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河野太郎・行政改革担当大臣が描く「デジタル化の先にある“ぬくもり”のある社会」とは

菅義偉内閣の政策の一丁目一番地が行政改革と言ってもいい。縦割りを排し、政策遂行をスムーズにする。行政の無駄を徹底的に省いたあとの人員や予算をより重要な事業に展開する。その旗振り役に任命されたのが河野太郎衆議院議員だ。菅氏は同期当選の河野氏を「将来の首相候補」と公言してきたが、今回の起用で永田町ではポスト菅の一人としても浮上してきている。河野氏が手掛けるデジタル化や手続きの見直し、予算や事業のチェックなどは猛スピードで進められているが、その先にはこの国のどんな社会の形が見えてくるのか。(『経済界』2021年3月号より加筆・転載)取材・文=鈴木哲夫 Photo=幸田 森

河野太郎氏プロフィール

河野太郎
(こうの・たろう) 1963年生まれ。神奈川県出身。85年米ジョージタウン大学卒業後、86年富士ゼロックス入社。93年日本硝子入社。96年第41回衆議院総選挙にて神奈川第15区で初当選。これまで国務大臣、第75代国家公安委員会委員長、行政改革担当、国家公務員制度担当、内閣府特命担当大臣(防災、規制改革、消費者及び食品安全)、外務大臣、防衛大臣などを歴任。20年9月に誕生した菅義偉内閣で、行政改革担当、国家公務員制度担当、内閣府特命担当大臣(規制改革・沖縄及び北方対策)に就任。

特命担当大臣就任後に河野太郎氏が取り組んだこととは

行政手続きの簡略化、教育、医療のデジタル化などを推進

―― 大臣就任から仕事のスピード感がある。ここまでを振り返ってどうか。

河野 菅総理から結構急かされて(笑)、閣議のあとに「あれはどうだ?」って聞かれて「こうです」と答えて、そのあと議員宿舎で会ったら、「ところであれはその後どうだ?」って聞かれて、まだ12時間たってないのに。そんな感じで煽られています。

―― 具体的にはどんなことが進んでいるか。

河野 平井卓也大臣がデジタル化を進めるためには、前提となる押印をなくすということを早くしないと前へ進まないので、これまで押印が必要な行政手続きが1万4992項目だったところを83に減らしました。また、オンラインの教育や医療などで、現在特例でやっているものを特例のまま続けるという総理からの指示があるので、平井大臣とツープラスワンでいろいろ議論をしています。ワンというのは、教育は萩生田光一文科大臣、医療は田村憲久厚労大臣など関係の方々ですね。

―― 教育と医療のオンライン化は、新型コロナをきっかけに一気に政策課題になった。

河野 大臣になって新たに設置した「直轄チーム」に各省庁からひとりと、多くの自治体から人を出してもらっています。いろいろな要望を聞き、対応するためです。

 そうしたアンテナを使って早速やったことと言えば、例えば群馬県の山本一太知事から、救急車を出動させる際に行きは高速料金がタダだけど帰りは有料になるので下の道を使っているが、そのために次の出動が遅れるという話を聞きました。そこで、国交省と消防庁と協議し、帰りについても無料にすることを明示してもらいました。

 ほかには、今は科学研究費について各省庁ごとに別々のルールになっており、複雑だと研究者からの意見がありましたので、相談して2021年度からは統一ルールで行うことにしました。井上信治科学技術担当大臣と一緒に取り組んでいます。

―― 日本は学術・研究予算が世界各国と比較しても少ない上に手続きもかかる。これは何とかしないと。

河野 これまでは、研究費については有識者会議を立ち上げて1年間検討して、翌年から法案の議論に入るといった手続きだったんですね。ほとんど根拠のないイジメに近いような手続きだったので、そんな手間ひまがかかる制度をやめて、研究者が研究できる時間を取れるようにしようと。

 もちろん本丸は研究予算をいかに増やせるかですが、そこはなかなか簡単にはいきません。それは政策の議論ですから所管の大臣に議論してもらうことにして、つまらない手続きによって、研究者が時間を無駄にするのをやめようと改革を進めています。

河野太郎

デジタル化によって実現する「ぬくもりある社会」

―― 改革について各論それ自体はよく分かるが、その先にはどんな社会を描いているのか。

河野 何のために規制改革、デジタル化をやるかというと、少子高齢化がどんどん進む中で子どもが健全に育って日本を背負ってもらわないといけないし、高齢者で生活が困難な方には寄り添っていかないといけないし、人が寄り添わなきゃいけないことが増えてくる。

 でも一方で人口は減っていきますから、今までと同じことをやっていたら人に寄り添うことなんかできない。そこをデジタル化で、人間がやらなくていいことはロボットやAIに任せようと。デジタル化してオンラインに乗せることで人手をかけずに、その浮いた分の人手でぬくもりを与えられるような、寄り添うような仕事をやっていこう、そんな社会をつくろうというのが狙いです。これを理解してもらうために、あちこちで話をしています。

―― 「ぬくもり」というアナログなものと、デジタルが実はつながっているということか。

河野 今はまさに新型コロナ禍ですが、自然災害が起きた場合などもいろんな支援策の中でどれが自分に当てはまるのかよく分からない。国も県も市町村もいろいろやっているけど、例えば会社によっては何が適用されるのか分かりにくかったりします。そういうときにマイナンバーや法人番号があれば、行政からこういう支援を受けることができますとお知らせできるようになる。

 また、マイナンバーや法人番号に金融機関の口座を紐づけしていれば、支援金を振り込んだという通知が行政から来る。今みたいに支援策を探して申請書を書いて、書き損じがあったら送り返されてまた送るみたいなことをやるんじゃなくて、プッシュ型の行政ができるようになります。

