した「申請ファイル」では、築地市場を移転した跡地にメディア施設を建設する構想だった。その後、豊洲の土壌汚染が問題視され、移転計画が遅れたことから、当時の石原慎太郎・東京都知事が築地跡地の利用を断念。09年に提出した「立候補ファイル」では、メディア施設をビッグサイトに設置する計画に変わった。この時のビッグサイトへの変更は、議会で議論されたわけでもなく、利害関係者にヒアリングすることもなく決まったものだという。結局、16年誘致には失敗したが、そのままの流れで20年誘致の立候補でもビッグサイトを利用する計画となった。

東京都がビッグサイトの利用計画を公表したのは15年10月。それと前後して日展協は陳情を行ってきた。今回の小池都知事への請願署名は危機感の表れだが、東京都や組織委員会の対応を待っているだけでは、物事が好転するとは思えない。ほかの競技施設の問題と同様に計画のずさんさが招いた事態だけに、現在懸案の豊洲市場移転問題や競技施設選定のように格好の政局の道具に使われる可能性があり、話題には上っても事態は進まない状況に陥る危惧がある。

日展協は、100億円の資金と用地と2年の時間があれば、代替の仮設施設の建設は可能としている。しかし、ビッグサイトの利用が制限される19年4月から逆算すると、現在は既に工事に入っていてもおかしくない時期だ。もう時間はない。タイムリミットは迫っている。

日展協が展示会の開催規模を維持したいなら、行政に頼らず、今すぐ業界を挙げて用地を取得し、代替施設の建設に着手すべきだろう。それができないならば、規模を縮小した形で最善の開催を目指すしかない。

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