シリコンバレーで起業し、企業と投資家に関する豊富な情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。本連載では、資金調達、資本提携/協業、買収といった様々な事例を取り上げ、その背後にあるマネーの動きと企業戦略を、同氏が独自の視点で分析していく。
インフルエンサーファンドとは何か
米国ではウィル・スミスやアシュトン・カッチャー等セレブリティが投資
日本有数のトップユーチューバーが2月にファンドを組成すると聞き、この度独占取材を試みた。インタビューを受けてくれたのは、留学生から絶大の支持を誇るJJコンビ(旧:カリスマブラザーズ)でお馴染みのジョージ氏、ジロー氏と、ファンド責任者である加藤匠馬氏だ。今回は日本で初めてとなるインフルエンサーファンド「iFund(アイファンド)」の実態とその戦略をお聞きした。
インフルエンサー投資は日本では歴史が浅く、ピンと来ない読者もいるので、事前に説明するが、海外(特に欧米)では当たり前のように実施されている。
例えば、米俳優のウィル・スミス氏とサッカー選手の本田圭佑氏が組成したドリーマーズファンドが記憶に新しい。その他にもハリウッドスターのアシュトン・カッチャー氏は宿泊予約サイトAirbnb(エアー・ビー・エヌビー)に投資していることで有名だ。
インフルエンサー側のメリットとしては出資先にエンジェルラウンド(初回投資)から参加できて、バリューアップに貢献できる。また、将来的に自身の顧客にCM起用などされる可能性もある。ジロー氏は「海外でインフルエンサーがベンチャー投資するのは当たり前が、数年後には日本の常識となり得る」と述べる。
インフルエンサーから出資を受けるメリット
筆者もまたインフルエンサーより出資を受けている経営者の1人だが、それによってこれまで多くの恩恵を受けてきた。
インフルエンサーから出資を受けるメリットは端的に言うと、顧客開拓しやすさだ。例えば筆者が経営する会社には10名近くのエグジット経験(上場または企業売却を意味する)のある日米のエンジェル投資家が投資をしている。
IT業界の人では誰しもが知る投資家であっても、IT界隈から外にでると知られていないケースが多い。その際に1人でもインフルエンサーが株主にいることで、いない時と比べて極めて顧客獲得をしやすくなる。
インフルエンサーファンド、iFundの活動状況と強み
東京都人口を超える総フォロワー数1215万人を誇る
iFundの強みはインフルエンサーがLPとしてファンドに出資することで、インフルエンサーの影響力を1つのファンドに集約している点だ。
累計フォロワー数は1215万人を超え、これは東京都の人口に匹敵する数字だ。投資先への支援はファンド出資しているインフルエンサーとの交流会等、ベンチャー企業とインフルエンサーの垣根を超えた繋がりを提供すると加藤氏は述べる。
「ユーチューバーは起業家と通ずる点がある。ベンチャー企業が最初のアイディアから何度もピボットして最も成長できるプロダクトにたどり着くのは、ユーチューバーが発信する内容を何度も変えて自分のポジショニングを見つける光景ととても似ている。そして多くの起業家もユーチューバーも自分のポジションを見つけられないまま、挑戦し続けることを諦めてしまう」とジョージ氏は語る。
投資先は全て成長しiFundのポートフォリオに
ベンチャー界隈内ではジョージ氏・ジロー氏含めトップユーチューバーがエンジェル投資をしていることは知る人ぞ知っていた。彼らの投資先には公開できる範囲ではNatee、BitStar、LUUP等がある。
投資先は全て成長しており、投資時よりも高値の企業価値となっている。これまでエンジェルとして投資した案件は全てiFundのポートフォリオとして譲渡して、ファンドとして、これまで以上に投資先サポートを手厚くするとジョージ氏は述べる。
起業家のアプローチが殺到し1日3件の投資面談を実施
2020年2月の取材時点でiFundは公にプレスリリースを発表していない。非公開で活動しているものの、既に投資先候補者が殺到し、毎日三件以上の投資面談を実施しているという。
また、iFundは所属する全てのチームに投資権限を委任しており、起業家サイドからしても面談の時間を無駄にすることがない。投資家の数が増えることによって、投資家は投資先のソーシングに手を挙げている中で、この投資面談の数は異常とも言える。
今後、iFundが投資家界隈の中で名を上げることにより、より多くのインフルエンサー(セレブリティ)がベンチャー投資を始めるきっかけとなることを願ってやまない。
筆者プロフィール
(とむら・ひかる)1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「detavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。