経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「銀座テーラーの真髄は技術力。 若手のチーム力で勝負する」―小倉祥子 (銀座テーラーグループ社長)

燦々_イラスト(銀座テーラー・小倉氏)

創業85周年を迎えた銀座テーラーグループ。昨年4代目社長に就任した小倉祥子さんは、2008年の入社以来、母親で会長の鰐渕美恵子さんと経営に専念してきました。「1着のスーツを通して、着る人の人生をより豊かなものにしたい」と話す祥子さんに、その思いを伺いました。

小倉祥子氏プロフィール

小倉祥子

(おぐら・しょうこ)東京都生まれ。青山学院女子短期大学家政学科卒業。1999年英国王立音楽大学にピアノ留学。2007年マーケティングを学ぶため米国の大学に留学。08年銀座テーラーグループ入社。専務取締役などを経て、19年より現職。


入社11年目で社長に就任し若手の働く環境整備に尽力

佐藤 銀座テーラーグループの4代目社長就任おめでとうございます。昨年11月の創業85周年&就任パーティーは心温まる内容でした。会長の美恵子さんが3代目社長に就かれたのが2000年。まだ女性経営者が珍しかった頃、美恵子さんが会社をぐいぐい引っ張っていく姿を見て、ひそかに尊敬していました。
小倉 会長が聞いたら喜ぶと思います。それと、母も似顔絵に描いていただいてありがとうございます。
佐藤 祥子さんは08年の入社後、どんなお仕事をされてきたのですか?美恵子さんとご一緒にされた仕事で印象深いものはありますか?
小倉 私の入社した年はリーマンショックがあり、国内需要が落ち込み、弊社も影響を受けました。そこで当時、現会長の発案で中東のドバイではオーダースーツ市場を調査し、ドバイやサウジアラビアでは女性向けの消費財を集めた展示会や交流会を催して、たくさんの人たちと交流できたことは私の視野を広げてくれましたね。

 その後は会長と二人三脚で経営に専念し、主に社内環境の整備をしてきました。社員に「銀座テーラーで働き続けたい」と思ってもらえるよう、社長と社員のつなぎ役として現場の声を拾ったり、給与体系や雇用体制を見直してきました。
佐藤 その一環として、特に注力されてきたのが若手の育成と技術の向上・練磨だそうですね。
小倉 はい。銀座テーラーの特長は、フルオーダースーツを1人の技術者がハンドメイドで仕上げるスタイル。この技術こそが弊社の真髄です。他社では生産性を鑑みて1人で全工程を担当することは稀でしょうが、弊社では確かな技術をもってこれをやり続けています。06年に仕立て職人を育てる銀座テーラー技術学院を創設したのも、この思いからです。
佐藤 ハンドメイドの技術者というと年配のベテランが多いイメージです。若手との世代間の融合はうまくいっているのですか?
小倉 ベテランと若手との間には価値観の違いがあるので、ギャップを埋めるために仕事の工数を見直しました。昔のように「若手は雑用が仕事。縫製の技術は見て学べ。何年も下積みが必要」というやり方では、若手の技術が向上しないばかりか、嫌気が差して会社を辞めてしまいます。そこでベテランの仕事を若手に分配し、若いうちから縫製の機会もしっかり与えるなど、技術の向上に専念できる環境を整えています。
佐藤 実際にやらせてみないと成功も失敗も経験しませんし、成長には失敗の反省も必要ですしね。

着る人の人生を豊かにする「CLOTHO」を世に提案

佐藤 最近は着物も海外仕立ての格安店が増えました。しかし、実際に着てみるとツレがあるなど残念な仕立て、ということがありました。だからこそ御社のように技術を高めていく方針は大切だと感じます。
小倉 ありがとうございます。良いモノをご存じの方は粗雑な海外縫製や素材の違いをすぐに見分けます。ただ残念なことに、モノづくりの良さが分かる方や、1着のスーツを仕立てるために高いお金を払う人が減っているのも事実。

 しかし、私たちは未来を切り開くのも技術と考えているので、この状況の打破にも積極的にチャレンジしていきたい。同時に、未来を担う若い世代に仕立ての文化と良い服を着る意義を伝えていきます。その手法の一つが、「Ginza Tailor CLOTHO」(以下、クロト)というブランドの展開です。

CLOTHO

東京・銀座の並木通り沿いにある銀座テーラー本店。写真は若年層向けブランドCLOTHO店内

佐藤 クロトは若い人向けのブランドですね。今はビジネスシーンでもカジュアル化が進み、「別にデニムでもいいじゃん」という若者をよく見かけます。そうした若者が良いスーツを着ることで、TPOに合わせたファッションについて考えるきっかけが増えるのは良いですね。
小倉 そうですね。クロトのコンセプトは「BESPOKE YOUR LIFE」。若い世代のライフスタイルに応じて、人生をより豊かにする本格志向のスーツを提案しています。クロトは銀座テーラー本店の技術者がチームを組み、若手の感性を生かし、オリジナルのパターンと芯地の製作をしています。他社の格安のオーダースーツは、海外の工場で技術開発したパターンを使うことでコストを抑えていますが、弊社はそこで妥協しないモノづくりをしています。
佐藤 素晴らしいですね。最後に新社長としての抱負と、今後の展開についてお聞かせいただけますか?
小倉 3代目の頃と、私が経営の舵を取る今とでは時代が違います。若い社員が弊社の要である技術をもって会社を先導していく仕組みをいかにつくるか。会長は自分でどんどん前へ進む経営スタイルでしたが、私は販売・技術・企画の3者が協力し合い、チーム力で経営するスタイルを目指しています。その上で、モノづくりを通して、銀座テーラーが信頼できるブランドであることを世の中に発信していきたいですね。
佐藤 祥子さんには令和を代表する女性経営者になってほしいですね。本日はありがとうございました。

令和時代の顔となる女性リーダーとしての活躍を期待しています(佐藤)

聞き手&似顔絵=佐藤有美
構成=大澤義幸 photo=市川文雄