キュレーションサイトの問題が明らかにしたこと
昨年12月、DeNAは子会社が運営する医療情報サイト「WELQ」で不正確な情報発信や著作権侵害が認められたとして、同サイトを含む9つのキュレーションサイトを非公開にした。事態の深刻さを象徴するように、DeNAが開いた釈明会見は3時間もの長時間に及んだ。
この事件は日本において、ウェブメディアが抱える問題をあらわにすると同時に、新聞や雑誌など紙メディアの在り方を再認識する一件でもあった。
キュレーションサイトの問題は、メディアリテラシーの高いコミュニティーなら、ここまで騒がれなかった可能性がある。新聞で言うと、いわゆる「高級紙」が少なく、「イエローペーパー」が幅を利かせている国では、受け手の読者が情報の出し方の良し悪しを判断し、新聞の情報をそのまま鵜呑みにすることは少ない。
メディアが発信する「真実」とは、あくまでその記事を書いた記者にとっての「真実」でしかない。真偽はともかく、大統領自身が大手メディアを「フェイクニュース」だと公言する国もある。メディアが発する情報が常に正しいとは限らないと思っている読者が大半なら、不正確な情報発信が行われたところで、大騒ぎにはならなかったかもしれない。
一方、日本は新聞では高級紙の存在感が強く、メディアが発信する情報をおおむね正しいととらえる傾向が強い。メディアが信頼されているということだが、それだけに今回のキュレーションサイトの問題は、メディアへの信頼を大きく裏切ることになってしまった。
今のところ、この信頼喪失の矛先は問題となったキュレーションサイトに向けられている。そしてその反動で紙メディアについては、「一次取材をしっかり行い、問題を深掘りし、情報が信頼できるメディア」との位置付けが再認識されるようになっている。
今回問題となったのはウェブメディアでも一次取材を疎かにしているメディアであって、ウェブメディアが全く一次取材をしていないということはない。また、紙メディアの報道の質が格段に上がっているということもないだろう。しかし外部要因とはいえ、結果的に信頼感が増していることは、紙メディアにとって「追い風」と言える。紙メディアの今後は、この追い風をどれだけ生かせるかだろう。
時代の趨勢はウェブメディアだが、情報の発信・拡散において、その時々の得手不得手は出てくる。紙メディアとウェブメディアは相反するものではなく、相互補完的な役割を果たすこともあり得る。
そのときに紙メディアに必要なことは、求められる役割をしっかりと果たすこと。現在で言えば、「追い風」となっている「信頼感」であり、「深掘りした情報」ということになる。紙メディアはそこを強みとして、追求していくべきだろう。
コンテンツを生かしたプロジェクトに期待
一方で、販売部数や広告出稿がゆるやかな右肩下がりを続けている中、紙メディアに求められるのは、新たなマネタイズだ。本特集で、一木広治・ヘッドライン社長や嶋浩一郎・博報堂ケトル社長・共同CEOら、広告業界に近い立場の人たちは、コンテンツをベースにした多角的なマネタイズの重要性を指摘する。あくまで雑誌などの紙メディアはコンテンツの発信の一つの手段で、時にはその発信がイベントになったりして、トークショーなどを開催し収益を上げていく。出発点としては、ベースとなるコンテンツづくりが重要となる。
コンテンツづくりに関して、数十年の歴史がある紙メディアの場合は、蓄積してきた優良なリソースがある。リソースの強みを生かした事例として、講談社が雑誌『週刊 鉄腕アトムを作ろう!』をこの4月に創刊する。世界的に有名なコミック&アニメ「鉄腕アトム」をモデルにしたコミュニケーションロボット「ATOM」を組み立てるパートワークの形態をとる。
同企画は、鉄腕アトムがもともと講談社グループの光文社で発行されていたコミック誌『少年』で連載されていたことから実現。作者である手塚治虫氏の生誕90周年記念企画に位置付けられている。
ATOMのモデリングは手塚プロダクションが監修。ロボティクスおよび投資するOSとAIを富士ソフトが、メーンボードなど基板実装をVAIOが担当。さらにATOM本体のAIはNTTドコモの自然対話プラットフォームに接続し、会話力が成長するようになっている。そして全体の企画プロデュース、パートワーク雑誌の発行・販売を講談社が行う。
今回の講談社の企画は、自社の強力なリソースを活用し、なおかつ複数のパートナー企業との協業で一大プロジェクトにまで発展させた格好。これが成功すれば、今後は他のメディアも続き、紙メディアの活性化につながるだろう。
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