経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「“今をいかに楽しむか” これが私のコンセプトです」―米山公啓(作家、医師)

燦々_米山公啓_イラスト

ゲストは作家で医師(米山医院・東京)の米山公啓さん。公私ともに20年にわたり親交のある友人です。「やりたいことをやって、今をいかに楽しく生きるか」が人生のコンセプトと話す米山さんの人柄に迫りながら、経営者の健康について伺いました。

米山公啓氏プロフィール

米山公啓

(よねやま・きみひろ)1952年山梨県生まれ、東京都福生市育ち。77年聖マリアンナ医科大学病院医学部卒業。医学博士。脳血流量、自律神経機能などを研究。98年内科助教授退職、作家活動を本格化。著書290冊以上。専門は神経内科。

興味のあることに忠実に自然体で人生を楽しむ

佐藤 米山先生とは、聖マリアンナ医科大学病院を辞められて本格的な作家活動に入ったころから、もう20年来のお付き合いです。東京・あきる野市で開業医をされながら、290冊もの本を出されているのは並大抵のことではありませんが、昔から本が好きだったんですか?
米山 子どもの頃から読書は好きでしたね。中学時代は作家で精神科医の北杜夫の小説を読みふけり、高校時代は純文学にはまって、大学時代はミステリー小説や漫画を読んでいました。その傍ら筒井康隆風の小説を書いたり。その一つ一つが今の活動に役立っています。
佐藤 米山先生といえば、雑誌『クルーズ』での連載の印象が強いです。
米山 あの時は1年間乗船して取材を続け、雑誌の監修もしました。クルーズとのもともとの出合いは、幻冬舎社長の見城徹さんに、「閉鎖空間の医学ミステリーを書きたい」と話したら、40日間のクルーズにご招待いただいたのがきっかけです。
佐藤 貴重なご経験ですよね。
米山 私は誰もやっていないことを真っ先に始めたり、誰も持っていないモノを早く手に入れることに情熱を注ぐタイプなんです。飽きるまでやり続けて流行ったらやめる。昨年は電気自動車「テスラ」に興味を持ち、インターネットで初めて車を買いました。充電器を入れるボックスも手作りし、カーアクセサリーにもこだわりました。……いい歳しておかしいでしょ(笑)。
佐藤 とても楽しそうですよ(笑)。
米山 私の人生のコンセプトは、「本当に今、楽しいのか」と「本当に今、やりたいことをやっているのか」の2つ。その時々で興味や趣味は変わりますが、ストレスをためず、自分に素直に生きています。
佐藤 自然体で楽しむことが米山先生の健康の秘訣なんですね。

人間のエネルギーは有限だと意識した行動を

佐藤 近年は医療分野にもAIの波が押し寄せています。AIの診断が増えると、人間のお医者さんはいなくなるのでしょうか?
米山 AIは生身の医者にはかないませんよ。診断だけが医者の役割ではないからです。例えば患者さんと話して、前向きになってもらい安心してもらうこともそう。たとえ話で、孤独なおばあちゃんが「もう死にたい」とAIに言ったら、殺されてしまったというブラックジョークがあります。おばあちゃんは本気で死にたかったわけではなく、さびしかったからそう言っただけなのに。この判断はAIではできません。
佐藤 温かみのあるコミュニケーションは人間にはまだかないませんよね。話は変わりますが、弊誌の読者で多い50代以降の経営者が健康で最も留意すべきことは何でしょうか?例えば飲酒も適量なら体にいいと言われますよね。
米山 まず気を付けたいのは生活習慣病(脂質異常症・高血圧・糖尿病)です。この予防が認知症予防にもいい。「酒は百薬の長」と言われますが、現在は「酒に適量はなく毒」というのが定説です。長生きしたければ酒をやめなさいという本を書きたいくらいですよ。
佐藤 最近は宴席で上司が部下に飲酒を強要しなくなりました。昔はお酒が弱かったり飲めないとつまらないと言われ、酔いつぶれるまで飲まされたものですが。
米山 健康法の難しいところは、喫煙も飲酒も体に悪いと分かっていてもやめないことです。それどころか、「納豆を食べるといい」など安易な発想に逃げがちです。しかし、健康を維持するには、食べ過ぎないこと、体を動かすことなど、地味な生活の積み重ねが大事なんです。
佐藤 耳の痛い話です……。
米山 また認知症の予防には、働き続けることも重要ですが、年齢に応じてペースダウンしながら、趣味の時間もしっかり取りましょう。スポーツもいいですし、モノづくりやアートは認知症抑制率が高いと言われています。もっとも、「楽しんでやること」が前提で、楽しくないのに無理に続けても効果は見込めません。
佐藤 やっぱり毎日をポジティブに楽しむことですよね。
米山 そうですね。そして、エネルギーは有限であると意識すること。60歳を過ぎて年配者が暴飲暴食や徹夜を続ければ体を壊します。健康は欲望と節制のせめぎ合い。若いうちから毎年の定期健康診断の結果を意識して行動してほしいですね。
佐藤 私も30代の頃は健康に無頓着で、徹夜で仕事をしていました。
米山 徹夜をすると高血圧になり、40代以降の脳出血の発症リスクが高まります。血圧を下げれば20年は長く生きられるのに。ところが、患者さんに薬を処方すると、「薬は癖になるから飲まない。薬に負けたくないから気力で治す」という人がいます。必要だから処方しているので、変な意地は捨ててくださいね。
佐藤 健康で長生きしたければ、お医者さんの話をよく聞きなさいということですね。本日はありがとうございました。

取材中、米山さんの足元から離れなかった愛犬・豆柴のたびくんと

聞き手&似顔絵=佐藤有美
構成=大澤義幸 photo=市川文雄