自動運転とは
人間の運転操作なしに自動走行が可能な自動車。今の自動運転はレベル2というもので、限定された条件での人の補助だ。それがレベル3、4となるに連れ、人の関与が少なくなり、レベル5では、人が乗らなくても走行できる、完全自動運転となる。2020年代に迎えるその時に向け、熾烈なOS戦争が始まっている。
自動運転車のビジネスモデルはすべて海外から
11月8日、NTTドコモが新しいサービス「dカーシェア」を始めた。これは月額利用料無料で、カーシェアリング事業者が提供する「カーシェア」、個人間カーシェアリングの「マイカーシェア」、国内主要レンタカー事業者が提供する「レンタカー」の3つのサービスをまとめて利用できるプラットフォームだ。
利用者はまず、「dカーシェアアプリ」をダウンロードする。これだけで、レンタカーやカーシェアリング、さらには個人が提供するクルマを選び、好きな時に運転することができる。決済も、スマホ上で行える。今後クルマは所有するものから利用するものになることを前提として、そのプラットフォームを目指そうということだ。
今の時代はプラットフォーム競争でもある。プラットフォームを制するものが、市場を支配する。アマゾンが好例だ。
dカーシェアは、カーシェアリングのプラットフォームだが、世界では、カーシェア以上にライドシェアが普及している。その世界ではウーバーが圧倒的な力を持つ。サービスを開始したのは2010年。最初は「ウーバーブラック」というリムジンカーの手配サービスからのスタートだったが、すぐ配車されることに価値があることに気が付き、ビジネスモデルを大転換した。いまやウーバーは世界75カ国で展開するまでになり、未上場ながら時価総額は一時GMを上回った。
最近では、ソフトバンクグループがウーバーに14%超を出資することが明らかになった。金額は最大100億ドル。これまでにもソフトバンクはインドのオラ、中国の滴滴出行などアジアのライドシェアに出資を続けてきたが、いよいよ本丸ともいうべきウーバーに乗り込む。
タクシー業界の反発や規制もあって、ウーバーは日本ではなかなか事業拡大ができずにいるが、ソフトバンクが一枚加わることで、今後の展開は違ったものとなる可能性が出てきた。
問題は、新しい時代のビジネスが、常に海外で起こっていることだ。海外の市場を押さえたプラットフォーマーが日本に上陸、シェアを伸ばしている。民泊のエアビーアンドビーなどがその代表で、国産の民泊サイトもあるが、圧倒的シェアをエアビーが握っている。
これはデファクトスタンダード競争にも当てはまる。クルマ社会における最大の関心は、自動運転のシステムの主導権をどこが握るかだ。
現在のところ、各自動車メーカーやグーグル、あるいはアップル等、それぞれ独自の運転システムを構築、実験を重ねながら一部で実用化され始めた。
現段階における自動運転は、あくまで1台のクルマが独自に判断する。その場合、メーカーごとに違うシステムで問題ないが、やがては、すべてが結び付く時代がやってくる。クルマ同士が通信し合い、近くにどのクルマがいるかを確認し合いながら走行すれば、見通しの悪い交差点での出会いがしらの衝突を防ぐことができる。さらには俯瞰位置にカメラを設置、そのデータを加えることで、道路状況をより詳しく把握することができる。
AIによって自動運転がレベルアップ
このような全体システムの場合、パソコンで言えばOSのような基幹システムが絶対に必要になる。しかも、地域ごとにシステムが異なれば、自動車メーカーはそれぞれに対応したシステムを搭載しなければならなくなるため、グローバルスタンダードの規格が求められることになる。そうなった時に、どのシステムが採用されるのか。
自動運転は公共性が高いため、システムの1社独占ということはあり得ない。各社が技術を持ち寄って、共通規格ができあがることになるが、それでも、主導権を握れば、知財などによって上がる収益は莫大なものとなる。それだけに、企業間、そして国家間で熾烈な綱引きが行われることは間違いない。
その場合、重要になってくるのは、いかに実績を積み上げているか。いかに実用的なシステムか、ということに尽きる。
アメリカでは、10年には自動運転車の公道実験が始まったが、日本では、高速道路で13年、一般道では15年からようやくスタートした。しかも、そのコースは限定されている。その点、アメリカは既に実証実験の時代は過ぎ、実用実験のフェーズに突入している。
また中国ではBMWと百度が提携し、中国全土で実験を重ねている。いずれも日本に比べてはるかに規制がゆるいため、より多くのデータを集めることができる。自動運転車に搭載されたAIは、経験によってレベルがアップする。当然、実験を重ねれば重ねるほど、性能が上がっていく。今のままでは、日本が自分たちの仕様を主張しても通らない可能性が高い。
スバルのアイサイトに代表される運転支援システムでは、日本車は世界のトップを走っていた。ところが自動運転になった途端に、目立たない立場に追い込まれてしまった。
キーデバイスについても同じことが言える。自動運転車は、数多くのセンサーを装備する必要があるが、そのセンサーでトップを走るのが、ドイツの部品メーカー、コンチネンタルだ。コンチネンタルの部品はベンツなどドイツメーカーだけでなく、日本車にも幅広く使われている。部品メーカーといいながらも、コンチネンタルは独自の自動運転車を開発、既に公道での実証実験も行った。前述のBMWと百度の提携にも加わっている。
自動運転に欠かせない画像処理エンジンで強さを発揮するのがNVIDIA。もともとはスーパーコンピュータ用のプロセッサを開発・製造してきたが、それが自動運転の一方の主役に躍り出た。NVIDIAに対しては、トヨタやソフトバンクが出資するなど、大手企業が日参している。
センサーにしても半導体チップにしても、日本メーカーが得意とする分野のはず。しかしこと自動運転に関しては、日本メーカーの存在感は薄い。
EVシフトが進み、さらには自動運転が普及すると、自動車単体の製造では利益が出ない時代がくる。パソコンが普及した結果、利益を得たのはインテルとマイクロソフトだけで、国産パソコン製造メーカーは、再編へと追い込まれた。自動車産業においても同じ歴史が繰り返される可能性は極めて強い。
このままでは自動車製造台数で世界一を誇る日本の自動車産業が斜陽産業となる。そうならないためにも、今からでも規制緩和を徹底的に進め、公道での経験を積み重ねる以外にない。その決断ができるかどうかに日本の産業の未来が懸かっている。
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