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誘拐事件の解決にも使われる中国の検索サイト百度(バイドゥ)のAI技術

中国では年間2万人が誘拐されるという。これをAIによって解決しようとする動きが起きている。特に力を入れているのが検索サイトで有名な「百度」で、既に大きな成果を上げている。誘拐が中国社会の陰ならば、AIへの取り組みは陽。この2つが共存するのが、今の中国だ。文=国際ジャーナリスト・戸田光太郎

検索だけでなくAIで存在感を増す中国の百度

百度

上海へ取材に行ってきた。ますます増えていたのは電気バイクだ。大型バイクさえ電動なので、あの日本のバイクのようなバルルルという轟音が出ない。ほとんど無音でスーッと近づいてくるので歩行者にとっては横を通り過ぎるまで全く気が付かないほどで、かえって危険だ。

フランス政府に続いて、英国政府もガソリン自動車の販売を禁じた。ただし、2040年までに、ということだから、中国の場合はそれより早く二輪だけではなく四輪の電動化を実現してしまうかもしれない。

中国では現金で払う場面が少なくなった。人々はスマホで飲料水を買ったり、タクシー料金を払ったりしている。現金払いは時に敬遠される。お釣りを出すのが面倒なのと偽札問題があるからだ。主流は電子決済だ。

中国には三大IT企業「BAT」と総称される百度(バイドゥ)、アリババ(阿里巴巴集団)、テンセント(騰訊)がある。

百度は検索サービスだ。中国でビジネスを禁じられた米グーグルと同じビジネスである。

アリババはネット通販の会社で、楽天とアマゾンを合わせたようなビジネスだが、3年前にニューヨーク証券市場に上場されて時価総額25兆円を記録した。昨年、傘下のサイトで売り買いされた流通総額は50兆円を超え、アメリカのウォルマートやコストコ、フランスのカルフールを上回り、世界最大の小売り・流通企業となった。

子会社でオンライン決済のアリペイ(支付宝)は次に紹介するテンセントのウィチャットペイ(微信支付)が登場するまで独占的な決済システムだった。

テンセントはウィチャット(微信)と呼ばれるSNSが有名だ。フェイスブックやLINEのような会社だが、売り上げの7割がゲームからの収入である。モバイル決済の分野では先行するアリババの「アリペイ」に迫る勢いなのが、ウィチャットペイである。

このBAT3社の中ではいささか見劣りするようになっていた百度だが、最近、頑張っている。これまで百度はウェブ検索にとどまっている印象があったが、AI分野で存在感を増してきた。

AI研究者を大量採用、誘拐事件の解決にも貢献

世界のIT企業ではAI技術の開発でバトルロイヤルが繰り広げられている。百度もAIに力点を置き、「成長戦略の最重要分野」と位置付け、AIの研究者を大量に採用している。

百度では、13年に設立された深層学習実験室で機械学習やロボット、3D視覚、画像識別、などを研究しており、北京やシンセン、北米西海岸のシリコンバレーに拠点を作った。同時にシリコンバレーには人工知能実験室を作り、スタンフォード大学からAI業界の権威をチーフ・サイエンティストとして引き抜いている。

注目を集めたのはこれらの技術で誘拐事件を解決したためだ。

中国では誘拐ビジネスが横行している。他国のように身代金が目当てではない、人身売買目的の誘拐だ。男の子は100万~120万円、女の子は60万~80万円が相場だ。なぜ男の子のほうが高いかというと、老後の暮らしを支える働き手として男の子を買うのだ。

内陸部の農村の年収は20万円だが、5年分の平均年収を払ってでも、借金をしてでも子どもを買う現実がある。中国は農村と都市で戸籍制度が違う。社会保障が農村では遅れているので老後の面倒を見てくれる子どもが必要なのだ。

誘拐には大規模な犯罪組織がある。数百人のメンバーが全国14省にネットワークを張り、子どもを誘拐してきては農村で売る。場合によっては警察が誘拐組織と癒着しているケースもある。

