ダイバーシティ経営を推進するアサヒグループホールディングスでは今年3月、事業会社2社の社長に女性2人をそれぞれ抜擢しました。そのうちの1人が、健康食品や機能性素材、飼料事業などを行うアサヒカルピスウェルネス社長に就任した千林紀子さん。社員がもっと活躍できる場をと考える千林さんに、今の思いを伺いました。
千林紀子氏プロフィール
アサヒカルピスウェルネスの合言葉とは
佐藤 近年はカルビー、大和証券、クレディセゾンなど大企業で要職に就く女性が増えましたが、千林さんのように現場たたき上げで、トップにまで立つ人はまだ少ないですよね。ようやく世の中が現場の女性を認める動きになってきたかとうれしく思っています。社長になられたときの率直な思いはいかがでした?
千林 弊社はカルピスの事業を分割してできた、アサヒグループでは新規事業のポジションにある会社です。2社の文化や遺伝子の違いがあるので、従業員が会社の将来像を共有できるように、業績を積み上げて引っ張っていかなければと責任を感じました。
佐藤 私も社長就任時は珍しがられましたが、千林さんはどうですか?
千林 最近久しぶりに「女性初の」と言われています(笑)。私がアサヒビールに入社した当時と比べて女性の社会進出が進んだ今も、まだ日本では女性社長が珍しいんですね。
佐藤 突き抜けた人はなかなか出てきませんね。千林さんは現場から社長に抜擢されて、同僚だった仲間との関係性は変わりました?
千林 私は会社の設立準備段階から、仲間と一緒に会社をつくり上げてきました。この1年間、事業基盤を固めるための数字を必死に追いかけてきたので、仲間たちは戦友だと思っています。
佐藤 戦友、いいですね。2社の文化の融合も大変だったでしょうね。
千林 その融合はいまだに難しいですね。カルピスはブランドへの思い入れが強く、比較的穏やかな社風があります。アサヒは前に進もうとするスピード感や勢いを重視します。それでもグループコアの技術を使い、新しい環境で挑戦できるので、みんな前向きですよ。私たちの合言葉は「異質を受け入れよう」です。
佐藤 それが本当のダイバーシティですよね。小池百合子・東京都知事も、「ダイバーシティは女性だけの多様性を指すものではない」と仰っています。ダイバーシティは、性別、年齢、国籍を超えて人々がいきいきと生活できて働ける社会のことです。
千林 そうですね。女性ばかりではなく、男性にも事情があるでしょうし、性別関係なく個々人が活躍できる環境をつくりたいと思っています。弊社はアメリカに製造販売子会社があり、3分の1を現地従業員が占めます。なので、異質を受け入れる組織風土は十分にありますよ。
千林社長が信じる組織の力
佐藤 千林さんの入社時に社長だった樋口廣太郎さんには、私もかわいがっていただきました。
千林 そうでしたか。当時アサヒビールのシェアは約24%でしたが、樋口は社長朝礼などでいつも「トップになる」と話していました。その後、本当にトップになったときに、言葉として発する大切さ、挑戦しない夢は叶わないことを実感しました。夢を語り、それを実現し、次のステージにつなげていく。このグループにいる楽しさはそこですね。
佐藤 企業のDNAですね。千林さんの経営観や哲学もいつか次の人に受け継がれていくのでしょうね。
それは常に考えていることです。バトンはいい状態で渡したいし、私以上にこの事業を伸ばすという気概を持った人に引き継ぎたい。私は異動した部署での経験を通じて、経営の基礎を身につけました。それが今になってよく分かります。次世代の人を育てるときは、そのとき本人が見えている部分と、より広い視野で高い視座を養うための経験を積ませてあげたいですね。
佐藤 組織づくりについてよく理解されていますね。それもご自身の経験からの教訓ですか?
千林 はい。2002年にアサヒ飲料に出向したときは、同社は2年続けて赤字となる厳しい状況でした。業績を何とかしたいと自分1人が頑張ってもどうにもならない状況があると知りました。そこで力になってくれたのが仲間たちです。だからこそ組織の力を信じ、組織の力で物事を変えていきたいんです。
佐藤 素晴らしいですね。その一端を担うのが御社で4割を占めるという女性かもしれません。千林さんが考える、女性の理想の働き方とは?
千林 ライフステージごとの自分のペースをコントロールできる働き方ですね。仕事のギアを入れるとき、忙しいときはギアを緩めるときがあってもいいと思っています。
佐藤 最近は女性の寿退社や出産を機に辞める人も減って、長く働き続ける人が増えていますしね。
千林 そうですね。私は仕事と育児の両立というステージは越えたと感じていて、今は主導的立場にいる女性たちが挑戦し活躍できる環境をいかにつくるかを考えています。
佐藤 千林さんが先導していってほしいですね。最後に、会社の夢は?
千林 主事業である乳酸菌や酵母など有用微生物を生かして、世の中の「食の未来」に貢献し、それをビジネスとして継続していくことです。大きな夢ですが、必ず実現したいと思っています。
似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=佐藤元樹
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan