今回のゲストは、福岡県北九州市で創業108年を迎えるシャボン玉石けん3代目社長の森田隼人さん。30歳の若さで事業承継し、早10年。先代社長の意志を引き継ぎ、安心・安全な無添加の商品づくりにこだわります。「消費者に正しい情報を」と語る森田社長の思いに迫ります。
突然の社長就任もシャボン玉せっけんの経営は順調
佐藤 ごぶさたしています。2011年の経済界大賞授賞式以来ですね。
森田 その節は優秀経営者賞を頂き、励みになりました。
佐藤 森田さんが社長になられたのが07年。半年後に先代社長のお父さまがお亡くなりになり、突然の就任劇だったかと思います。当時を振り返ってみていかがですか?
森田 私がシャボン玉石けんに入社したのが00年で、最初は関東の地方工場など現場を回り、2年目で副社長になりました。高齢の父は病を患っていたので、「役職が人を育てる」という考えから、若い私を要職に就けたのでしょうね。一方、私も問題が起きたら父に聞けばいいと甘く考えていたのが、父が予想よりも早く亡くなってしまい、突然、一人で経営のすべてをやる必要が生じました。そのときに決意したのが、会社を長年支えてくれているお客さまに、安心・安全なシャボン玉の商品を届け続けようということでした。
佐藤 「役職が人を育てる」と私の父もよく話していました。私も社長になってから経営や人の生かし方を現場で覚えましたし。これは笑い話ですが、私の社長就任が決まったとき、「娘が社長で大丈夫か?」と不安がる社員たちを前に、父は「バカ野郎! 経理部長はできなくても社長はできるんだ!」と怒鳴ったんです(笑)。ひどいですよね。
森田 面白いお父さんですね(笑)。
佐藤 事業承継後、お父さまの代から長年勤めている社員との関係はいかがでした?
森田 そこはスムーズにいきましたね。当社は1991年まで17年間赤字が続き、離職率も高めでしたが、黒字化した翌年以降は定着率が上がりました。私が入社した当時は新卒が多く、今の社員の平均年齢は33歳です。社歴が長い割に若手からベテランまで幅広く在籍しており、年上の役員も私をサポートしてくれます。
佐藤 年齢が近いと言いたいことを言えて、同じ時代を生きている分、価値観のズレも少ないですよね。若手が多く、ベテランもいるのにコミュニケーションにストレスがないのは良い環境ですね。
森田 そうですね。企業理念「健康な体ときれいな水を守る」の下、若手もベテランも一丸となっています。
無添加せっけんの技術を生かす派生商品も
森田 2009年に感染症対策研究センターをつくり、産学連携で商品開発を行いました。そうした中で誕生したのが無添加の手洗い石けん「バブルガード」です。手洗いを中心とした感染予防の啓蒙を図り、今では病院や食品工場などでも採用されています。その後石けんリサーチセンターを起ち上げ、石けんの研究・開発により力を入れています。
佐藤 モノがあふれる昨今、世の中で無添加が見直されていますから、御社のような取り組みは大切ですよね。ほかにも環境に優しい消火剤の開発・普及にも努められているそうですが。
森田 そうですね。阪神・淡路大震災の教訓を元に、「少ない水で効果的な消火活動ができる消火剤」の研究を産官学連携で開始し、世界初の石けん系泡消火剤「ミラクルフォーム」を開発、07年から販売しています。山火事(森林・泥炭火災)の多いインドネシアでは政府と連携して普及に努めています。
佐藤 泥炭火災はあまり聞き慣れませんが、どういったものですか?
森田 泥炭火災は地中で化石燃料の元になるものが燃え続ける現象です。大量のCO2排出が人体や環境に悪影響を与えるばかりか、煙が航空などの交通インフラを妨げるなど、多大な経済損失を招きます。消火活動における水との違いは、腐葉土のような野原に放水しても流れてしまいますが、泡なので地中に浸透していきます。水の使用量も通常よりも少なくて済み、環境に優しいという利点がありますね。
佐藤 無添加に強みを持つ御社ならではの商品ですね。日本国内での展開はいかがですか?
森田 まだこれからですね。日本の消火はまだ水が主流なので、入り込む余地はあります。誰も靴を履いていない島に靴を売る、そんな感覚でしょうか。
佐藤 森田社長は以前から無添加の良さや合成洗剤との違いについて世の中に真摯に訴えていますね。石けんは私たちの身近にあるものだからこそ、良いものを選びたい。私も愛用していますが、御社の商品は衣類の着心地がいい気がします。
森田 そうですね。当社の洗濯石けんは柔軟剤を使わなくてもふんわりと仕上がります。正しい情報を伝えていくという側面からは、合成洗剤はせめて妊娠授乳期間中は使用しないなど、世の中に訴え続けていきたい。お客さまを大切にし、同じくらい社員を大切にして、生き生きと働ける組織づくりをしていくことが今後の目標です。
佐藤 お父さまの遺志を継ぎ、若手を引率し続けてくださいね。
似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=長島和美
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