ゲストは昨年秋に旭日小綬章を受章した、「おくさま印」でおなじみのお米屋・幸南食糧会長の川西修さん。創業2年目に大豪雨で工場を失うも、社員一丸となって復活を遂げました。親子2代で営むお米屋さんとしての矜持を感じる対談になりました。
川西 修・幸南食糧会長プロフィール
社員の励ましで危機を突破した創業48年の老舗米屋
佐藤 このたびは旭日小綬章の受章、誠におめでとうございます。壮大な祝賀会を開かれたとか。
川西 はい。これもひとえに長年お付き合いをしていただいているお客さまや地域の方々のお陰です。
佐藤 受章理由の地域産業経済への貢献・功労は、本社のある大阪府松原市で「食」をテーマにした地産地消フェア「まつばらマルシェ」に協賛、PRや集客に一役買っていることもあるのでしょうか。
川西 そうですね。まつばらマルシェは毎年秋に2日間開催していますが、松原市を「また行きたい街」として認知してもらったことは大きな理由かもしれません。
佐藤 今年創業48周年を迎え、順風満帆に見える御社ですが、随分波乱があったと伺いました。中でも創業2年目の時に豪雨で工場が流されてしまうという危機に遭遇されたそうですね。そこから再建されてきたわけですが、当時はどんなお気持ちでしたか?
川西 もともと「川西米穀店」としてスタートし、社員や世の中の人々が幸せであるように、また大阪の南側にあるからということで「幸南食糧」に社名変更したのが1976年。その2年後に大豪雨で工場丸ごと流されて何にもなくなっちゃったわけですから廃業を考えましたよ。
その時に社員が、「工場は流されてなくなりましたが、社長の熱い思いはなくなっていません。もう一度やりましょう!」と励ましてくれたんです。その言葉を聞いて、落ち込んでいた自分に勇気が湧いてきたんですね。そこから社員たちともう一度頑張ろう、と努力してきました。
佐藤 社長に勇気をくれた社員さんたち、ありがたい存在ですね。お米屋さんという商売の醍醐味とはどこにあるのでしょうか。
川西 そもそも米屋という商売は、2004年の法改正までは国の免許が要るものでした。だから「親方日の丸的」に17時には店を閉めるとか、エレベーターのない建物ではお客さまに1階まで取りに来させたり、そんなことが当たり前だったんですよ。けれども私のところは新参者でしたから、他がやらないことをやったんです。例えば共働きで買い物ができないご家庭には夜遅くてもお米をお届けするとか。
佐藤 現代では一般的なことも、かつてはそうではなかったですしね。
川西 そのとおり。でもね、お客さんたちが口々に言いましたよ。「お米はAさんのところで買っているから、おたくから買っていることがばれると困る」と(笑)。そんな声にも、「絶対にAさんにバレないようにお運びしますから」と試行錯誤しながら努力を重ね、それが少しずつ評価されてきて今があるんです。
佐藤 それこそが川西流の企業努力なんですね。
伝統的なお料理をカップにした「旬 de riz」シリーズ
これからは若者の時代だから夢を持って働いてほしい
佐藤 最近は一口にお米と言っても、無洗米やおいしいパックご飯、またカップご飯の登場など、商品も随分変わってきましたね。
川西 そうなんです。無洗米ができた時は一般家庭からなぜか評判が悪くて、返品も多かったんです。しかし、飲食店など大量に使ってくれるところでは洗米の手間が省けてコスト削減になる、ということを売り文句にしたら大人気になりました。
佐藤 経営者ならコスト削減と言われると、がぜん興味が湧きますね。
川西 それから最近は炊いてあるお米の要望がかなり増えてきたんです。これも時代の流れですね。米屋は米だけを売っていればいいという時代はとっくの昔に終わりました。時代とともに消費者の要望も変化しますから。わが社の最大のライバルは時代だと思っています。
佐藤 素晴らしい。業種は違いますが、私も全く同感です。経営者が闘う相手は同業者ではなく、常に時代ですよね。ところで、社長業をご子息の孝彦さんに譲られましたが、その後いかがですか。
川西 いやいや、息子に社長を任せたのはいいけれど、よちよち歩きの赤ちゃんを見守る気持ちです。
佐藤 川西会長でもそう思われるのですね(笑)。川西会長と社長の会話を聞いてみたい。
川西 それでも、これからは若い人がリーダーシップを発揮する時代ですよ。弊社のブランド「おくさま印」も、最近は主夫や料理好きな男性も増えてきたので他の名称に変えてもいいのではないか、といった意見が上がってきます。どんな意見も、まずちゃんと聞いてから、疑問に感じたことは「一ついいかな」と自分の意見を言う努力をしています。
佐藤 社長を譲られた後に通販会社を立ち上げられたとか。
川西 やっぱり私は商売が好きなんですね。あべのハルカスにオフィスを構えたところ、全国から優秀な人材が集まりました。社員には夢を持って働いてもらいたい。
佐藤 それも同感です。うちの社員にも夢を持ってもらいたい。そう仕向けるのは、私たち経営者の仕事なのかもしれませんね。
聞き手&似顔絵=佐藤有美
構成=大澤義幸 photo=人羅秀二