長引く低金利政策の影響で、地方銀行の多くが苦境にあえいでいる。そんな地方銀行に救いの手を差し伸べたのがSBIホールディングス。島根銀行に34%を出資、これを皮切りに「第4メガバンク構想」まで打ち上げた。果たしてこの構想によって地方銀行はよみがえるのか。文=関 慎夫(『経済界』2019年11月号より転載)
SBIが島根銀行の株式を取得した経緯と背景事情
超低金利政策で稼ぐ力を失っていた島根銀行
9月6日、島根銀行とSBIホールディングスが資本業務提携を結んだ。SBI本体が19億円、SBIが設立した「地域銀行価値創造ファンド」が6億円を出資し、島根銀行の発行済株式の34%を取得する。これにより、今後は島根銀行でSBIの投資信託や生命保険などの商品を販売できるようになる。
この提携は島根銀行からの要請によるものだ。
日本経済のデフレ脱却を目指して日本銀行が進める超低利政策。お陰で景気拡大局面は戦後最長を継続中だが、当然、副作用も伴う。
その最たるものが、金融機関、とりわけ地方銀行の収益悪化だ。中央と地方の経済格差が大きくなるにつれ、地方銀行の融資先は減る一方。そのため以前のように預金を集めて融資をし、利率の差で儲けることができない時代となった。そこで多くの地方銀行は集めた預金を国債で運用することで、わずかばかりの利益を得ていた。
ところが、今では国債はマイナス金利、地方銀行は最大の運用先を失った。その結果、前3月期決算では、全国に約100ある地方銀行のうち、5割が本業で赤字となっている。
中でも島根銀行は、今期の最終損益が23億8千万円の赤字となる見通しだ。深刻なのは、本業の儲けを示すコア業務純益が3期連続赤字となっていることで、これは島根銀行が稼ぐ力を失っていることを意味する。
そこで島根銀行は、SBIに救いを求めた。SBIからの出資金25億円で財務体質を改善し、店舗の統廃合を行っていく。さらに前述のように投資信託などのSBIの商品の販売が可能となる。
SBIの強みはフィンテックへの対応
財務体質の改善以外にも、この提携には大きな狙いがある。それがフィンテックへの対応だ。
今、金融業界にはフィンテックの波が押し寄せている。フィンテックは既存の金融業界の枠組みをすべて変えてしまう可能性を秘める。そこで三菱UFJ銀行を筆頭にメガバンク各行はフィンテックに積極的に取り組んでいる。ただし、これまでの金融業とは全く違う技術および考え方が必要なため、行内の人材では対応できないため、フィンテックベンチャーに投資し、その技術を取り込むことに懸命だ。
しかし、これはメガバンクだからこそできること。資本力が小さく、人材もいない地方銀行が独自で対応することはむずかしい。そこで頼るのがSBIだ。
SBIはメガバンク以上にいち早くフィンテックに目をつけ、投資を行ってきた企業で、フィンテックベンチャーとして話題となった大半の企業の株主には、漏れなくSBIが入っている。
「これから伸びていくだろうと思われたフィンテックやブロックチェーンには以前から強い関心を持ち、投資もしてきた。そしていい技術をもっている会社はわれわれの生態系の中に組み入れ、その技術を使ってみる。そこで改良を加え、より便利に使えるようにする」
と北尾吉孝・SBIホールディングス社長が語るように、SBIは取り入れたフィンテックをグループ内で活用し、その機能をさらに高めていく。それをフィードバックすることで、フィンテックをより実用的なものにすると同時に、金融機関の中でみずからの優位性を保っている。
そしてこの技術を今度は地方銀行に拡散しようというわけだ。地方銀行にしてみれば、独自でフィンテックを開発することはむずかしい。しかしSBIと組むことで、最先端の技術を導入し、経営の効率化を図れるようになる。
SBIが地方銀行支援に力を入れる理由と第4のメガバンク構想とは
地方銀行は地域の中核地方創生に不可欠な存在