―― 確かにその辺りは今回のコロナ禍でみんなが痛感した。

河野 今年度に法改正をやるのですが、名前が変わったり住所を変更したりした場合、認証局を通じてマイナンバーの情報をいろいろなところから照合することができるようになります。だから住所が変われば、コンピューター上で自動的に住所変更をお知らせして、金融機関や保険会社などがいちいち手続きしなくても良い。転出入届けで情報が変われば、あとは横断的に展開されます。

 それによって、納税者、市民は便利になるし、行政も窓口や手続きに当たる人間を削減して、必要な場所に人を振り分けられるようになります。先日、10代の人が国内で初めて新型コロナで亡くなったという誤報がありましたが、発展途上国じゃないんだから、そのようなことはもうなくしましょうということです。

個人の状況に即した支援策を打てるように

―― 行政も国民も双方が便利になることによって、ぬくもりを大事にする社会というゴールが近づくと。

河野 デジタル化が実現すれば政策の形、理念が変わるんです。今までは、行政は集団でしか見ることができなかった。例えば、「母子家庭」といった大きなグループごとに見て、その平均的なところで政策を考えていた。ところが、マイナンバーで個々の所得も把握することができるし、いろんなビッグデータ、マイクロデータを組み合わせるとひとりずつの状況を浮かび上がらせることができる。必要な人に対して、個に対して必要な策を打てるようになってくるんです。

 東京の足立区や大阪の箕面市などは、教育委員会に子どもに関するデータベースを作って、例えば、成長曲線から懸け離れて身長体重が伸びてない子どもについては食べていないんじゃないか、その子の家庭が母子家庭で、お母さんの所得が減っていて、栄養が取れてないんじゃないかといった推察ができます。あるいは、今まで児童虐待は先生があざを見て気づくなど現象面でしか見つけられませんでしたが、データを見て児童虐待が起きている可能性が考えられる場合は、先生やソーシャルワーカーが家庭訪問したり、町内会が気にしたり、一人一人をケアすることが可能になってきます。

 一人一人をデータで浮かび上がらせて、行政が対応できるようになることがデジタル社会の行政の大きな特徴です。そうすると本当に必要な支援ができて、貧困の連鎖につながらないよう止めることができる。この点はかなりしっかりやりたいと思います。

―― 日本は海外に比べてデジタル化が遅れている。

河野 イギリスではマイナンバーのようなIDで、週ごとに所得の変化が分かるようになっています。すると、コロナ禍で苦境に陥っている世帯に支援ができる。日本ではマイナンバーと口座番号が連動していませんが、マイナンバーで所得を把握できるようになれば、全世帯一律に10万円支給ではなく、この世帯にいくら支給する、あるいは現物で必要なものを配布するといったことが決められるようになります。こうしたことが、デジタル、AI、ビッグデータの進歩でできるようになってきたので、それをやろうということです。

ライフワークとして取り組むエネルギー政策

―― ただ、個人情報やビッグデータの取り扱いに関して、国民の不安はあると思うが。

河野 これまでは課題が顕在化していなかったけれど、コロナ禍で全員に10万円を支給するときに明らかになりましたよね。紙の申請書に書いて送って、全部配るのに一体どれだけの時間がかかるんだと。あのときにマイナンバーに口座をつけていれば、随分やり易かったと多くの方々が実感しましたよね。

―― 行革担当相として、また河野さん個人としても、今後はどんなことに力を入れていきたいか。

河野 デジタル化のための規制緩和はもちろんですが、あとひとつはカーボンニュートラルで、そのために再生可能エネルギーへの取り組みを最大限やらないといけません。グリッドを始めとする電力システムも変えていかないといけない。ここは日本が圧倒的に遅れていたので、追いつくために規制緩和もやらなきゃいけない。そのためにタスクフォースを作って、一生懸命やってもらっています。

―― そもそもエネルギー政策は河野さんのライフワークの一つと言ってもいい。

河野 日本はかつて太陽光発電でもトップを走っていて、風力発電でも三菱重工業、日立製作所がやっていましたが、今はすべてなくなってしまいました。過去のエネルギー政策の失敗によって、さあこれからエネルギー政策をやるぞということになっても、日本の企業がいないという状況なんですね。

 エネルギー分野では、例えば地熱発電のタービンなど日本が踏ん張っていますが、部分的にしか残ってない。一方、AppleやGoogleは、21世紀の早い時期に再生エネルギー100%にして、サプライチェーンも全部それで賄う方向で進んでいる。そのとき日本の製造業が、果たして国内でやれるのかという危機感があります。

―― エネルギーに関わる規制緩和が急務ということか。

河野 エネルギー絡みのボトルネックを早く解消してあげないと、日本の経済にはネガティブなインパクトがもたらされてしまう。日本におけるエネルギー産業が衰退してしまっているということと、再生可能エネルギー100%のサプライチェーンを作ることにおいて後手を踏んでいる部分。それらを早くリカバリーしていかなくてはならないと思っています。

河野氏はずっと行革、原発、中東外交など、自民党にはない創造的な政策を積み重ねてきた。加えて歯に衣着せぬ発言もあって党内では「異端児」のレッテルも貼られたが、それでも独自路線を貫いてきた。父・洋平氏も自民党と一線を画して新自由クラブに所属した。信念の行動には洋平氏のDNAを感じる。実は河野氏は、2021年秋の総裁選へ準備を進めて、各分野のブレーンと政権構想をまとめてきていた。そんな中での菅政権誕生と入閣となったが、総裁選や総選挙がある今年は政局と隣り合わせ。河野氏の政治行動が注目される。(鈴木哲夫)