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選手をグラウンドに気分よく送り出すことが監督の仕事――辻 発彦(埼玉西武ライオンズ監督)

埼玉西武ライオンズ監督 辻 発彦氏

プロ野球パリーグで3年連続Bクラスに沈んでいた埼玉西武ライオンズは2017年シーズン、2位に躍進した。弱ったチームに新しい風を吹き込んだのが、就任1年目の辻発彦監督だった。躍進の秘訣はどこにあったのか。辻監督にチームのまとめ方や選手のモチベーションの高め方について、話を聞いた。聞き手=村田晋一郎 写真提供=(c)SEIBU Lions

辻発彦

つじ・はつひこ 1958年佐賀県生まれ。日本通運浦和から84年ドラフト2位で西武ライオンズに入団。球界を代表する名二塁手として、首位打者ならびに最高出塁率1回、ベストナイン5回、ゴールデングラブ賞を8回受賞。96年ヤクルトスワローズに移籍。現役通算でリーグ優勝10回、日本一7回。99年現役引退後は、ヤクルト、横浜でコーチを歴任し、2006年WBC日本代表内野守備走塁コーチとして世界一に貢献。07~09年中日ドラゴンズ二軍監督、10~11年、14~16年同一軍コーチを経て、17年埼玉西武ライオンズ監督に就任。

「今日の試合に勝つ!」という気持ちにさせる

―― チームをまとめる上で、監督として心掛けていることは。

 私は全然、監督だと思ってやっていないですね。もちろん監督の仕事はやらなければいけませんが、練習でも若い選手といろいろ話したり、冗談めいたことも話したりします。そして試合になったら私も熱くなりますので、一緒に戦っている同志ぐらいにしか思っていないです。

私もいろんな監督の下でやってきて、監督になる前は、どういうタイプの監督になるのかと考えたことがありました。でも、いざやってみると、駄目なんですよね。広岡さんみたいに黙って試合を見ていられないです。フライが上がった瞬間に「バック!」と、守備の指示の声が出るぐらい(笑)、試合に入っています。だから私は私でしかないですね。

ただやっぱり、選手たちを気分よくグラウンドに出してあげるのが一番の仕事だと思います。あくまで試合は選手がやるものですから。しかし指名打者も含めてスタメンの野手は9人で、出ない選手もいます。選手の起用法はなかなか難しいところがあります。「何だ、今日もまた試合に出れないのか」と思う選手がベンチにいるようでは駄目ですし、監督として選手が納得することをやらなればいけないと思います。そのためには、すべての選手が「今日の試合に勝つんだ」という気持ちにさせることが、一番の課題になります。

―― 試合への入り方で、気を付けていることはありますか。

 試合はほとんど毎日続いていきます。私自身も負けた時は本当に悔しいですよ。監督になる前は、変な負け方をすると、すごく尾を引くかなと思いましたけど、意外とそんなことはなかったです。翌日グラウンドに入って、練習が始まる時に、「今日は頑張ろう」という気持ちになれることが一番必要だと思います。選手たちに前日のことを話したりもしますけど、常に「昨日は昨日、また新たに」という気持ちを持って接するようにしていました。

―― 監督自身が引きずらないと。

 そうですね。そんなに引きずっていたら、身体が持たないし、やっぱり守りに入ってはいけないと思います。だから、ポジティブに行くという気持ちは常に持つようにしようと思いました。

選手への気配りを言葉だけでなく行動でも示す

―― 選手の気持ちの高め方に関して、昨年印象的だったのはベイスターズ戦のピンチの場面で、マウンドまで増田達至投手を激励に行ったことが話題になりました(※)。

 前回と同じシチュエーションになったなぁと思いながら、迷いましたけど、ピッチングコーチに「ちょっと、行ってくるけどいい?」と言ったら、「お願いします」と言うので行ってみました。一番大きな理由は、私が現役でセカンドを守っていた時もそう思いましたけど、ピッチャーはやっぱり孤独じゃないですか。マウンドにしょっちゅう行っていたら、嫌がられますけど(笑)、一タイミングおくとか、一つの言葉があることによって、ピッチャーが落ち着くことがあります。それで自然と腰が上がって、マウンドに行きました。

増田に関しては昨年、抑えの投手として、そのポジションに置いているわけですから、そこで打たれても仕方がないという気持ちではいたんですよ。しかしそこで抑えれば、前回の負けを消したと本人が思えたら、やったという気持ちになれるじゃないですか。だから大事な場面だと思いながら、ただ本当に顔を見せて、間を取ってやろうと思って行ったんですけどね。

―― また、今年の春のキャンプで早々に開幕投手を菊池雄星投手に指名した際に色紙を手渡しましたが、あれも選手にとっては意気に感じることだと思いますが。

 雄星の開幕投手はもう去年から、シーズンが終わった時点からずっと決めていました。でも色紙については、その時ふと思い付きました。当日、われわれは早便で先に球場に来ていて、雄星たちは次の便で後から来ることになっていました。また雄星といろいろ話をするのも何だなと急に思って、色紙1枚で分かるようにしようと思いました。バスを待っている間に時間があったので、色紙に「開幕投手」と書いて、サインして渡しました。もう言葉はいらないじゃないですか、頼むよというだけで。

―― 若手選手、中心選手、ベテラン選手で対応が変わってくると思いますが、気を付けていることは。

 やっぱりベテランが一番難しくなっていくでしょうね。当然ベテランは年がいってきたら、力が落ちてきますから、若手の台頭があったりして、試合に出る機会が少なくなるのは常ですからね。でも「ここで頼むよ」という場面に代打で行ってもらうとか。しょうもないところで行っても意味がない気がします。彼らには「頼むよ」という行動が、しっかりと伝わればいいと思います。

あとは選手の性格ですよ。性格が非常に難しい選手もいるので、言葉は選ばなければいけません。しかし、こいつはもう強く言っても大丈夫だなと思えば、ガーンと頭から言っておいたほうがいいし、そういう選手はそれでうれしいんじゃないかと思います。

私も若い時は、監督に何を言われようが、声を掛けてもらえる、見てもらえているというのがうれしかったんでね。だからわれわれの仕事は見てやることが一番だと思います。選手は絶対に見ています。私も経験がありますが、監督が見ているというのは、やっぱりうれしいもので、声を掛けてもらったりすると特にうれしいものなんですよ。辻監督が語る名将たち

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