いまや国民1人につき1台以上の普及率を誇るスマートフォン(スマホ)。かつてはiPhone独り勝ちの時代もあったが、ここにきて混戦の様相を呈している。その原因をつくったのが格安スマホの普及で、大手キャリアも無視できない存在になってきた。スマホ戦争は新たな局面を迎えている。文=関 慎夫
減少に転じたauの契約者数
KDDI(au)の田中孝司社長は7月10日、スマホ料金を最大3割、平均でも2割下げる新料金プラン「auピタットプラン」を発表した。これを利用すれば、月額1980円でスマホを利用することも可能だ。au利用者のARPU(1台当たりの月額利用料金)は約6千円。それに比べると3分の1で利用できることになる。
auは国内携帯市場の勝ち組と見られている。「三太郎」のテレビCMは大人気となり、CM好感度ランキングでトップを独走し続けている。契約純増数でも、一昨年まではNTTドコモ、ソフトバンクを抑えてトップに君臨し続けていた。前3月期決算でも、営業利益9800億円を確保。これはドコモ、ソフトバンク(決算開示は持ち株会社のソフトバンクグループ)には及ばないものの過去最高益を記録した。
今回の割引プランは、その勢いをさらに加速するためのものとも受け取れるが、実はこのプランは、auの置かれた状況の厳しさを物語っている。
前述のように、前3月期決算は史上最高益を記録した。3月末の契約者数も2600万人と過去最高。何の問題もないように見える。しかし詳細に見ると違う側面が見えてくる。契約者数こそ過去最高を記録したものの実は、auの契約者数はこの1年間減り続けている。なのになぜ契約者数が伸びているかというと、MVNO契約者によってau契約者の減少を補っているためだ。
MVNOとは自ら回線を持たず、ドコモやKDDIから回線を借り、独自ブランドで携帯サービスを提供するキャリアのことで、楽天モバイルやLINEモバイルなど、いわゆる格安スマホと言われるものだ。その数は500社を超える。
最大の武器は低価格。ドコモ、au、ソフトバンクのメガキャリアに比べて通信品質には難があるが、1千円台のサービスは当たり前。前述のようにメガキャリアのARPUは6千円近くに達する。それに比べれば4分の1以下の水準だ。
スマホを使いこなすヘビーユーザーにとっては、使い勝手が悪い、サービス内容が劣る等の不満が残るが、それほど利用しないライトユーザーにとってはこの価格は魅力的だ。その結果、今では携帯の新規加入者の15%近くが格安スマホに切り替えている。
au=KDDIの特徴は携帯電話1本足打法
そのあおりをもっとも受けているのがauだ。最大手のドコモの利用者も格安スマホに流れているが、ドコモはMVNOにもっとも回線を提供しているため、格安スマホ契約者が増えれば増えるほど、ドコモの回線利用者が増えるという構図がある。
今年1~3月の3カ月間の携帯契約者純増数は、KDDI71万件、ソフトバンク2万件なのに対し、ドコモは129万件も増やしているが、これは格安スマホがドコモ利用者に含まれているためだ。
契約者純増数の数字だけを考えればソフトバンクがもっとも格安スマホの影響を受けていると思うかもしれないが、ソフトバンクには第2ブランドのYモバイルがある。そしてYモバイルは格安スマホの中では最大のシェアを持つため、これがバッファーになっている。KDDIもau以外にUQという第2ブランドがあるが、Yモバイルほどには普及していない。その結果、au利用者がグループ外に流出する事態を招いている。
そして何より、KDDIの場合、ドコモやソフトバンクとは置かれた環境が全く違って、au利用者の流出を座視できない。
ドコモは言うまでもなく、NTTグループの一員だ。NTT全体の売上高は11兆7500億円に対しドコモは4兆5800億円と比率は半分以下だ。ソフトバンクにいたっては、売上高8兆9千億円のうち、国内通信事業は3兆円あまり。しかもここには長距離通信なども含まれるため、国内携帯事業の占める割合はさらに小さい。ソフトバンクにとっては、国内携帯事業よりも買収した英ARM社や米スプリント社の優先順位の方がはるかに大きくなっている。
KDDIは違う。KDDIの売上高4兆9500億円のうち、携帯電話事業、すなわちauの占める割合は約75%。au=KDDIと言ってよく、auの契約者数が会社の命運を握っている。それだけに、格安スマホの台頭を放置しておくわけにはいかない。
そこで格安スマホ対策として打ち出したのが、冒頭に紹介したauピタットプランだ。ドコモが6月に出した、従来より1500円安い格安スマホ対抗プラン「docomo with」の滑り出しが好調なことを考えると、それよりも価格インパクトの強いピタットプランはかなりの話題となりそうだ。
そしてこれをきっかけに、メガキャリア対格安スマホの新たなる戦いが始まる可能性が強い。
料金が最大の競争力となる中auは勝ち残れるのか?
