経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

海外で飲食店経営を成功させる秘訣とは―早川宗徳(ダイニングイノベーションUSA社長)後編

イゲット千恵子氏

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

早川宗徳氏プロフィール

早川氏3

(はやかわ・としのり)1968年生まれ、兵庫県県出身。専門学校中退後ハワイに渡航。日本食レストランでの勤務、観光客向けオプショナルツアー立ち上げなどを経た後、企画した健康食品がヒット。2001年、牛角創業者の西山知義氏と出会い、ハワイでの出店を任され成功した後、03年にロサンゼルスに渡り、アメリカ本土での事業拡大を実現する。引退後、ダイニングイノベーションUSA社長として、北米、ヨーロッパに日本食を広める活動を展開。16年、日本で人気のうどん専門店「つるとんたん」のニューヨーク1号店をオープン。2号店およびハワイでの出店計画も進行中。

飲食店の海外進出で特に重要な人材育成

イゲット ハワイで牛角を2店舗成功させて、その後LAに来たということですが。

早川 ハワイではオープン当初からそれなりの結果を出すことが出来ました。そしたら西山(牛角創業者)から「米国本土はどう思う?」と聞かれたので「やらせてください!」と即答しました。それで03年にLAに引っ越してきたんです。

イゲット わずか2年ほどで、店を任せられる人を育てて本土に来たということですね。ハワイでは人を育てるのが難しいと皆さんおっしゃるんですが、どのように対応したのですか?

早川 僕も含めて全員現地採用だったので、日本の店舗運営のノウハウを知っている人が誰もいなかった。とにかく鍵になるのは人だと思ったので、人を育てることに注力してきました。従業員に対しては「我々は全米展開という大きなビジョンを持っているので、経営者、経営幹部として一緒に会社を大きくしよう!」「僕がいなくても経営者意識を持ってしっかりやってくれ!任せたぞ!」と、意識付けをしっかり行い、ハワイを任せられる人材を育ててから本土に来ました。

イゲット 店長クラスには、どんな方々を選んだのですか?

早川 飲食での経験が沢山ある人よりも、飲食業界に染まっていないピュアな人達の方が最後まで残ってくれましたね。「アメリカの飲食店はこうだ」という固まった考えではなくて、「我々の考え方はこうなんだ」という風に考えられる人達を求めました。人はこちらが育てないと、絶対に育たないと思っています。多くの経営者は、良い人材を探すことを重視しますが、育てることにあまり時間を割きません。

 特にアメリカは多様な人種がいる国ですから、日本人のように「これは当たり前だよね」という共通認識がほとんどない。ですから、こちらがするべきことは「こういう人が評価されて、こういう人はダメ」と、基準をハッキリ言ってあげることなんです。

イゲット 本当にそうですよね。言われないと分からないというのがこちらでは当たり前ですから。

飲食店経営の成功者が海外で陥りがちな失敗とは

早川 幹部をしっかり育てて企業カルチャーを作れば、その人達が下の人を育てるようになります。そして店舗のリーダー達がちゃんとしないと、アルバイトもちゃんとしない。本部が管理できることは限られているので、お店の質を決めるのはリーダーである店長なんです。店長のレベルによって店のレベルや客数、売上、利益は大きく変わります。

イゲット 教育の仕方はどんな感じだったのですか?

早川 価値観や考え方の共有がとても大切で、例えば四半期に一度、全ての店長や幹部社員をLAに集めて、フォーラムを行いました。朝から晩まで表彰式と勉強会。どんな考えでビジネスをしなければならないか、人に喜ばれないとビジネスは続かない、といったことを四半期ごとに繰り返し教育します。表彰される社員の基準は、売り上げや利益だけではなく毎週1回入る覆面調査なども評価します。

イゲット 覆面調査をそんなに頻繁に行っていたんですね。

早川 売上や利益といった基本的なことも大事ですが、その手前の段階でお客様がどれだけ喜んでいるか、ということを重視して評価していました。フォーラムにはフランチャイズのオーナーさんも参加して、同じように教育していました。だから思想や価値観がブレることがほとんどなかった。それが牛角のアメリカでの拡大を後押しした要因でもあります。

イゲット 人を育てる重要性に気付くところが、なかなか日本のビジネスマンにとって難しいところですね。本気を見せる部分の大切さというか。

早川 日本からこちらへ進出される方の相談にもよく乗るのですが、往々にして日本で成功された経営者の方々は自信があるのでローカライズしなかったり、マネージメントの仕組みにおいても日本のフォーマットのままやろうとする傾向があるように思えます。そこをアジャストしていくこともこちらでの成功の鍵だと思います。

従業員に経営者意識を持たせる大切さ

イゲット 牛角の場合、具体的にローカライズしたのはどのあたりですか?

