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長妻 昭 衆議院議員に聞く「原点回帰の政党、政策づくりと野党再編」

当選7期目のベテランが口にしたのは、意外にも「反省」と「原点回帰」だった。10月22日に行われた総選挙で野党第一党となった立憲民主党の代表代行兼政調会長・長妻昭衆議院議員だ。

民進党と小池百合子東京都知事率いる希望の党の合流劇では、リベラル派が排除され、長妻氏は枝野幸男氏らと共に立憲民主党を旗揚げ。「切羽詰っての行動」(本人)だったが、有権者は、筋を通して明確に安倍政権の対向軸としての政策に大きな支持を寄せた。

そんな中で長妻氏は、それまで永田町の論理に染まっていた自分をいまさらのように反省し、国民主権、民主主義という原点をもう一度取り戻す政党づくりや政策作りを始めるという。厚労相経験もある長妻氏の社会保障政策は特徴的だ。立憲民主党の政策責任者として、今後の野党再編も含め、直撃した。 聞き手=政治ジャーナリスト・鈴木哲夫 Photo=幸田 森

長妻 昭氏プロフィール

長妻昭

ながつま・あきら 1960年生まれ、東京都中野区出身。慶応義塾大学法学部法律学科卒業後、日本電気入社。同社退職後日経BP社に中途入社し、電機メーカー、金融、行政などの分野で取材・執筆に従事。2000年6月衆議院議員選挙で初当選。民主党政権で厚生労働大臣・年金改革担当大臣を務める。17年10月の衆議院議員選挙で立憲民主党より出馬し当選。同党代表代行、政務調査会長に就く。

長妻昭氏の反省とは

―― 今回の選挙で立憲民主党の勝因は。

長妻 街に出た時に、本当に多くの人からよくぞ貫いたと言われました。理念とか主義主張を変えないことへの評価ですね。今回、普通の新党とはちょっと違うと思うんです。

今回気付かされたのは、私自身が永田町に染まって、数の論理、国会では多数派を作らなければならないと思ってきたことが正しかったのかということでした。国会の中で無理して多数を作ると、国民の中では支持は少数に減ってしまう。ところが、国会の中で少数派になってもきちんと主義主張を曲げずに発信し続けると、国民の中で支持が広がるという逆の状況が生まれるということです。

―― 出遅れた選挙だったが、選挙戦ではどんな戦略を?

長妻 蚊帳の外にいた有権者の方々に直接選挙に、政治に参加していただけるように何ができるかを考えました。例えば具現化した一つのツールがツイッターですね。党の活動や、苦しい内情まで包み隠さず発信し、“#立憲カメラ”とハッシュタグをつけ、一般の有権者が撮った映像をシェアしたりしました。現場に来ることができない人も同じような臨場感が味わえるようにしました。

このほか、演説も一方的に上から政策を言うのではなく、「語りかける」「語り合う」という双方向性を心掛けました。例えば、まず有権者こそが政治参加の主役ということで、「みなさんはどんな人生をお過ごしでしょうか」と訊ねるところから始まり、次に私はこう思うと語る。それぞれの候補者が自分の経歴や人生も含めて対等の立場で語り合うという演説です。もちろん宣伝カーの上ではやりません。有権者と同じ目線に立つ。うちの候補者はできる限りそういう演説をしました。

―― 今回の総選挙も世論調査によると有権者が求めている争点は社会保障がトップで、北朝鮮や憲法改正などとズレていました。立憲民主党の社会保障政策は。

長妻 大事なポイントとしては、「格差が拡大すると経済は成長できない」ということです。その考え方は、今世界でもほぼ共有されつつある。OECDもIMFもリポートを出し、ノーベル経済学賞のスティグリッツ教授もそう言っています、

その感覚が、今の政権には圧倒的に欠けているんです。格差が拡大すると、力を発揮できる人というのは恵まれた家庭に生まれた人に限定されてしまう。一部の人の働きに留まってしまうので経済成長もなかなかできない。だから、その壁を取り除くことで社会経済の基盤を固めるということです。壁を取り除くための社会保障を行うことは経済政策でもある。安倍政権は、われわれが言っていることを、表層的に真似していると思いますね。

―― 例えば「人づくり」?

長妻 人づくりとか、教育無償化とか。最近は高校の授業料無償化も与党がやったみたいなこと言っていますが、かつてあれだけ子ども手当に反対してバラマキだって批判していたのに(苦笑)。働き方改革とか、介護離職ゼロとか、人材育成とか、生産性革命などは、聞いているとどうも言葉だけ、スローガンだけで中身がないので、要注意なんです。

―― ゼロとか革命とかいう言葉を安易に使っていますが、現状認識が甘いと思う。

長妻 まずは、どんな家庭に生まれても、やる気と能力があれば、適切な教育が受けられる社会を作りたい。今、教育費の家庭の自己負担比率は、日本はアメリカよりも高くて先進国1位なんです。大学など行きたければ自分で用意しろということになっています。そうなると年収400万円以下の家庭では4年制大学に進学できるのは3割しかないという結果になってしまっている。

そんなこんなで日本の大学進学率は平均5割程度にしかならない。OECD30カ国の平均は6割ですから先進国内でも低くなっています。意欲と能力があれば、適切な教育を受けられるというのは先進国なら当たり前なんですね。教育は、社会がするものであると。お金も含めて。ところが日本は家庭がするものだという、過度な自己責任社会になっていて、自分で頑張れって言うけれども、頑張りきれずに能力が潰されているんです。

