梨田監督の選手起用法から見えるメッセージ
野球の監督のことをアメリカでは「フィールド・マネジャー」と呼ぶ。最大の仕事は与えられた戦力で、チームをどのようにして勝利に導くか。それを実践することに尽きる。
ピッチャーを中心に守り勝つ野球を志向していても、打撃自慢のメンバーが揃っていれば、理想はひとまず脇に置かなければならない。やりたい野球とやれる野球は別物なのだ。
話を日本野球に移そう。開幕前、大方の評論家がBクラスと予想していた東北楽天が健闘している。4月11日の時点では7勝1敗の首位。まだスタートしたばかりはいえ、パ・リーグの台風の目になりそうな予感が漂っている。
好調な打線がチームを牽引している。チーム打率2割7分2厘(11日)はリーグトップ。貧打に泣いた昨季とは大違いだ。昨年7月からチームに加わったカルロス・ペゲーロの存在が大きい。
打率3割7分はリーグ4位、3本塁打は3位、10打点は3位。3番ゼラス・ウィーラー、4番ジャフェット・アマダーはまだエンジンを温めている状態だが、12球団の中でスタメンに外国人打者を3人も並べているのは楽天だけだ。ファーストが本職の銀次はセカンドで使われることもある。
こうした起用法から見てとれるのは就任2年目を迎えた梨田昌孝監督の「今年は打ち勝つ野球をやる」という確固たるメッセージだ。
マキャベリスト的な戦いぶりを見せる梨田監督
思い出すのは16年前のシーズンだ。近鉄の指揮を執っていた梨田は就任1年目に掲げたスローガン「機動力野球」とは似ても似つかない野球を展開した。タフィー・ローズ、中村紀洋、磯部公一らを中心に重量級打線を組み、「点を取られたら取り返す」野球にシフトしたのである。
看板に偽りあり、とはこのことだ。開幕から21試合連続盗塁ゼロ。いつになっても走らない。さすがに担当記者から厳しい質問が飛んできた。「監督、盗塁のサインが(ベンチから)全然出ていないじゃないですか?」。即座に梨田は切り返した。「じゃあ盗塁させたら、勝率よくなるの?」
このシーズン、近鉄はチーム防御率4.98と“投壊”状態ながら“いてまえ打線”が211本ものホームランを量産し、文字どおり打ち勝つ野球でパ・リーグを制したのである。
梨田は言ったものだ。
「例えば2死一塁。そこでリスクを冒して走らせ、仮にセーフになったとしても、次のバッターがタイムリーを打つ可能性は決して高くない。それだったら余計なことをせずに、ホームランを待った方がいいでしょう。スタンドに飛び込めば2点入るんですから」
理想よりも現実。手段よりも結果。ある意味、梨田にはマキャベリスト的な一面がある。
「理想を追うよりも、現実に合わせた野球をしないと勝てないんです。指揮官には割り切りも必要です」
腹をくくったリーダーが率いるチームの戦いぶりを凝視したい。(文中敬称略)
(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。
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