早川 たとえば、看板も最初は「焼肉酒家」と漢字で書いてあったり、もしくは英語で「YAKINIKU DINING」と書いてあったりして、それでもLAの1号店は日本人のお客様がある程度いたので繁盛したんですが、ビバリーヒルズに出した時は全然ダメでした。

 従業員に「この看板どう思う?」と尋ねたら、「アジアの食べ物という印象でしょうね。漢字のロゴとダイニングと書いてあるから」と。でも、焼肉が何かは多くの人が分からない。そこで「JAPANESE BBQ DINING」と書き換えた。これで日本食であることが分かるし、バーベキューだということも分かる。

 ハワイなら現地の人でもYakinikuが分かりますが、アメリカ人は普通、室内でバーベキューをしません。だから、バーベキューという言葉を使って説明しないといけないんです。あとはアメリカ人好みにタレを甘くしたり、肉を分厚く切ったり、アメリカ人が喜ぶ商品を開発したり、牛肉以外にチキンや豚やシーフードを充実させてみたり。そうやって改善を繰り返してアメリカ人のお客様が喜んでくれるようになると行列ができるようになりました。

イゲット ハワイはアジア人が多いですが、本土はエリアによって人種構成が変わりますからね。メニューも大きく変わるんですか?

早川 ベースは同じですが、地域ごとに違うものを加えていきました。更に、店長たちを教育していく中で、「言われたことをやったのに上手くいかないのは自分の責任ではない」と言わせないために、「駄目だと思うことは何でも言って来なさい。それが的を射ているならやってみよう」と伝えました。

 何百店舗もやるなら、こうしろ、ああしろだけではなく、現場のリーダー達にある程度権限を与えないといけません。従業員には経営者意識を持ってもらえるよう教育し、こちらはそうした部分を評価しているよ、ということをしっかりと伝えていきました。

 業績が良かったので、その資金で直営店もどんどん出店できたし、フランチャイジーは魅力的なビジネスなので加盟させてほしいと言ってくるようになり展開が加速していきました。お客様も、従業員も、フランチャイジーも、取引先様も皆んなが喜ぶビジネスモデルでばなければ展開は出来ないと思っていました。

つるとんたんの海外進出を実現

早川氏ツーショット

イゲット 牛角さんを引退されたのは今年2月ということですが。

早川 自分はその少し前から、つるとんたんプロジェクトを始めていました。アメリカでのつるとんたんプロジェクトが始動したのが2年前で、1号店がオープンしたのは昨年8月です。

 最初は、西山からつるとんたんという面白いうどん屋が日本にあるので、米国展開についてどう思うかと尋ねられました。パスタ文化が強いアメリカでは正直難しいと答えたのですが、後日、日本で実際に見てみると、外国人のお客様がたくさんいたんです。その中でもアジア系の人が多くて、台湾系、中国系や韓国系の人たちが日本に観光に来ると必ず寄るお店だということでした。

 アジア系の人々は家でうどんを食しているということから実はラーメンよりうどんの方に馴染みがあるんです。そしてアジア系のお客様が、アメリカ人のお客様を連れてきてくれるので、アメリカ人にもどんどん浸透していくと確信しました。

イゲット アジア系は米国に沢山住んでいますし、確かにそうですよね。

早川 日本ではカトープレジャーグループさんが「つるとんたん」を運営していていました。そこで、カトープレジャーグループさんに交渉しに行ったのですが、海外展開するつもりはないし、いろんな国から引き合いがあるけど全部断っていると最初は言われました。うどんは手打ちして管理する職人業態で、店舗を増やしたらブランド全体のレベルが下がるのでやりたくないというのが理由でした。

 でも我々はアメリカでの店舗展開の実績もあるし、どうしてもやらせてもらいたかった。何度か交渉し我々の運営するアメリカのお店やシステムを実際に見てもらい、「御社ならお任せ出来る!」ということになり最終的にパートナーシップを結ぶことになったのです。

イゲット つるとんたんも、西山氏とのつながりで始めたんですね。

早川 ダイニングイノベーションという会社は、西山が世界に日本食を広めたい思いで作った会社です。今、世界で約150店舗を手掛けています。

私自身、北米牛角を引退した後については、いくつかの選択肢があったのですが、やっぱりデカイことがやりたかったので、西山と一緒にやるのがベストだと決断しました。

飲食店はシンプルに勝負できる領域

イゲット 今後のつるとんたんの出店計画は?

早川 ニューヨークで2号店をつくっている他、ハワイのワイキキに一号店を作り始めています。

イゲット ハワイは日本の観光客も多いし、すごく良い場所ですね。

早川 日本人もローカルの人たちも、ワイキキで働いている人も食べに来てくれるのではないかと思います。展開においては150席〜200席くらいの大箱のお店で、大都市に一店舗ずつ出していく予定です。米国、カナダとヨーロッパのメジャー都市に50店舗ぐらい出店したいと考えています。

イゲット 今後の事業展開について。

早川 もちろん次の業態も考え始めています。今の時点ではしゃぶしゃぶなのか、焼鳥なのか、それ以外の業態なのかは分かりませんが、飲食店はエンドユーザーの顔がしっかり見えるので国や地域が違えど、美味いかマズいか、お客様が喜ぶか喜ばないかというとてもシンプルなことなので、これからも外食の世界で勝負していきたいと思います。

 日本食を通じて世界中の人々の笑顔が見られるように頑張っていきたいと思っています。イゲット千恵子×早川宗徳(前編)

ChiekoEggedDSC_3145(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

イゲット千恵子氏の記事一覧はこちら

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る