これまでにもSBIは地方銀行に対し、組成したフィンテックファンドへの出資を呼び掛けてきた。ファンドによるリターンとともに、参加することで投資先ベンチャー企業の技術やサービスをフィードバックできるからだ。そして今回は、そこから一歩踏み出し、島根銀行の株式の3分の1を引き受けることでグループ内に取り込み、フィンテックを供与していく。
なぜ、SBIは地方銀行支援に力を入れるのか。
この問いに対しSBIグループの1社、SBI証券社長の高村正人氏は、昨年、本誌が発行した『経済界別冊 SBIグループ急成長の秘密』の中で次のように答えている。
「もともとはSBIグループとして地方創生にどのように貢献できるか、というところから始まった。地方創生の中核を担うべき立場にあるのが地域金融機関。しかし今、さまざまな悩みを抱えている。そこで何ができるのか考えた」
これまでにも、清水銀行や筑邦銀行などと提携し、銀行の店舗内にSBIマネープラザを開設、ここでSBIの投資信託を販売してきた。銀行だけでは顧客に提供する商品に限界があったが、SBIの商品を扱うことで資産運用の選択肢を提供できるようになり、資産形成層への取引機会の創出につながる。
また、昨年にはブロックチェーン技術を利用した銀行間送金を劇的に安くする「マネータップ」を開発、地方銀行にも参加を呼び掛けている。
その延長線上に今度の島根銀行への出資がある。そしてこれは島根銀行一行にはとどまらないことは、先日、北尾社長が講演会で語った「SBIは『地域銀行連合』を結成し、『第4のメガバンク構想』を実現していく」という言葉からも明らかだ。
つまりSBIはフィンテックを中核においた銀行連合を築こうというわけだ。
地方銀行同士の合従連衡の難しさ
苦境に立つ地方銀行は、これまでにも合従連衡により生き残りを図ってきた。2004年には北陸銀行と北海道銀行が経営統合し、ほくほくフィナンシャルグループを設立、07年には福岡銀行と熊本ファミリー銀行がふくおかフィナンシャルグループ(FG)を設立した。16年には地銀最大手の横浜銀行が東日本銀行と経営統合しコンコルディア・フィナンシャルグループが誕生。さらにコンコルディアは地銀3位の千葉銀行とも包括提携を行った。
地銀同士の経営統合に対しては、その地域におけるシェアが高くなりすぎることから、かつては公正取引委員会の認可を得るのが容易ではなかった。
実際、16年にふくおかFGと長崎県の十八銀行が経営統合すると発表した時は、公取が難色を示し、統合は先送りとなった。しかし、金融大激変の時代に地域単位でのシェアで判断することへの批判も強く、最近は公取も態度を軟化、ふくおかFGと十八銀行は来年4月に統合することが決まっている。
ただしこうした合従連衡が有効なのは、お互いがそれなりの規模であることが絶対条件だ。島根銀行のような第二地銀出身で体力のない地銀同士が一緒になったとしても、弱者連合でしかない。島根銀行の鈴木良夫頭取はSBIとの提携会見で「いま全国で銀行同士の合併があるが、それにより相乗効果が得られたかは疑問だ。1+1が2や3にならずに1.5になる場合もある」と語っているように、単に縮小するだけの結果となりかねない。
それに銀行同士の場合、お互いのメンツが対立や遠慮を生むことがある。それでは経営の効率化はむずかしい。
その点、SBIと地方銀行では、出自が全く違うだけでなく、片やネット金融、片やリアル店舗と、補完関係にある。その意味では、今までにないシナジーが生まれる可能性がある。
もちろん、フィンテックやSBIの商品を販売するだけで、地方銀行の経営が好転するほど単純な話ではない。島根銀行を再生するには、店舗網の再編や、それによって生じる余剰人員の活用など、さまざまな難問が待ち受けている。
しかしSBIとタッグを組むことで新しい地方銀行として活路が開く前例を示すことができれば、多くの地銀が「第4のメガバンク構想」に関心を持つはずだ。
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