経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

日本のデジタル・バンキングは地方銀行を救えるか

長引く低金利と低成長で収益確保に苦しむ銀行業界。生き残りをかけた再編機運が高まっているが、フィンテックの台頭によるデジタル化も生き残るうえでは欠かせないハードルだ。デジタル・バンキングへと変貌できる銀行はあるのか、世界の動きから考える。文=勅使河原めぐみ(『経済界』2021年2月号より加筆・転載)

銀行がデジタル・バンキングを目指さざるを得ない理由

GAFAも狙うこれからの金融ビジネス

 2020年11月、グーグルは21年からスマートフォンで銀行口座サービスを利用できるようにすると発表した。シティグループら11の金融機関と連携し、ローンなどの金融サービスをスマホから提供する。既にスタートしている決済サービス「グーグルペイ」から一歩踏み込み、金融の世界に本腰を入れる。

 米国では他にもアップルがゴールドマン・サックスと共同でクレジットカードを発行。フェイスブックは決済サービス「フェイスブックペイ」をスタートさせ、デジタル通貨「リブラ」も主導するなど、軒並み金融関連のサービスに力を入れる。

 同様の動きはもうひとつのデジタル大国である中国でも顕著だ。アリババとテンセントが、それぞれ「MyBank」、「WeBank」という私有銀行免許を取得している。こうしたプラットフォーマーがデジタル・ウォレットを構想に組み込む動きが世界で広がっている。

 背景には、決済データを集めることで消費需要動向を分析・販売する狙いやデジタル広告の増加もあるが、何より既存のサービスに金融が加わることによる市場の成長性が魅力なのだ。ベンチャーキャピタルのフィンテック企業への未公開株投資額(18年)が前年比2倍以上の410億ドルに達したという報道からも、成長著しい分野であることが分かる。

 フィンテック企業やGAFA、BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が金融サービスに注力するなか、そのあおりを受けるのが伝統的な金融機関である銀行だ。ネット分野での金融市場で銀行の存在感がないのには理由がある。

銀行の「閉じた」システムでは対応できない時代に

 アカマイ・テクノロジーズの元社長で現在、日本金融通信社の特別顧問を務める小俣修一氏は次のように分析する。

 「伝統的な金融機関のシステム基盤は、対面を前提とした実物経済に向けて精緻に作られたものです。しかし、ネット経済では『いつでも』『好きな場所で』『リアルタイム』が基本です。世界最大のタクシー会社といわれるウーバーは1台もタクシー車両を持たず、世界最大の宿泊提供業者であるエアビーアンドビーも宿泊物件をもちません。

 つまり、実物経済は価値が価格に結び付く世界ですが、ネット経済は価値とは関係なく無料ビジネスも横行する世界。必要とする人と提供したい人を結び付けるネット企業は、データとアイデアが資産であり、コミュニティが重要な意味を持つビジネスですから、これまで対面で築き上げた顧客接点と手数料などの役務収益、そして地域の概念といったこれまでの銀行のノウハウが通用しないのです。

 その結果、ネット経済によって音楽や旅行、映画などの産業が中抜きされてきましたが、今まさに金融機関が中抜きされている状況です。1994年にビル・ゲイツが言った『銀行業は必要だが、銀行はそうではない』という言葉がそれを物語っています」

 銀行も安穏と時代にあぐらをかいてきたわけではない。60年代には即時取引を行える機械化を行い、90年代にはオンラインバンキングを進めてきた。

 しかし今の時代に求められる、いつでも、どこでも、ネットの中で、双方向に行う金融サービスでは、閉じた銀行システムでは対応できず、他社と連携しデジタル・データが駆使されるバリューチェーンの中で金融処理を担えるシステムに変えなければならない。つまり、デジタル・バンクを目指さなければ、衰退していくしかない。

ネオ・バンクとチャレンジャー・バンク

 小俣氏は、日本の伝統的金融機関が進化するには、日本よりも3~5年進む欧米の金融界の動きがヒントになると言う。

 「欧米のデジタル・バンクを語るうえで、ネオ・バンクとチャレンジャー・バンクについて説明しなければなりません。ネオ・バンクというのは銀行業務のライセンスを持たずに、既存の銀行と組んでさまざまな金融サービスを提供するフィンテック企業のことです。提携した銀行に対してネオ・バンクがAPI(外部システムと連携する技術)を構築し、主にモバイルを利用した預金や決済、キャッシュフロー管理といった金融機能を提供しています。

