経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

独立したホテルとして自分たちのスタイルを貫く―周藤宏樹(ワイキキ・サンドビラホテル社長)後編

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

民泊にはないワイキキ・サンドビラホテルならではのサービスとは

周藤宏樹

(しゅうとう・ひろき)1961年生まれ。東京都出身。慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、富士ゼロックスに入社。日本でホテル業を営んでいた父親に誘われ、26歳にしてハワイでのホテル経営に参画。ワイキキ・サンドビラホテル社長として現在に至る。日本人が使いやすい部屋づくりや足湯の設置などが好評で、多くのリピーターが毎年訪れる人気ホテルとなっている。

イゲット ホテルビジネスを展開するうえで、これまでどんな課題にぶつかってきたのでしょうか。

周藤 それこそ9.11の同時多発テロなど、一企業ではどうにも手の施しようがないことも時々起こります。そのときはホテルの予約はキャンセルになったので、従業員たちにはバケーション取ってもらいました。年末にはゲストが戻ってきましたが、それまではほとんどお客さんがいない状態でした。

アメリカ人には「テロリストなんかに自分のバケーションを邪魔されてたまるか」みたいに考える人が多くて、本土からのゲストのほうが戻りは早かったですね。ただ、その間はレイオフもしなければいけなくなったし、マネージャーの給料もカットしました。自分だけ給料を貰うわけにはいかないので、私も当時住んでいたアパートを引き払ってホテルに住んだりしていました。

イゲット そうだったんですね!

周藤 他にもSARS(重症急性呼吸器症候群)の世界的な流行でお客さんが来てくれなくなったこともありますし、どうしようもないことはあります。

イゲット 従業員が多いので、何かあると大変ですね。

周藤 設備も老朽化してくるので、やっとメンテナンスが一周したと思ったら、すぐに最初からやり直さなければいけなくなったりしますしね。

イゲット ハワイの観光業全体についてはどのような認識をお持ちですか?

周藤 最近ではOTA(オンライン・ツアー・エージェント)が台頭してきて、彼らのプレゼンスが高まっています。

イゲット 自社のオンラインサイトから集客するより、OTAを利用したほうがいいということですか?

周藤 ウチはリピーターが多いので、自社サイトとOTAからのゲストの比率は同じくらい。自社サイトから来た方には、朝ご飯をサービスしたりしています。ただ、そうこうしていると次は民泊紹介サイトのAirbnbが台頭してきて、価格の押し下げ作用が業界全体に働いてきています。

イゲット ハワイへの旅行の仕方も滞在の仕方も、以前とは変わってきて、旅行の目的に合わせてバラエティに富んできている印象です。Airbnbとホテルでは、別の役割がある気がしますが。

周藤 そこは経営課題ですね。ゲストサービスの部分はもちろんですが、それだけでは弱い。ホテルは寝る場所を提供するだけでなく、コネクティビティというか、昔から出会いの場でもありました。例えばウチが提供している足湯なんていうのは小さなことですが、言葉が通じなくても旅行者同士で楽しめるものです。他にも何かホテルならではのご提供出来るサービスはないか、模索しているところです。

イゲット 人と人が繋がりたいというニーズは強いと思います。このホテルが家みたいな存在になるのは素敵なことですね。

周藤 正に!われわれは「ホーム・アウェイ・フロム・ホーム」を標榜していますからね。今では自分たちで独立して経営しているホテルは珍しくなっています。ファンドがホテルを買って、運営はオペレーターに任せているところも増えています。確かに、どこかの傘下に入れば予約やセールスなど効率化できる部分はあると思いますが、ウチは企業努力で自分たちのスタイルを貫けたら良いと思っています。

ワイキキ・サンドビラホテルの人材の見極めは「正直」と「責任感」の2点

ワイキキ・サンドビラホテルイゲット 周藤さんにとってハワイの魅力とは?

周藤 やっぱり「人」だと思います。そして気候も良いし、住むにはすごく快適な場所だと思います。

イゲット 私は子供を子供らしく育てられるところが良いところだと思っています。

周藤 実際そうですよね。子育てにみんな参加していますし、自分も楽しんでやっているので。子どもと遊ぶための衣装や武器とか、自分で作っていましたから(笑)。

イゲット 父親が育児に参加するメリットは何だと思いますか?

