地方議員の政策を考える会では、
藤條尭之氏プロフィール
震災をきっかけに維新塾第一期生に
―― 政治家を志したきっかけは?
藤條 東日本大震災の影響が大きかったですね。当時私はサラリーマンをやっていましたが、世の中の価値観がガラっと変わった出来事だったので、一度自分を問い直すというか、このままでいいのかなという思いに駆られました。そのタイミングでちょうど橋下徹さんが大阪で維新政治塾を開くと聞いて、世界の状況と日本の課題を勉強したいと思い、土日に大阪に通うようになりました。そこでいろんなご縁を頂いて、地元の多摩市で立候補しました。
―― それまで政治に全く興味はなかったのですか。
藤條 有権者として投票に行くだけで、全くと言っていいほど接点はなかったですね。
―― 大震災のどういう部分に、一番影響を受けたのですか。
藤條 このままでいいのかなっていう危機感が芽生えました。今の日本は、持続可能な社会になっていないと思い、とりあえず動いたという感じです。
―― 実際に政治塾に通って何を学びましたか。
藤條 堺屋太一先生をはじめ、凄い講師の先生の方々から政治に関するさまざまなレクチャーを受けて、それまで本当に無知だったということを思い知らされました。講義を受けるだけでなく、仲間たちとも議論し合ううちに、自分の中で方向性が固まっていきました。
―― 塾に通い始めた当初から政治家を目指していたわけではないんですね。
藤條 そうですね。そもそも大阪都構想という大構想があって、国会で大都市法を成立させるという目的があったので、維新塾にも日本中からわれわれのように世襲やしがらみと関係ない人たちがとにかく集まったという形でした。その中で、自分にはどういう役割があるのかなと考えて、国政に行くよりも地元のことをコツコツやるほうが性に合っているかなと。
―― 初回の選挙で当選しましたが、有権者には何を訴えていったのですか。
藤條 維新の前提である「身を切る改革」はもちろんですが、私としては持続可能社会を作ることを訴えていきました。特に多摩市は、ニュータウン地域をはじめ、高齢化が猛スピードで進むのが分かっていたので、その問題にどう立ち向かっていくかについて、自分なりのアプローチをしていきました。その1つが自転車政策です。
―― もともと自転車レースが趣味ということですが、高齢者には自転車のどんな点をアピールしたのでしょうか。
藤條 最近では高齢者の運転による自動車事故が目立っていますが、免許を返納したとしても、その後の交通手段はどうするかという問題があります。公共交通機関はもちろんですが、自転車も1つの選択肢としてもっと広げたかったんです。世界的に見ても、日本の自転車普及率は高いので、地域の足になりうるということが1つです。
また、多摩市は「健幸都市宣言」を掲げていますが、健康の側面から言っても自転車はそのコンセプトにマッチします。歩くことに加えて、自転車を利用することで健康増進に役立つという考えを市民に広めていきたいです。
高齢化がハイペースで進む多摩市
―― 多摩市の高齢化率は現在どの程度なんですか。
藤條 ニュータウンの高齢化などがよく取り上げられますが、高齢化率だけで言えば、意外なことに全国平均と変わりません。ただし、今後の伸び率で言えば全国平均と比べてもかなりペースが上がっていきます。これを緩やかにすることは難しいので、できるだけ健康寿命を延ばすことが政策的に大事だと思っています。
―― 若者が住みやすい一人暮らし向けの不動産物件も少ない印象です。
藤條 かつて、ファミリー層向けの分譲住宅が大量供給された影響で、若い人たちがなかなか入ってきづらい面はあります。あとは、相続もあまりうまく行っていないケースも目立ちます。たとえば、お子さんが都心に出て行った夫婦2人だけの世帯で、配偶者が亡くなったのをきっかけに老人ホームに行って空き家になってしまうとか、そういうケースが増えています。何か対策を取らないといけない段階にきています。
基本的には、UR都市機構さんなどとの連携が必要になってくるんですが、そこで行政がどう旗振りをしていくかが重要です。多摩市が魅力ある町だということを外に発信しないと、出ていった人たちも戻ってきてはくれませんから。
生活のしやすさが多摩市の魅力
―― ただ、多摩市は暮らしやすい街の上位にランキングされているという調査結果もあります。
藤條 とある調査では14位くらいにランキングされていて、杉並区や世田谷区より上に来ているので驚きました。実際に住んでいただいている方には、住みやすい街だというアンケート結果を良くいただくのですが、外部の方の評価も意外と高いようなので、要因を分析していきたいと思います。