長妻昭氏が考える社会保障対策、経済政策のあり方

―― 教育だけでなく、労働環境も現状は厳しい。

長妻 日本のような非正規雇用が4割を超えている先進国なんてありません。企業にとって人件費は確かに重いテーマですが、自民党は政策的に法律的にどんどん非正規雇用を増やしたわけです。極めつきは、小泉内閣のときの派遣という働き方の解禁ですね。ただその結果経済にとってもマイナスになった。

要するに稼ぐ力で言うと、労働生産性なんですが、日本は先進国で20位まで落ちてしまった。これは非正規雇用が原因でもあると内閣府もペーパーで認めました。いつでも解雇できると思ったら企業はあまり熱心には職業訓練しませんし、重要な仕事というか、スキルが上がるような仕事も任せない。付加価値を生み出す力が弱くなってしまうわけですね。

こうした構造は、社会の形にも影響してきます。非正規雇用では20代から50代まで、年収も上がらない。結婚したいけどなかなかできない。結果、非正規雇用の方は結婚率も正規雇用の方の半分以下です。そこも原因となって、日本では男性は4人に1人は一生結婚しないことが現実に起きている。さらにまた与党は残業代ゼロ法案を出してくるわけでしょ。

安倍首相は、雇用法制は岩盤規制だからってドリルで穴を開けるなんて言っていますが、むしろ適切にメリハリつけて規制して質の高い雇用を守らなければならないのに、これをさらに壊して非正規や契約社員を増やしていくなど全く容認できない。

―― 女性の環境も問題は多い。

長妻 男女賃金格差ですね。男女で同じ仕事をしているのに、性別が違うだけで賃金が倍以上違う。先進国では、こんな国もないですから。女性が家で育児と介護に押しつぶされてるとか、シングルマザーの貧困率は50%とか。一人暮らしの女性の高齢者は2人に1人が貧困状態にある。これも大変な状態なんです。

―― 社会保障は政治の最重要テーマということか。

長妻 これまで申し上げたように、力の発揮を邪魔する壁を取り除いて力を発揮できるようにするというのが、社会保障であり、かつ経済政策であり、社会政策であるというのが立憲民主党の視点です。安倍政権がやっていることはあくまで生産性向上が目的であって、そのための手段として人づくりとか社会保障政策があるとしか見えません。

生産性向上というのは、イコールGDPです。これが目的化しているのではないか。実は、目的と手段が全くあべこべの話なんです。経済成長が目的であれば、過労死が増えても経済成長すれば目的を達成しているとなりかねない。でも、われわれの目的は安定した生活と、もっと言えば幸せな生活。その手段としての経済成長なんです。

―― 一言で言うと「人」。政策の芯に「人間として」というものを置くということか。

長妻 私が懸念するのは、政策的に人を役に立つ人と役に立たない人に分けて、その基準は経済成長にプラスになる人は役に立ち、そうでない人は役に立たないと。こんな風潮が生まれてきてはいないか。そして、活躍する女性とか、プラスになる人だけを引き上げていくような政策になりかねないところです。

これって、安倍政権得意のトリクルダウンですね。経済のトリクルダウン理論は、お金持ちをさらにお金持ちにして、おこぼれが滴り落ちてくるっていう理論ですけど、人材についても本当に経済成長にプラスになる一部の人をさらに引き上げて、それでその下のみんなも良くなるみたいな発想です。明らかにわれわれと根本の哲学・思想と全く違うところです。人材に上も下もない。多様性を認め多様な生き方も認め、全員野球で、というのが、われわれの前提です。

長妻昭氏の憲法改正と野党再編についての考え

長妻昭

―― 憲法改正についてはどう臨む?

長妻 自民党の議論を聞いていると、憲法を変えないのはおかしい、まず変えるという前提ですよね。ただわれわれとしては、憲法改正が国の政策の最優先課題とは考えていません。ただ、憲法について大いに議論するというのは、否定しないと。

―― 今の改憲論議というのは、国家権力を縛るのではなく、それを緩めるという方向の議論が多いと。

長妻 そう。だから、憲法の役割をどう考えるかというところです。

―― 今後の野党再編はどうか。安倍一強に対抗するには、選挙制度などからも、野党が大きな塊や政党にならなければいけないのでは?

長妻 これまで私たちが数集めを重視しすぎて、期待してくれた有権者を蚊帳の外に追いやってしまった反省からすれば、今後の野党再編は、従来の発想ではない形で慎重にやらなくてはなりません。安易な合従連衡はやっぱりしないということですね。新しい政党でもありますし、まずは内部で、理念や主義主張をさらに具体化していく作業が必要です。

一番いいのは国民全員が国会議員になることですが、物理的にできないから代表者を選んで頼むぞということであって、好き勝手にやっていいわけではない。代理人として国会でやっているわけですから、政策を作り上げるのも、SNSなどを使って有権者に直接参加してもらうやり方を考えたいと思います。

私がコメンテーターをしている「みんなのニュース」(フジテレビ系列)で独自に分類したところ、野党が分裂し自民党と野党複数の三つ巴対決となった小選挙区は175で結果は自民党の136勝だが、自民党と希望や立憲民主との一騎打ちとなった選挙区は36で、結果は自民が19勝で野党が17勝と何と互角の戦いだった。つまり、野党が一本化すれば安倍批判票が確実に流れ互角に戦えるという現実がその答えである。長妻氏は「(野党再編は)安易な形ではやらないが、結集が重要だということも分かる」と語った。時間をかけた理念型野党再編となりそうだ。(鈴木哲夫)

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