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破綻のどん底からスカイマークはなぜ復活できたのか―市江正彦(スカイマーク社長)

2015年1月末に破綻したスカイマーク。民事再生決定後もスポンサー選びで混迷したが、民事再生の終結から、わずか1年後の16年度には早くも67億円の純利益を出すなど復活を遂げている。では、その復活劇の裏で、現場の社員たちは何を思い、どう行動したのだろうか。彼らの気持ちをいかに一つにまとめ、社内改革をどのように進めたのか、新生スカイマークの舵取りを担う市江正彦社長に話を聞いた。聞き手=古賀寛明 Photo=佐藤元樹

市江正彦スカイマーク社長プロフィール

市江正彦スカイマーク社長

いちえ・まさひこ 1960年福岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。同行企業金融第1部長、常務執行役員、2013年取締役常務執行役員を経て、15年9月、スカイマーク代表取締役社長に就任。

破綻したスカイマークの信用・信頼回復方法とは

―― 15年の9月末に社長として来られましたが、その時の社内の雰囲気はいかがでしたか。

市江 私が社長に就任した時には社内に重苦しさといった雰囲気はありませんでした。というのも、私より前に関わることになった佐山展生現会長が、既に「雇用は守ります」と宣言していましたから、暗い雰囲気が漂っているといったことはありませんでした。しかしながら、入社した初めの半年間は大きな不安に付きまとわれていましたね。

―― 不安ですか。

市江 そうです。当時、機材が足りないという問題に直面していたのです。既に民事再生の手続きに入っており、まだゴタゴタが続いていましたから、機材の性能には全く問題がなかったのですが、飛行機にとって車検のような「耐空証明」を取得するのに必要な検査が追い付かず、さらに新しい機材も使えない時期が続きました。さらに、そういった事態を想定せずに時刻表を組んでいましたから、16年の初頭に飛行機が足りないということで運休を出さねばならなくなったのです。

ところが既に1千人以上のお客さまに予約していただいていましたから、社員たちがそれぞれお客さまへ電話をかけて謝罪しなければなりません。当然ですが、お客さまからは「もう使いたくない」というお叱りを受けましたし、航空券を売っていただいている旅行会社にもご迷惑をかけてしまいました。お客さまにご迷惑をかけたのはもちろんですが、社員を見ていてもつらそうでした。その後、ANAさんから出向で来ていただいていた整備の方々を中心に知恵を絞って機材を復帰することができましたが、15年の12月くらいまでは、本当に機材は復帰できるのかと、不安に駆られていましたね。

―― では、どのようなことで不安を払拭していったのでしょうか。

市江 航空会社はよく定時性を向上させる、運休をしないということを言いますね。それは、かねてより大事なことだと思っておりましたが、運休してしまったことで、よりその重要性を感じ、新たな方針として「お客さまへの約束」というものを作りました。それはお客さまからの信用、信頼をまずは回復しようということでもありました。その中でも、安全はもちろん最優先にしますが、次に、お客さまの時間を大切にしようということで欠航、遅延は最小限にする、やむを得ない場合は他社の便を利用してでもお客さまにご迷惑をかけないようにしましょう、としました。

私自身、「1に安全、2に定時、3に経済性」と言い始め、利益よりもまず「時間どおり」ということを優先させたのです。例えば、飛行機というのは高いところを飛んだほうが燃費は良いのですが、高度が低いほうがスピードは出ますので、時間が遅れそうな時であれば、燃費よりもまず時間を優先しようとする決め事です。

これは、短期的な利益を失うかもしれませんが、予定どおりの時間に着くことで信用、信頼してくださるお客さまが増えれば、中長期的には経済性を上げることにつながるのです。もちろん、社員も定時性を上げないといけないことは分かっていたんです。何しろ、遅れればお客さまからお叱りを受けますからね。ただ、これを全社的な取り組みにしようと考えたわけです。