―― 地元住民から見た多摩市の魅力とは。
藤條 公園の数は多いし、緑地率も高いので落ち着きますよね。子育てがしやすいイメージも強いようです。市内にはペデストリアンデッキといって、歩車道分離の通行帯が全長40キロ整備されていて、子どもたちを遊ばせても全く車が来ないようになっています。一方で待機児童問題はまだ残っていて、昨年は70人ほどいましたが、今年は駅近くの事業者の施設を開放するなどして、解決に1歩近づく見通しです。
―― 福祉面での課題は。
藤條 自転車政策は進めていますが、福祉政策の観点からはまだ不足していることが多いのが実情です。1期目に手話言語条例や、コミュニケーション条例などの成立を目指したのですが、具体的な落とし込みが足りず、達成できなかった反省があります。
―― 条例として成立しなかった理由はなんですか。
藤條 いろいろありますが、当事者の方々の声が一番ですね。障碍者の方たちから「私たちのいないところで私たちのことを決めないで下さい」と言う声が挙がり、確かにそうだなと。自分たちとしては、「障碍者の皆さんのためにこういうのを作ってあげますよ」いう上から目線でいたのではないかと気付かされました。
地域の自立が日本の自立につながる
―― 大震災の時に感じた問題意識の解決に向かって近づいている実感はありますか。
藤條 そうですね。地域の自立は維新の党の理念でもありますし、地域の自立が日本全体の自立につながっていきますから、人口14万8千人の多摩市をどう自立した自治体にしていくかという観点で、これまでやってきました。
―― 経済面での自立という点では、多摩市の現状はどうでしょうか。
藤條 住民税や固定資産税に頼っている部分もあるので、5年後、10年後はどうなっているか分からないですね。職場を退職される方が増えると財政面での自立が難しくなってくる可能性もあります。そこで、法人税を増やす手立てを考えないといけません。地盤が固いことなどをPRして、IT企業のデータセンターなどを誘致していますが、まとまった土地の確保がだんだん難しくなってきています。次に、どんな手を打くかという段階になっていますね。
―― 大企業の拠点誘致は雇用という面では若い人に貢献しそうですが、有望企業の本社が来るようにしたいところですね。
藤條 たとえば、スタートアップ企業が多摩市で新しいことを始められる土壌を作るのが理想ですね。今は都心に移動しなくても仕事ができる時代なので、空き家などを活用して満員電車に乗らなくても仕事に行けるような状況をつくりたいです。
―― それこそニュータウンの空き家などを活用できないのでしょうか。
藤條 空き家を外国人留学生に開放するといった試みを一部でやっていますが、そういうことをもっとやっていきたいですね。例えば、無印良品さんが空き家をリノベーションして若い世代向けにモデルルームをつくっていますが、民間企業が取り組むとスピードが速いし反応もすごいことが分かっています。行政としては、主導するというよりも民間の動きをサポートできる土壌づくりをやらなければならないと思います。
―― 外国人観光客が最近では都心部だけでなく周辺地域にも来るようになっているので、民泊などで活用できないものでしょうか。
藤條 それもやりたいのですが、今はむしろ排除したいと考える人たちが多いのが現実です。民泊を認めると不動産の資産価値が落ちるという議論もありますが、東京の不動産価値は軒並み上がっているのに、多摩市は唯一上がっていないのが実情です。ですから、新しい可能性に掛けないとじり貧になるということを理解していただくことが必要です。
―― 多摩市に限らず、昭和の遺産をいかに活用するかは地方都市の共通課題なので、多摩市が良い前例を作ってほしいと思います。
藤條 バスの自動運転の実証実験も多摩市でやりましたし、いろいろな実験を行うには、コンパクトで小回りの利く町だと思うんです。多摩市は日本の課題である少子高齢化の先進地でもあるわけですから、ここで政策をやってうまく行けばほかの自治体にも横展開できるので、もう少し可能性が増えるんじゃないかと期待しています。
―― 最後に、これから政治家として成し遂げたいことは。
藤條 議員立法を一期目でできなかった悔いもあるのでそこは是非やりたいなと。政治は実行力が大事なので、議員になったからには形にしていかないと意味がありません。あとは、自分の代名詞としての自転車政策をもっと突き詰めたいです。地域における移動手段を、モビリティを使ってデザインしていく。そこをしっかり形にしていきたいという思いがあります。
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