年商を5倍にした関通の 秘密
“見える化”“システム化”
ECの隆盛によって物流の業務量がますます増大している。大手宅配会社の労使騒動を見ても、それは明白だ。その膨大な業務は、言うまでもなくスタッフにそのまま覆いかぶさってくる。
物流が抱えるその問題を、見事に解決したにとどまらず、この9年間で売上を5倍にまで成長させた会社がある。大阪府東大阪市を拠点に配送代行サービスを展開している関通だ。同社では100人単位で動いている現場の指揮を、パート社員がとっていることも珍しくない。
これを可能にしたのは、作業工程の徹底した“見える化”、“システム化”。どのチームの、どの作業が、どこまで進んでいるかの情報を、社内で共有して、サポートし合う。それによってスタッフは、自信を持って、正確かつ快適に仕事を進めることができるのだ。
同社ではこのノウハウを、システムやコンサルティングという形で、惜しみなく他企業に提供。物流会社だけでなく、多様な企業から頼りにされる存在になっている。また、見学会を開いて、物流センターをどんどん外部に公開している。現場そのものも、“見える化”しているのだ。
その結果、およそ30年前の1986年に、軽トラック1台の運送業としてスタートした同社は、今や年商50億円規模の企業に成長した。特に近年の伸びが著しく、売り上げはここ9年間で5倍に拡大した。
自社開発のシステムで業務を管理
関通は、東大阪市の長田・荒本地区の2キロ圏内に8拠点、総敷地面積2万坪の物流センターを構え、400社の顧客の荷物を、年間500万個出荷している。
配送代行サービスを利用している顧客の中には、ECサイトを運営している企業も多い。例えば楽天市場に出店している企業の場合、スーパーセール期間になると出荷数が通常と比べ、大きく跳ね上がる。そういう時には、近隣の拠点から、比較的手の空いているスタッフを招集して対応する。
このフレキシブルな対応も、作業工程が明確だからこそ可能になっていること。工程管理には、同社の物流ノウハウをパッケージ化したソフトウェア「トーマス」が活用されている。
もうひとつ、自社開発のソフトウェアに、「仕事を簡単にする」「特定の誰かにしかできない仕事をつくらない」をコンセプトに開発したチェックリストシステム「アニー」がある。
開通では、「トーマス」や「アニー」を、希望する企業に提供し、現場で十分使いこなしてもらえるように、先方の企業にセンター長クラスのスタッフが出向いて指導、先方からの見学も歓迎している。成果が上がるところまでしっかり見届けるのも、頼りにされる所以なのだ。
環境整備活動で顧客の心をつかむ
開通の特徴的な取り組みのひとつに、環境整備活動が挙げられる。
スタッフ全員が毎日30分間、物流センターの清掃・整理・棚卸しなどを行って現場の環境を整え、月1回、社長が全拠点、全現場を回って現況をチェックするというものだ。これによって、常に顧客に満足してもらえる環境を保っている。
前述した物流センターの“見える化”は、「学べる倉庫見学会」という名称で実施している。セミナーとセンター見学をセットにして、1人3万円の料金で受け付けているが、毎月平均20~30人、さまざまな業種の企業からの参加があるという。
見学会は開通にとってもメリットが大きい。実際に作業状況を見た企業が、「働いている人が明るい」「やる気がある」という理由で、同社への発注を決めるケースが多いのだ。また、企業が抱えている物流に関する課題を吸い上げる絶好の機会にもなっている。
ボイスメールを活用したコミュニケーション
開通の総従業員数は520名。2014年から新卒採用を開始し、高卒生を50名ずつ採用していることもあり、急速に増えている。
大手物流会社のスタッフはほとんどが派遣社員というが、同社の場合は基本的に直雇用だ。人材こそが企業の最も大事な財産であり、最終的な差別化ポイントだと考えているからだ。
従業員数が500人を超えた今も、一人ひとりのスタッフに目が行き届くように社内コミュニケーションの仕組みとして活用しているのが、ボイスメールだ。「役員一斉」「センター長一斉」をはじめさまざまなグループを設置して、各スタッフに、現場の状況や悩みごとなどをこまめに報告してもらっている。たとえば、「パートの〇〇さんが辞めたいと言っている」「新入社員の△△さんがこんなことで悩んでいる」「お客様からこんな声をいただいた」といった内容だ。
録音時間は1件当たり最大1分半に制限しているというものの、たとえば社長だと、これを1日平均100件くらい受け取り、そのすべてを聞く。必要に応じて返答もする。
システムによるバックアップに加え、こうした人の手によるバックアップによって、誰もが働きやすく、助け合える環境が整えられているのだ。
年商を5倍にした関通の新しい価値の創出ポイント
開通が行っているのは、徹底した“見える化”と “システム化”。これが、さまざまな利点を生んでいる。業務の平準化・円滑化、生産性および品質の向上、スタッフのモチベーションの向上、離職率の低下など、挙げればきりがない。それは、業種にかかわらず、また、国際的にも適用できる手法だ。
さらなる業容の拡大を目指し、「日本国内の雇用だけに目を向けていてはいけない」という信念のもと、海外の人材雇用・育成の取り組みにも着手した。第一弾として、2017年にミャンマーから20人の研修生を受け入れて、自社物流センターにおいて3年間の実習をスタートさせている。
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