―― 定時性を高めるために、具体的にはどのようなことを。

市江 航空会社の繁忙期は夏ですから、その繁忙期が終わった16年の秋には、さっそく定時性向上の対策本部を立ち上げ、私が本部長に就任しました。本部からお願いしたのは、これまで乗員は出発の15分前に機内に入ってもらっていたものを、20分前に入ってもらうことや、毎朝ミーティングを行うのですが、各部門の代表と、10カ所ある支店長が参加して、昨日の定時性はどうだったのかを各支店から報告してもらい、もし30分以上の遅延が起こった場合には、週に一度の別の会議で事例を集めて、起こった原因とその問題に対して、どんな対策をしていくかを決めていくことでした。それを繰り返すことによって、結果も伴ってきまして、定時出発率が国内航空会社11社のうち、3位まで上がってきました。

かつてスカイマークの定時性が悪い時で80%ほどの数字だったこともあります。それを今は90%まで高めました。5機に1機が遅れていたものを、10機に1機の遅れになったのです。もちろん、天候や混雑空港にも影響されるのですが、それはどこの航空会社でも同じ条件です。現在、欠航率は一番低くなりましたから、定時出発率も1位を目指しています。定時性では日本航空さんが強い。しかし虎視眈々とその座を狙っていますよ(笑)。

―― 結果が出たことで、社員の皆さんも変わりましたか。

市江 そう思いますね。定時出発率は会社の総合力が出るんです。乗員、客室乗務員、整備、地上旅客、ランプ、運航管理など、それぞれの部門が自らの仕事をしっかりして、さらに連絡を密にしなければ定時性は上がらないのです。

当社の飛行機は1日に6回程飛びます。それを二十数機で行うのですから、1日100便以上、当然、人の関係、調和が重要です。定時性が上がるということは、社内のコミュニケーションも活発化させるということでもあったのです。

スカイマークの顧客満足向上への取り組み

市江正彦スカイマーク社長

―― サービスについても良くなったという声が上がっていますね。

市江 民事再生の時に、社員が自主的にもう一度サービスを良くしていこうという動きが起こっていました。体制が変わって2年がたちまして、お褒めの言葉を頂くこともありますが、まだまだお叱りの言葉も多いですから、改善する余地は大きいと思います。

例えば前に述べた、「お客さまへの約束」の中でも、3つ目の項目に、シンプルであたたかいサービスをしましょうということを謳っています。われわれはビジネスシートがあるわけではありませんし、特別なサービスを提供しているわけではありません。でも、お客さまは気持ちのいい旅をしたいじゃないですか。そういった声に応えたいのです。

確かに、昔のスカイマークは安かったのですが、一方で品質という点では問題があったのではないかと思っています。ですから、安さはキープしながらも品質を改善できればお客さまは戻ってきてくださる、そう思っているのです。

―― 以前はサービスを軽視している感じでしたが、そういった風土をどう変えたのでしょうか。

市江 破綻前の社長は、カリスマ的で、トップダウンでしたので、意思決定が速いといった良い面もあったのですが、その一方で言い方は良くないかもしれませんが、社内には従っておけば間違いないという雰囲気が見受けられました。でも、社員も心の中ではサービスは重要だと思っていた。サービスの必要性を感じながらも言えなかったんでしょう。そこで、言いやすい環境、風通しの良い社風を目指したのです。

人事評価も4、5年ほど行っていませんでした。つまり年齢給みたいな状態です。ある面では、平和でギクシャクしないのですが、努力し、よく働く人にとってはあまり好ましい制度ではありません。ですから、この4月から賞与などに評価を反映しています。

ただ、社員に伝えたのは、航空ビジネスというのはどの部門が儲かったということではなくて、みんなが協力しなければできない、社内では競争よりも協力関係が必要だということです。だから、風通しをよくしましょうと。それは、安全面に懸念があった時は、相手が上司であっても「もう一度チェックしましょう」と言わなきゃならない。それができないと、航空会社の社員としては失格です。ただし、言いやすい空気をつくることが重要なので、そんな風土、環境をつくっている人を評価したいと、伝えています。