 一方のチャレンジャー・バンクは、銀行業務のライセンスを持ち、デジタル・プラットフォーム上だけでなく、実店舗を持つ場合もあります。例えば英国の『Metoro銀行』は銀行ですが小売店としても営業するユニークな店舗を持っています。このように従来の銀行とは発想の異なる企業が、従来と同等の金融サービスを提供しています。チャレンジャー・バンクは完全に独立した形態でサービス展開が可能なため、従来の銀行では行えなかったサービスを期待されています。

 チャレンジャー・バンクは英国だけで119社もあり、世界でも342社(20年6月末時点)あるといわれています。英国に多いのは銀行業務のライセンス取得が比較的易しいためです。逆に難しい米国は86社となっています。欧米の伝統的金融機関は、こうしたネオ・バンク、チャレンジャー・バンクと関わり合いながら自らのデジタル化を進めていこうとしています」

 チャレンジャー・バンクはそれぞれ特長があり、例えば英国のチャレンジャー・バンクのひとつ「monzo」はデビットカード事業から出発し、17年に銀行業務に参入。「無料の国際送金」「資金運用相談」などを提供している。米国西海岸のフィンテック都市、サンフランシスコにある「Chime」は、提供する金融サービスのスピードが伝統的な金融機関よりも早いのが特長だ。

 日本に関係するところでは、LINEがこの10月、タイで商業銀行大手カシコン銀行と組み、「LINE BK」を設立している。LINEアプリ上で口座を開設し、振り込みや個人向けローンのサービスを行い、日本での展開も予定している。

 ネオ・バンクであれ、チャレンジャー・バンクであれ海外の新たな金融機関の中には、日本の個人向け手数料の高さを魅力に感じ、進出も視野に入れている。そういう意味でも日本の金融機関のデジタル化はまったなしといえる。だが、日本の場合、技術的なことよりも人の問題がカギを握るといわれている。

 フィンテック企業と組むにしても目利きできる人材が必要であり、何より、経営トップがデジタル化に舵を切れるか、その決断力が問われている。そんななか一歩を踏み出した日本の伝統的金融機関もある。

デジタル・バンキングに参入する地方銀行

2021年以降は動きが加速

 日本初のチャレンジャー・バンクを目指す「みんなの銀行」を設立したのは、福岡銀行を傘下に持つふくおかフィナンシャルグループ。銀行離れが進むデジタルネイティブ世代を獲得するため、既存銀行とのカニバリを恐れずに、21年初頭の稼働を目指している。

 石川県金沢市に本店を置く北國銀行も21年にデジタル基盤をクラウドへと移行する予定だ。

 直近では、18年に東京都民銀行、新銀行東京、八千代銀行が合併して誕生したきらぼしフィナンシャルグループも22年1月をめどにデジタル・バンクを設立すると発表した。

地方銀行
デジタル・バンキングに取り組む福岡銀行と北國銀行

伝統的金融機関の逆襲がはじまる!?

 別の角度からも面白い取り組みが始まっている。19年4月に、旅行業のHISがGMOあおぞらネット銀行と組む銀行代理業を始めると発表した。HISはネオ・バンクとして、普通預金口座の媒介、企業間決済業といった包括的な金融サービスを行い、銀行口座開設の窓口になる。

 その結果、あおぞら銀行は懸案である役務収益と顧客接点の拡大が見込まれ、HIS側は顧客の旅行目的の積立てやローンなどの金融サービスを主体的に行うことができる。しかも、その処理は24時間365日。同様の動きは、住信SBIネット銀行でも始まっている。

 「銀行のデジタル基盤の利用開放によって、企業の商品・サービスと金融サービスを一体で手掛けられるようになり、銀行にとっては『顧客接点』『地域概念』『役務収益』の問題を解決し、新たなビジネス・チャンスを生み出します。銀行が金融業務処理を行う裏方となり、BaaS(Banking as a Service・サービスとしての銀行)を提供することで、企業が金融サービス提供の主体となれば、例えば地域金融機関は、金融業務処理の裏方として地域企業と組むことで、地域経済のエコシステムを戦略的に構築できるのではないでしょうか」と小俣氏は地銀の可能性の拡大を示唆する。

 GAFA、BAT、黒船フィンテックなどが、成長著しいデジタル金融の世界を虎視眈々と狙うなか、日本の伝統的金融機関の逆襲はなるのだろうか。