経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「ソーシャルネイティブの若者たちが世界に日本を発信できるチャンスです」―出雲 充 (ユーグレナ社長)

ゲストは、黄緑色のネクタイでおなじみ、ユーグレナ社長の出雲充さん。近年はユーグレナの食品や化粧品開発にとどまらず、ジェット燃料実用化の研究も進めており、事業領域をますます広げています。日本のベンチャー企業を取り巻く現状と未来について熱のこもった対談となりました。

出雲 充・ユーグレナ社長プロフィール

出雲充・ユーグレナ社長

(いずも・みつる)1980年広島県生まれ、東京都育ち。98年東京大学文科三類に進学。バングラデシュで栄養失調の現場に直面し、農学部に転部。2002年同大農学部農業構造経営学専修卒業。05年ユーグレナ設立、ミドリムシの培養に成功。

ユーグレナ社内に保育園を設立

佐藤 本日はよろしくお願いします。こちらのオフィスは初めて伺いましたが、素敵なビルですね。エントランスも木の温もりや緑を感じられて、ユーグレナっぽいですね。
出雲 ありがとうございます。昨年できたビルで、グループ会社と一緒に2階と3階に移転してきました。2階には社内保育園「ゆーぐりん保育園」もあります。
佐藤 社内保育園ですか! すごいですね。みなさんの利用率はいかがですか?
出雲 お陰さまで満員です。子育て世代の社員が増えているのと、私自身、仕事と育児の両立の大変さが分かるので併設しました。私に育児の経験がなければ、つくる発想にならなかったかもしれません。手押し車に子どもたちを乗せて散歩に連れて行く様子が何とも可愛いんですよ。ちょこんと顔を出している姿とか。
佐藤 そのお話を伺って確信しましたが、出雲さん変わりましたね。起業家のとんがった雰囲気が和らいで、優しさと風格が出てきたように感じます。
出雲 本当ですか? ありがとうございます。自覚はありませんが、そう仰っていただけてうれしいです。

今のユーグレナがあるのは良い先輩に恵まれたから

佐藤 経済界大賞は今年第44回を迎えましたが、出雲さんが「ベンチャー経営者賞」を受賞されたのが第39回、もう5年前ですね。私が出雲さんを知ったのは、起業された学生の頃にマイクロソフト元社長の成毛眞さんから、「面白い若者がいる」と聞いたのが最初でした。でも出雲さんと実際にお会いしたのは、その数年後に経済界倶楽部の講演会の講師としてお招きした時ですね。
出雲 実は成毛さんから話を聞いていたという経営者の方は多くて、起業当時はどれだけ助けられたか分かりません。初対面でも、「君が成毛さんの話していた出雲くんか。今何に困っているの?」と相談に乗ってくれたり。SBIホールディングス社長の北尾吉孝さんもそう。当時から「経営哲学が大事だから勉強し続けることだよ」と親身になってご指導いただきました。
佐藤 頼もしい先輩たちに恵まれたんですね。私も若手起業家を応援したくて、2011年に「金の卵発掘プロジェクト」を始めました。応募条件は「起業から5年未満の会社」ですが、ユーグレナのような研究開発・バイオ・製造業の企業は起業年数を不問にしています。長年、大量培養が困難だったミドリムシの培養に成功し、今後はジェット燃料に、という大きな夢を実現しようとしている出雲さんに憧れて応募してくる若者は多いんですよ。
出雲 うれしいですね。現在があるのは、たくさんの企業にご支援いただいたからです。ジェット燃料については、昨年横浜市にバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントを建てました。今まで悔しかったのが、メディアにジェット燃料の可能性をいくら説明しても、「ミドリムシで飛行機が飛ぶ?」という半信半疑の記事にしかならなかったんですね。それがプラントが稼働してからは、「素晴らしい。いよいよ飛びそうですね」と反応が変わった。話している内容は以前と同じなんですけどね。
佐藤 日本でベンチャーが成功するには、そうした既存の価値観との闘いがありますね。いつの時代も成功している経営者は、誰も知らない、誰もやらなかったことを始めて、事業を大きくしてきたわけですし。
出雲 起業当時は、ベンチャーやイノベーションが大事だという人はほとんどいませんでした。それが変わったのが12年の第2次安倍政権発足後です。日本のベンチャーを取り巻く環境も、また若者の意識も変わりました。給与目当てで働く若者が減り、それまで勉強してきたことをみんなが健康で幸せな生活を送れるよう、社会のために使おうと考える人が増えた。ユーグレナが優秀な若者を採用できるようになったのもこの頃からです。
佐藤 今の若者はそうですよね。物余りの時代で、物欲もないですし。
出雲 今はデジタルネイティブで、生まれた時からスマホがあって、それがさらにソーシャルネイティブになってきています。私利私欲よりも、より良い社会をつくることに情熱を傾けている。日本では今年ラグビーワールドカップ、来年は東京オリンピック・パラリンピック、その後は大阪万博と、注目を集める国際イベントが立て続けにあります。ソーシャルネイティブの若者たちが、「日本の若者は社会のために頑張っている」と全世界に発信できる絶好の機会なんですよ。
佐藤 そうですね。ITの発展とともに便利な社会となり、情熱のある若者がさらに良くしていく。応援する側としても楽しみですね。
出雲 10年前、20年前よりも社会が進化しているなら、昔よりも良いことができないはずがない。周りの経営者や若者はみんな新しいことができそうだとワクワクしていますよ。
佐藤 その熱意は起業当時から変わらないですね。ユーグレナの今後に期待しています。

ユーグレナ

バイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラント(横浜市)。ラボ(実験室)をイメージした来客スペースにて

構成=大澤義幸 photo=佐藤元樹
聞き手&似顔絵=佐藤有美