経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

創業時からの理念を継承し知多半島を盛り上げる まるは 坂野豊和

まるは食堂旅館 坂野豊和

創業72年を迎える「まるは食堂」は愛知県・知多半島を中心に8店舗を構える。食堂以外にもバーベキュー場や温泉宿も運営しており、グループ企業6社を持つ。知多半島地域の活性化に向け、地元企業の事業承継にも意欲的に取り組んでいる。(雑誌『経済界』2022年11月号より)

まるは食堂旅館 坂野豊和
まるは食堂 坂野豊和
ばんの・とよかず――1975年愛知県南知多町生まれ。愛知県立武豊高校卒業後、旅行会社勤務を経て98年にまるは食堂入社。2006年代表取締役社長就任。南知多観光協会副会長、豊浜観光協会会長、中部臨空都市まちづくり協議会会長も務める。

 地域のエコシステムの活性化は日本全国が抱える喫緊の課題だが、愛知県の知多半島において、地道な取り組みが奏功している企業がある。まるは食堂だ。坂野社長の祖母・相川うめ氏が魚屋として創業した同社は、現在では食堂や旅館を手掛ける。特大エビフライを看板商品とし、知多半島で捕れた新鮮な魚を提供している。名古屋駅や中部国際空港にも出店しており、多角化経営で飲食業に限らないグループ企業を6社持つ。

 「創業者である祖母の経営理念を受け継いでいます。祖母は含蓄のある言葉を数多く残しており、その一つである『信者』は社是にしました。この二つを合わせると『儲』という字になります。これは事業利益を地域に還元し、信頼を得ることが最も大切だということです」

 坂野社長は知多半島の観光価値を高めて人を集めるため、地域創生に注力している。そのために跡継ぎのいない地元の事業を譲り受け、廃業させない取り組みを進めている。

 例えば、新美南吉の児童文学の名作『ごんぎつね』の舞台である愛知県半田市の「ごんぎつねの湯」を承継しリニューアル。他にも、日照時間の長い知多半島の名物であり、貴重な観光資源のイチゴ農園を譲り受けたという。

 「私は地元・南知多町の観光協会でも活動していますが、残念ながら少子化に伴う人口減の中で廃業も増えてきました。昔からの地元の付き合いを大切にする中でお声掛けいただき、事業的にシナジーが見込める事業を引き継いでいます。当社では他にも伊勢湾を一望できるバーベキュー場も運営していますが、夏がメーンであり、冬は稼働できません。そこでイチゴ農園事業を始めることで通年の稼働を維持しています」

 地域への還元という創業理念は、「知多半島を活性化させるべく経営者を増やし、経済を活性化させる」という取り組みとなっている。

 「やる気のある社員はグループ会社の経営者として独立させています。社員の家族も喜びますし、本人のモチベーションにもなります」

 知多半島の常滑市には中部国際空港もある。ポストコロナ期を見据え坂野氏は決意を新たにする。

 「空港に降りて名古屋市に向かう人に知多半島を素通りせず観光してもらえるよう地域の魅力づくりに貢献していきたい。コロナ禍はECをはじめ新しい視点から新事業に取り組む良いキッカケになりました。地元に腰を据え、知多半島に貢献していくという軸を守りながら後進を育てていきます」