経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

地方創生の鍵。日本でシリコンバレーを作るエンジェル投資家集団〝SEVEN〟

シリコンバレーに集まる起業家と投資家(右端が筆者)

シリコンバレー企業にお金が集まる理由

 シリコンバレーからなぜ、世界最高のイノベーションが生まれるのだろうか。
 その答えは単純で、世界最速でヒト、モノ、カネが循環しているからである。シリコンバレーではこの、ヒト、モノ、カネの循環速度を加速させるために、日本にはいまだ存在しないエンジェル投資家コミュニティが存在する。それがシンジケートファンドだ。(『経済界』2020年2月号より加筆・転載)

ベンチャー投資を加速させるエンジェル投資家集団の仕組み

 スタートアップに投資をするファンドはベンチャーキャピタルが一般的であり、シンジケートファンドは日本では馴染みがない人がほとんどだろう。

 通常のベンチャーキャピタルは、事業会社や機関投資家などがLP(リミテッドパートナー)となり、一度ベンチャーキャピタルが運営するファンドに投資すると、預けたお金は、融通がきかない。複数のLPが存在し、プールしたお金で複数のスタートアップに投資をするからだ。

 つまり、個別の案件ごとに投資先を選定させたり、投資額を増減させたりする権利はLPにはない。一方でシンジケートファンドはそれとは異なる。

 例えば、スタートアップが1億円の資金調達を計画するとする。シンジケートファンドはその1億円分のファンドを複数の個人投資家(エンジェル)により形成され、そのスタートアップ1社のみに投資する。つまり案件ごとに投資先を選定することができ、投資金額の増減を決めることができる。

 また、スタートアップ側は投資契約書を複数のエンジェル投資家と締結する必要はないため、資金調達時の面倒な事務作業を削減することができる。

シンジケート投資先から急成長企業が続出

 シリコンバレーではZoomやSlackを始め、このシンジケートファンドを利用して資金調達する起業家が多数の事業で成功を果たすケースが増えている。

 シンジケートファンドの組成をサポートするサービス、エンジェルリストはこれまで1千億円以上の投資を支援し、そのうち約40%の起業家がトップティアのVCから資金調達を実施している。つまりシンジケートファンドから出資を受けることは王道とも言える。

上場経験者を仲間にする最大のメリット

 成功の理由はそれらの仕組みのみならず、既に成功しているエグジット起業家(上場または売却を経験した起業家)がハンズオンで事業をサポートするからである。

 例えばZoomに投資したシンジケートファンドには法人向けサービスで上場経験のある経営者が集まり、投資をしている。そのため、法人向けサービスでの販売ノウハウを投資先であるZoomにシェアすることによって、成功までの道のりをショートカットすることができる。

 エンジェルラウンド(創業直後)のスタートアップはとにかくお金を持っていない。それらの企業が上場経験者を株主に迎えて仲間にすることで、上場までのハードシングス(落とし穴)を回避することができるため、その後のステージで出資をする投資ファンドにとっても安心して投資をすることができる。

 今ではエンジェルシンジケートはシリコンバレーのエコシステムがより循環するために無くてはならない存在となっている。

日本で始動した「7」にこだわるエンジェルシンジケート

 米国のシンジケートファンドを日本の法律に適応させたエンジェル投資家コミュニティがある。その名は「SEVEN(セブン)」だ。

 セブンは70億円の売却、700億円の上場を目指して、投資先を支援する。投資家は全員企業経営者で、日本全国での地盤が固い経営者が次世代の産業創造を狙って投資を実施する。運営を担うのはChatwork創業者の山本敏行氏と元同社のインターン生でこの記事を執筆する筆者だ(ウェブサイトhttps://seven.yt/)。

シリコンバレーに集まる起業家と投資家(右端が筆者)
シリコンバレーに集まる起業家と投資家(右端が筆者)

 近年日本では、スタートアップを志願する若手が増えてきているが、世界に比べると、スタートアップが成長する環境が整備されていないのが現状である。〝エンジェル投資をして次世代の産業発展に貢献する〟という概念が日本で一般的ではないため、若手起業家やテクノロジー銘柄にお金が集まりにくいのも事実だ。

 10年前の世界時価総額ランキングでは日本の古き良き企業が複数社トップ10にランクインしていたが、今ではほぼ世界のテクノロジー銘柄に順位を抜かれている。またその半数(Google、Facebook、Amazon、Apple等)がシリコンバレーのこのエコシステムを活用した企業だ。次世代の産業を生み出すためにヒト、モノ、カネを好循環させることは必要不可欠である。

 SEVENでは、そのような環境を変えていくべく、活動を進めていく方針だ。

 「現役経営者のエンジェル投資家と若手起業家が出会い、お互いに切磋琢磨することで日本経済の底上げができるような場づくりを提供していく」と山本氏は語る。

 今後のSEVENの動向に注目していただきたい。

戸村光

戸村 光(とむら・ひかる)――1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「datavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。