昨年11月、技能実習生の新法が施行となり、介護技能実習生制度がスタートした。しかし、前例のない介護職だけに介護の現場では戸惑いもみられている。そんな中、のぞみグループの東南アジアでの経験を生かした取り組みに注目が集まっている。
質の高い海外介護士育成の第一人者のぞみグループの経験とは
2017年11月に施行された「介護技能実習法」によって、技能実習生の受け入れの職種に介護職が追加された。25年に38万人の介護職が不足すると言われる中、今回の施行はその対策として期待されている。
「介護職は今までの技能実習生にはなく、新たに追加された職種です。アジア各国の送り出し機関や日本の受け入れ機関となる監理団体にとっても初めてだけに、経験もノウハウもありません。当グループは、12年にまったくのゼロからタイの教育省の認可を受け、日本語と日本の介護技術を必須カリキュラムにした学校をバンコクに開校しました。クーデターなどの理由で14年に閉校しましたが、生活環境が違う上に、介護という職種のない海外での介護教育の中で、工夫を積み重ねてカリキュラムを修正しながら経験を積んできました。それらの経験とノウハウが介護職の技能実習生制度が始まった今、必要とされています」と、語るのは、長野県佐久地域で医療法人と社会福祉法人、高齢者施設、介護サービスなどを展開するのぞみグループの甘利庸子代表。
15年に介護職追加が閣議決定されてから、東南アジアに拠点を持つ多数の日本企業が、介護職育成をビジネスチャンスとみて準備を始めてきた。16年に国会で法案が通過後、それらの企業は、介護職育成事業の開始を発表したが、各国の事情や介護現場との擦り合わせがされていないカリキュラムで育成を始め、今になって難しさを体験する企業も多い。
「実際に東南アジアの現地で介護職教育の難しさを体験し、日本の介護の現場を知らなければ、技能実習生向けのカリキュラムは作れません。タイでの日本語教育の経験とタイの介護学校での介護教育の経験、そして日本での介護事業の経験、介護職員初任者研修開催の経験を持つ当グループだからこそできるカリキュラムが、既に用意されています」
15年にベトナムの国立ハドン医療短期大学、ドンア大学看護学科と介護教育支援の覚書を交わすなど、東南アジアでの準備を進めながら、教育研修のカリキュラムやテキストを完成させてきた。
ここにきて甘利氏のもとには、介護技能実習生に関する講演依頼が多くなり、留学も含めての海外介護士教育に関する相談も増えている。また、内閣官房が進めているアジア健康構想協議会にもメンバーとして参加するなど、海外介護士育成の第一人者として注目されている。
のぞみグループ甘利庸子代表が自信を持つテキストの役割とは
「アジア全域からの介護技能実習生に、一定水準の質の担保をはかり、安心して介護技能実習生を受け入れることができるようにするには、入国前から入国後までのシームレスな教育体制とテキストを構築し、効果の高い教育を行うことが一番大切だと考えています」と、甘利代表。
昨年10月、同氏は技能実習生向けのテキストとなる入国前の介護導入用の「外国人のためのやさしく学べる介護のことば」と、入国後の介護研修用の「外国人のためのやさしく学べる介護の知識・技術」の2冊の書籍を出版した。
「『外国人のためのやさしく学べる介護のことば』は、イラストを多用し、日本語検定N4からN3レベルで理解できるように全てにルビを振り、分かち書きで書かれています。N4相当試験合格後、査証申請後の査証が下りるまでの期間を利用し、N3相当試験合格を目指して勉強を続けながら介護の語彙を覚えてもらうために、現地の日本語学校で使用します。入国前から介護の語彙を覚えることは入国後のイメージをつかみ、日本での介護初任者研修を理解してもらうために必要です。また、『外国人のためのやさしく学べる介護の知識・技術』は、初任者研修に準拠したテキスト。やはり、全てにルビを振り、分かち書きを取り入れ、短い平易な文になるよう注意して書かれています。必要な医療の基礎知識や自立支援の考え方など、外国人だからこそ身に付けなければならないことはすべて盛り込みました」と、甘利氏は自信を持つ。
「全国どこでも、誰でも使えるように」という思いから出版された今回のテキストは、介護のことばと知識の基準となる教科書としての役割が期待されている。
「入国前から入国後までシームレスな教育の体制として、当グループの『一般社団法人海外介護士育成協議会』が、全国の監理団体から海外介護士の教育の委託を受け、高い質の担保を図っていきます。また、介護職種専門の監理団体として認可された『介護施設協同組合』では、関東圏の社会福祉法人などの組合員とともに、介護の技能実習生制度を育てていく仲間となる組合員を募集しています。介護技能実習生が日本の自立支援型介護技術や知識を習得して笑顔で帰国し、帰国後はリーダーや指導者として活躍していけるように、受け入れ実習施設と介護技能実習生を見守り支援していきます」
昨年12月、JICA(国際協力機構)が募集する中小企業海外展開事業に「ベトナムにおける日本式介護学校と介護センターの一体運営モデルの案件化調査」として応募し、採択された。甘利氏は、介護技能実習生が帰国後にアジア各国の教師やリーダーとして活躍するための環境作りも始めようとしている。
「介護を通じて東南アジアと良いループを作りたい」というのぞみグループの取り組みは、将来高齢化社会が必ず訪れる東南アジアのためにも必要とされている。
のぞみグループ
- 設立/1992年
- 事業内容/介護事業、介護施設事業、日帰り温泉施設事業、エステティックサロン事業、レストラン事業、海外介護士育成事業の7法人
- 所在地/長野県小諸市、長野県佐久市
- ホームページ/http://www.nozomi-g.co.jp http://http://www.kaigai-kaigoshi.jp
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