17年の11月からは、お客さま満足向上の取り組みを始めています。定時性の向上の時と同じように、問題が起これば共有し、改善していく運動です。こうした運動が社員発で出るのも、佐山会長が「解雇はしない」と発表して安心したこともあるのでしょうが、心の中はそう簡単に変わるものではありません。

でも、今回は社員たちが変わろうという気持ちになった。そういう意味では、出資してくださったインテグラルさんもそうですが、ANAさんもオペレーションや客室サービスの部分など、スカイマークの足りなかった部分を補う人材を送って下さった。それがスカイマークの社員を前向きにし、新たな社風を生んでいるのだと思います。ですからスポンサーの組み合わせは良かったと思いますね。

スカイマークが今後目指すものと市江社長の展望

―― 今後のことですが海外への展開も考えているそうですが。

市江 この春に、チャーター便をスタートさせたいと持っています。まだまだ不確定な部分が多いですから、ハッキリ言えるのは、そこに向けて動いているということくらいです。ただ、海外はレッドオーシャン化していますから、いかに独自性をもっていけるかが重要でしょうね。

どの空港から、どこへ行くのか、日本のお客さまをお連れする場合もありますが、外国のお客さまをお連れする場合は、私どもの営業力では無理ですから、どこと組むかということが大事になります。まずはチャーターで実績を積みながら、一歩ずつステップアップといったところでしょうね。

―― 課題としては、今の機材の後継機だと思いますが。

市江 現在、ボーイング737-800という177人乗りの飛行機を26機保有しています。今後、1、2年でもう3機が追加されますが、生産を中止している機材ですから、後継機をボーイングでいえば737-MAX、エアバスであればA320neoといった機材から選ばねばなりません。ただ、どちらも新しい機材で航空会社も使い始めたばかりですから、その実績を見させていただいてから決めたいと思います。まずは、様子見といった感じですね。

―― 拠点を神戸、関東では茨城と独自路線でいかれていますが、両空港の伸び代は。

市江 神戸空港はわれわれの西の拠点ですから、便数も全体の3分の1ほどが関係しますし、パイロットや客室乗務員の拠点でもあります。また欠航などの時に代替機になる予備機も状況によって神戸におくケースもあります。

今後、関西エアポートが伊丹、関空と共に神戸も一体化した経営を行いますから、発着の枠も増えることを願っています。神戸は海上空港で三宮にも近いですから期待がもてますね。一方、茨城空港は関東でも民間機が運航していることを知らない人が多いのではないでしょうか。

しかし、羽田空港に行くよりも茨城空港を利用したほうが便利な人は700万~800万人くらいいます。茨城県、栃木県に加え、群馬県や埼玉県東部、福島県の南部の方々です。鉄道はありませんが、現在、常磐道から直接茨城空港に入る道路を地元がつくってくださっていますので、潜在的な市場として期待しています。

―― 最後に、スカイマークをどんな会社にしていきたいですか。

市江 お客さまの「安い、でも安全で、時間どおり、そして気持ち良いサービス」という意向に、ひたすら応えていける航空会社でありたいと思っています。機材を1機種に絞るのはコスト競争力があるからです。羽田―福岡便などでは、時々もう少し大きな機材であればなぁ、と思うこともあるのですが、そうするとパイロットや整備士の数が3割~5割増しになるともいわれています。

コストもそうですが整備士、パイロットの確保も難しい。前回の失敗もそこにあると考えていますから、従って1機種に絞り、機数を増やすことでスケールメリットを生かそうとしています。1機で年間三十数億円稼ぎますから、それが20、30機とあれば予備機も持てます。そうすれば欠航も出ませんから、LCCとの違いが出せると考えています。

安いけれども定時性は高く、満足度も高い航空会社への需要は、少なくとも航空需要の3分の1はあると思っています。時間どおりであれば経費に敏感な企業さんもスカイマークを選んでいただけるでしょう。

ただ、確かに定時性は上がりましたし、サービスも少しは良くなったのかもしれません。でも、まだまだお客さまに浸透するには時間がかかると思っています。そういう意味でも、目指す高みへは、まだ道半ばだと感じています。

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