周藤 やっぱり男の子の場合は特に、男の親がいたほうが絶対いいと思います。

イゲット 父親が隣でテレビを一緒に見るだけで、子どもの安心感が全然違いますからね。気持ちの安定性みたいなものは、母親よりも父親が与えられるのかなと。あと、父親が育児に参加している家庭のほうが、子供が賢くなる傾向があるような気もします。母親だけの家庭より、見せている景色の多いからかもしれません。

周藤 われわれ日本人は、家に全然帰ってこない父親とハワイの環境の両方を知っているわけですが、もしハワイにずっといたら父親の育児参加は当たり前だと思うかもしれない。そういう意味で、日本とハワイを比較できるのは幸せなことではないでしょうか。自分の世界も広がりますからね。

イゲット 日本人が本当に暮らしやすい場所ではありますね。

周藤 最高に暮らしやすいと思いますよ。それも移民した日系人たちが、土台を作ってくれたおかげですね。

イゲット 人の話で言えば、人材育成についてはどのようにされているんですか?

周藤 ウチにはマネージャーが5人いますが、最初からマネージャーとして雇った人は1人しかいません。みんな平社員から上がってきました。一人ひとりの働きぶりを見て決まますが、昇進の基準はシンプルに「正直なこと」と「責任感があること」の2点だけです。大体の人は失敗を隠したがったり自分のことを良く見せたがったりしますが、現状認識がしっかりできないと意思決定の妨げになりますし、改善できなくなります。

イゲット アメリカ人は弁が立つし、自分が責任を被らないで済むように話すのも上手いですからね(笑)。

周藤 小さい頃から鍛えられているんでしょうね。でも大事なことですから、そこを見極めていかなければいけません。

ワイキキ・サンドビラホテル以外に周藤宏樹社長が手がけるビジネスとは

イゲット千恵子と周藤宏樹

イゲット ホテルビジネス以外では、「メンズ・グルーミングサロン・スカイ」という理容室を15年にオープンされましたが。

周藤 自分が床屋好きで、日本に行くたびに通っていました。あるとき、東京に17店舗を展開しているスカイというお店の社長と知り合って、ハワイでもやろうということになりました。日本の理容室の中でもおもてなし重視のサロンで、1人のお客さんに3人が付いて、1人が髪をカットして、1人が爪を磨いて、1人がマッサージしてと、まさに男が「旦那様」と呼ばれるようなサービスを受けられるお店です。日本人のお客さんが多くなるだろうと思っていたら、8割以上がローカルの人たちで結構驚いています。

イゲット こちらは握手する習慣がありますし、身だしなみは外国人のほうが気にしている気がします。ローカルのエグゼクティブが主要層ですか?

周藤 20代の若い人も来ますよ。男性のエステサロンみたいなものですからね。

イゲット 最初は日本人のスタッフを雇っていましたよね?

周藤 今も日本人が3人いますが、こちらで雇った人も技術が追い付いてきました。最初に日本から連れてきたのも凄い人たちで、1人は教育担当専務で、スカイの従業員全員を指導しているような人でした。

イゲット それにしては、フルサービスで60ドルですから安いですよね。全米展開する予定はあるのですか?

周藤 すごくしたいですね。ニューヨークに行きたいです(笑)。何なら日本に逆輸入して、アメリカスタイルの床屋を日本に流行らせたいです。

イゲット お客さんとのコミュニケーションは難しくないですか?

周藤 始めのうちは、現地採用の子たちが間に入って通訳をしていました。特に、どういうヘアスタイルにするかという部分で失敗すると大変ですから。

イゲット 他にも手掛けているビジネスはありますか?

周藤 今は、ホテルのメイドスタッフをそれほど高くない料金で家庭に派遣してクリーニングすることもやっていて、安いけれどいい加減というのではなく、しっかりしたサービスを提供しています。

イゲット では、今度私の家にもぜひお願いします(笑)。

周藤 ぜひ!喜んで(笑)。イゲット千恵子×周藤宏樹(前編)

イゲット千恵子(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

イゲット千恵子氏の記事一覧はこちら

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