経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

原油使用量を限りなく減らすボトルtoボトルのリサイクル

齋藤義弘 サントリーHD

日本のペットボトルの回収率は約94%、リサイクル率は約86%。汎用性が高く衣類用の繊維や綿、食品用トレーなどへ再利用されている。しかしそれらは、一度使うと捨てられてしまう場合が多い。サントリーはペットボトルをペットボトルに作り替え使い続ける水平リサイクルを先導してきた。文=萩原梨湖(雑誌『経済界』2024年8月号巻頭特集「歴史が動いた! 企業の素材発掘記」より)

齋藤義弘 サントリーHD
齋藤義弘 サントリーHDサプライチェーン本部サステナブル開発部部長

繊維やトレーではなくペットボトルに再利用

 ペットボトルに関する環境負荷低減の活動は、2000年代初期から行われていた。当時は原料である原油の使用を最低限に抑えるための軽量化や、回収したペットボトルを繊維化し衣類やプラスチックトレーへ再利用するなどが主流だった。特にペットボトルの軽量化技術は着実に開発が進み、現在は消費者の使い勝手や機能性と両立できる最終段階まできている。現行のペットボトルは非常に薄く、これ以上薄くすると開封時に中身がこぼれたり、軽い衝撃で破れてしまうことがあるという。

 原油使用量削減の別の方法としては、回収したペットボトルから新しいペットボトルを作れば新たな原油を使わずに済むため効果的だ。しかし、安全性の評価方法がなかったため実現することができなかった。

 そこで、同社は08年に「ボトルtoボトル」水平リサイクルのプロジェクトを立ち上げた。ペットボトル水平リサイクルの方法には、ケミカルリサイクルとメカニカルリサイクルの2種類がある。ケミカルリサイクルとは、ペットボトルの素材であるポリエチレンテレフタラート(PET)の分子の鎖を化学的に分解し、もう一度つなげる方法だ。それに対しメカニカルリサイクルは、PETの分子の鎖は切らずに、洗浄・除染し、再びペットボトルに作り替える。メカニカルリサイクルでは、比較的きれいな状態で回収されたペットボトルを扱い、汚れや異物の混入が見られるものは分子レベルで洗浄できるケミカルリサイクルを行うなど、飲料業界ではどちらの方法も導入している。日本で回収されるペットボトルはリサイクル意識の高まりから、すすいでから回収に出す習慣もあり、汚れたペットボトルの割合が少ないためメカニカルリサイクルが主流だ。ケミカルリサイクルはメカニカルリサイクルより多くのエネルギーを要するため同社はメカニカルリサイクルを推進している。

 ただしそれには安全性の評価などの壁があった。当時プロジェクトを牽引していた齋藤義弘氏は、「お客さまの口に入る飲料を入れる容器なので、安心・安全が最も重要です。お客さまによっては抵抗のある方もいるであろうリサイクルを認めてもらうために、まずは安全性の評価の基準を作りました」と話す。協栄産業と協力してメカニカルリサイクルペットボトルの安全性を検証し論文を発表した。

 「これが私たちや飲料業界全体にとっての大きな一歩でした。私たちの安全性に対する考え方をオープンにすることで、各社それをベースに評価するようになり、ボトルtoボトルリサイクルが急速に進みました」(齋藤氏)

 そこから4~5年の期間を経て、18年には今まで以上にCO2排出量の削減を図った「FtoPダイレクトリサイクル技術」を開発した。既存のメカニカルリサイクルでは、回収したペットボトルを粉砕・洗浄してできたフレークを高温で融解し、それを結晶化させた樹脂ペレットを成形工場に輸送して乾燥させ、再び高温で溶融し、ペットボトル型の前段階であるプリフォームを成形していた。今回の開発では、この2度の溶融工程の間にある「結晶化処理」「輸送」「乾燥」の工程をなくし、溶けたフレークから直接プリフォームを成形するF(フレーク)toP(プリフォーム)を実現した。

水平リサイクル率は49%。ここからは業界全体を牽引

回収したペットボトルを粉砕・洗浄しフレーク状にしたもの。FtoPダイレクトリサイクルではこれが直接プリフォームになる
回収したペットボトルを粉砕・洗浄しフレーク状にしたもの。
FtoPダイレクトリサイクルではこれが直接プリフォームになる

 齋藤氏自身は、08年から12年の間このプロジェクトに携わっていた。ここでは、ペットボトルとして使用できるレベルに物性を回復させる技術が必要で、齋藤氏はこれが最も難易度が高かったと語る。

 「ペットボトルはお客さまが飲み終わった後、回収される段階で劣化してしまいます。それを再びペットボトルとして使うには、繊維などに加工する場合よりも、PETとしての質を高い状態に回復させなければなりません」(齋藤氏)

 高温真空処理という技術でPETの物性を回復させ、プロジェクトチームはその安全性を確認するためにどんなテストが必要か議論し、リサイクルメーカーに掛け合い実際に安全性を検証していた。現在ではこの方法が主流になり、さらにFtoPの技術も確立されたことで、同社の水平リサイクル率は49%に上る。業界全体でも29%まで広がっている。

 これは開発当時から根底にあった「業界全体で水平リサイクルを進めていかなければならない」という考え方を引き継ぐことで達成することができた。

 「当時から私の上司たちは、業界全体でやらなければ意味がないと言っていて、私も強く共感していました。13年にこのプロジェクトを離れ、21年に戻ってきたときに、若手のメンバーが同じ意志をもって取り組んでいることを感じうれしかったです」(齋藤氏)

 サントリーグループは30年までに、リサイクル素材と植物由来素材等100%に切り替え、化石由来の原料の新規使用量をゼロにする「ペットボトルの100%サステナブル化」を宣言している。そのためには回収するペットボトルの品質を上げていくことも重要であるため、飲料を飲み終えた後の場面から始まるTV-CM・WEB動画を制作・放映し、分別啓発活動も同時に行っている。

 「ペットボトル回収率がまだ100%ではないので、足りない部分は別の素材で補わなくてはなりません。そこで化石由来の素材を使うのではなく、植物由来の素材を使うなど、リサイクルにとどまらずサステナブルな考え方で素材開発やパッケージ開発を行っていきます」(齋藤氏)