こうして誘拐された少年を、百度はAI顔認証技術を駆使することで探し出す。

付貴さんは1984年11月16日重慶生まれ、今年で33歳である。90年、付貴さんはある日突然姿を消し、家族は探し続けたが27年間その行方は分からないままだった。でも父の付光友さんと家族は決して諦めなかった。

16年12月、付貴さんの家族は「たとえ亡くなっていても会いたい」という思いから、ボランティアの勧めで人探しサイトに息子の情報を登録する。

一方、何者かに誘拐された付貴さんは、重慶市から約1800キロ離れた福建省で生活を送っていた。付貴さん自身も自分が誘拐されたことに気付き、生みの親を探すため09年9月に尋ね人サイト「宝貝家網」で自分が誘拐された情報を登録した。

百度と宝貝家網は今年3月に事業提携し、AIによる年齢操作、つまり、子ども時代の付貴さんに27年を加齢する顔認識技術を捜査に用いた。AIに子どもの顔が大人になるとどうなるかというパターンを学ばせることにより、子どもの頃に誘拐された人の当時の写真と、大人になった人の写真から誘拐された人の写真を絞り込み、特定することに成功したのである。

現在33歳の付貴さんも6歳当時とは容貌は異なる。百度は中国政府が持つ200万人分、2億枚の写真をAIに読み込ませ、顔の経年変化を学ばせた。この年齢操作を行ったAIの顔認証技術を使い、尋ね人6万人の写真データから可能性がある写真30枚を選び出した。その中に付貴さんがいたのである。最終的にはDNA鑑定を受け、親子は27年ぶりの再会を果たした。

このように、検索サイト百度は、13億人の人口を抱える中国が持つ莫大な情報を活用し、ビッグデータを応用する企業へと舵を切ろうとしている。

百度研究院の林元慶委員長は言う。

「顔認証に影響する要素は多いのです。年齢操作を行った顔の認証はさらに難しくなります。そこで距離計量学習(自然言語処理をはじめさまざまな分野で2つの対象がどれくらい遠近があるか測る尺度)の手段を用い、大量の顔認証データで訓練を行った模型を基礎とし、年齢操作を行ったデータを用い、更新を行いました。現在、公安部とも協力しながら1人でも多くの行方不明者が、1日も早く帰宅できるようにしたいのです」

世界第2位の経済大国・中国の抱える矛盾

一方、アリババでも、昨年「Tuan yuan」というサービスを開始。警察との提携で、行方不明になっていた何百人という子どもの救出に成功したことが、中華人民共和国公安部で確認された。

このサービスは、行方不明児童が最後に目撃された場所付近に所在するアプリユーザーに、子どもの写真と特徴などを記したプッシュ通知が配信されるというもの。

児童が発見されない場合、通知範囲が広がっていく仕組みだ。昨年11月にはアリババの巨大ネットショッピングサイト「タオバオ(淘宝網)」や百度、テンセントの人気メッセンジャー「QQ」、中国版ウーバーといわれる「滴滴出行」とも提携し、捜査網をさらに拡大。例えば滴滴のアプリに装備されているGPS(全地球測位システム)を用いて、最後の目撃地から半径100キロ以内のアプリユーザーがプッシュ通知を受けとることが可能になった。

子ども・女性の人身売買犠牲者数が年間2万人以上にのぼると報告されている中国では、各自治体が誘拐対策に力をいれているほか、中華人民共和国公安部が何百万人民元にものぼる誘拐対策資金を供給しているが、事態に改善の兆しは見られないという。

中国政府は、農村と都市部の格差是正、農民の老後保障、誘拐組織と地方の警察組織の癒着を止めないと、この問題の根本的な解決には至らないだろう。

ITや電子決済や投資やマネーゲームという、この沿岸部の異様なまでの生き馬の目を抜く成長発展のスピードと、見捨てられた前近代的な内陸農村部の格差が、現代中国の現実である。

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