日本におけるスマホ元年は、ソフトバンクがiPhone3Gを扱い始めた2008年。以来スマホは世の中を席巻、いまでは販売される携帯端末のうち9割をスマホが占めるようになった。
歴史を振り返れば、日本の携帯市場は、これまで常に3社独占の状態にあった。その結果、料金が高止まりし、世界的に見ても日本の携帯は高い、が半ば常識となっていた。そこに風穴を開けたのがソフトバンクだ。
ソフトバンクは2006年に携帯市場に新規参入したが、当初は参入を表明しながらもなかなか免許が下りなかった。そこで同社を率いる孫正義氏は、「3社独占だから料金が高い。ソフトバンクが入れば料金はもっと安くできる」と言って、許認可権を持つ総務省に対して激しくかみついていた。
結局ソフトバンクは、免許を得た直後、ボーダフォンを買収してメガキャリアの仲間入りをするが、そこでまずやったことは、公約通りの値下げだった。「ゴールドプラン」という他社より安いプランを開始。孫社長は「もし他社がもっと安い料金を出してきたら、即日、同等かそれ以下に引き下げる」と、ソフトバンクこそが業界最安値であることを強く訴えた。
日本におけるボーダフォンの晩年はまさにボロボロで、ドコモ、auには大きく水をあけられており、その差は開く一方だった。しかしソフトバンクが買収し、ゴールドプラン、さらには「ホワイトプラン」を導入したことで、形勢は一気に変わる。
07年5月、月単位の契約者数純増数でソフトバンクはトップに立つ。これはボーダフォン、さらにはその前身のJフォン時代を通じて初めての快挙だった。当時のソフトバンクの携帯は、割り当てられた電波の周波数の問題もあって、他の2社に比べるとつながりにくかった。それでも消費者は安さに飛びついた。これが携帯電話市場における第1次価格戦争だった。
その後スマホの登場で、携帯戦争は機種戦争となる。ここではiPhoneを扱っているかどうかが勝負を分けた。しかしその後、メガキャリア3社がいずれも扱うようになり、今度はキャッシュバックキャンペーン競争となる。他社からの乗り換え時にいくら割り引くか、その金額の多寡が加入者獲得の決め手になった。形を変えた価格戦争だった。
しかしこの戦争は、「お上のお達し」により、「新機種0円」を打ち出せなくなったことで終焉を告げる。そしてこれが格安スマホの台頭につながった。監督官庁である総務省は、日本の携帯料金が高止まりしていることに不満を持っていただけに、格安スマホを後押しした。そして今度はauがその対抗措置を取らざるを得なくなった。そしてこれが次の抗争を生んでいく。
仮にauのピタットプランが人気を集めることになれば、格安スマホは対抗手段としてさらに安いプランを出すことになる。逆に人気とならない場合、auは第2弾の値引きプランを出さざるを得ない。
いずれにせよ、今後スマホの料金戦争は新たな段階に突入する。auだけでなく、ドコモもソフトバンクも巻き込み、3メガキャリアと新興の格安スマホによるバトルロイヤルデスマッチが繰り広げられる。スマホ料金はどこまで下がるのか。
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