経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

シリコンバレーを誰よりも知る男が語る「2021年10の投資トレンド」

アニス・ウッザマン ペガサス・テック・ベンチャーズ代表パートナー兼CEO

全世界で数多くのファンドを運営するペガサス・テック・ベンチャーズ。その代表パートナー兼CEOのアニス・ウッザマン氏は、シリコンバレーのインナーサークルを一番よく知る男と言われ、これまで米国、日本、東南アジアなどでベンチャー企業への投資を行ってきた。そこでウッザマン氏に今年の投資トレンドを語ってもらった。聞き手=関 慎夫(『経済界』2021年4月号より加筆・転載)

アニス・ウッザマン氏プロフィール

アニス・ウッザマン

アメリカで大流行したSPACによる上場

―― コロナ禍で世界経済は大打撃を受けていますが、その一方で株式市場は好調です。そこで米国市場を中心とした今後の投資トレンドを教えてください。

ウッザマン 投資トレンドには投資そのもののトレンドと、投資分野のトレンドの2つがあります。投資のトレンドで、今アメリカで非常に大きくなっているのがSPACを使った上場です。SPACというのは特別買収目的会社です。SPACをまず上場、資金を調達して、そのあとで企業を買収します。その後、買収先の企業が存続会社になり、上場企業になるという仕組みです。

 2020年はSPACによる上場は242社で、800億ドルを調達しました。21年はさらに増えることが予想されます。

―― 昨年、燃料電池トラックを製造するニコラ・モーターがSPACを使い上場しましたが、その後、発表内容が嘘であることが分かり、株価が暴落しました。

ウッザマン SPACがうまくいくかどうかは、目利きのファンドマネジャーがいるかどうかにかかっています。シリコンバレーなどに強いファンドマネジャーは、将来的に有望な会社を買収する可能性が高いため、それだけでお金が集まりますし、実際に上場後も株価は上昇しています。ところが中には、資金調達能力はあるけれど、ベンチャーを見る目がないファンドマネジャーもいます。そうなると上場後にトラブルが起きることも実際にはあります。

2021年の投資分野のトレンドはどうなるか

トレンド①医薬品開発の革命

―― では、21年の投資分野のトレンドはどうなりますか。

ウッザマン まず第1に「新型コロナのテスト及びワクチン開発を通じた高度な医薬品開発の革命」です。

 新型コロナは医薬品業界にとって大きな革新をもたらしています。医薬品の試用に至るまでのプロセスがより迅速かつ容易になってきていますし、従来の臨床試験型から、オンラインでの相談とリモートでのデータ収集といった新たなスタイルに移行しました。遠隔臨床試験をはじめとした同スタイルの変更は、医薬品の開発方法そのものを革新的に変える可能性があります。

 既に新型コロナのワクチンは実用化されましたが、ファイザーとモデルナは人類史上初のmRNAワクチンの開発という巨大な技術革新をもたらしました。今後も新型コロナのテストキットやワクチンの開発などにおいて、より多くのイノベーションが見られるでしょう。

トレンド②リモートワーク、ビデオ会議関連は成長が継続

 第2のトレンドは「リモートワークとビデオ会議の継続的な拡大」です。この分野は昨年、大きく成長しましたが、21年もさらに成長を続ける可能性が高い。

 Zoom社は、11年に設立、19年に上場しましたが、新型コロナによって瞬く間に世界中にその名が知れ渡るようになりました。また、シスコシステムズのWebex、米マイクロソフト社のTeams、など、既存の大手企業ツールも最先端のビデオ会議システムを提供しており、世界中でリモートワーク技術が日々進歩しています。

 さらにこのリモートワーク技術の分野において多くのベンチャー企業が注目されています。米ブルースケープ、イスラエルのイーループスなどのベンチャー企業は、コンテンツの作成と共有、対話、プロジェクトの追跡、従業員のトレーニング、仮想空間でのチームビルディングなどを行うビジュアルコラボレーションプラットフォームを提供しています。

トレンド③非接触型ビジネスは今年さらに成長

―― コロナ禍前はZoomを知ってる人はほとんどいなかったのに、今ではZoom会議やZoom飲みなど、毎日のように使っています。

ウッザマン 3つ目のトレンドは「非接触デリバリーサービスはコロナ明けも続く」です。アメリカの非接触のビジネスモデルが確立され、同ビジネスモデルを好む人々が20%増加しました。ドアダッシュ、ポストメイツ、インスタカートなどの会社は、ドロップオフの配送サービスを提供しています。ウーバーイーツも、非接触での配達サービスの成長に一躍買っており、21年にはさらなる流行が見られるでしょう。

トレンド④新型コロナを契機に拡大した遠隔医療

 トレンドの4番目は「遠隔医療がより盛んに」です。これも非接触ビジネスですが、医療機関では、他の患者や労働者が新型コロナに接触しないよう取り組んでいます。医師と患者間でのビデオチャット、AIアバターによる診断、非接触での医療薬の提供など、より多くの遠隔医療サービスや非接触サービスが実施されています。

 遠隔医療サービスは、新型コロナの感染拡大前と比較すると50%ほど増えています。テラドックヘルス、アムウェル、リヴォンゴヘルス、ワンメディカル、ヒューマナは、こうしたニーズをうまく汲み取った遠隔医療サービスを提供する米国の上場企業の一部です。

トレンド⑤オンライン教育とe-ラーニング

 同様に「教育システムの一部としてのオンライン教育とeラーニング」もトレンドのひとつです。新型コロナで、およそ190カ国で全国的な学校閉鎖が余儀なくされており、約16億人に大打撃を与えていましたが、この状況が教育業界のオンライン化を急速に推し進めることとなりましたし、今後も伸びていきます。

トレンド⑥オンライン診療、教育を支える通信インフラも有望

―― オンラインによる診療や教育のためには、通信インフラの拡充が不可欠です。

ウッザマン それが6つ目のトレンド「5Gインフラの開発と新しいアプリケーション・事業の増加」です。高速インターネットの需要が急激に増加し、コネクテッドホーム、スマートシティ、自律走行車といったトレンドが5G・6Gのインターネット技術の進歩を推し進めていることは間違いありません。

 米ベライゾンは昨年10月に5Gネットワークの大幅な拡大を発表し、2億人以上のユーザーを網羅する予定です。中国でも同様に、5Gの展開が急速に起こっています。世界的にリードしているのは、スウェーデンのエリクソンですが、現在5G関連領域に投資している事業会社の数は380を超えています。5G・6G技術は、スマートシティ化をグローバル規模で推進し、自律走行車の台頭に一躍買うことになるでしょう。

トレンド⑦産業分野で急成長するAI、ロボティクス、IoT

 トレンド7は「AI、ロボティクス、IoT、産業オートメーションが急速に成長」です。今年には、AIと産業オートメーション技術の巨大な需要と急速な成長が見込まれます。製造業やサプライチェーンが米国をはじめとする先進国で再び勢いを増している中、人手不足が深刻な課題となります。こうした中で、AI、ロボット工学、IoTなどによる自動化は、作業工程の改善に大きく役立つと言われています。

 トップテクノロジーを提供する企業として、中国のウバテックロボティクス、ルーボ、XYZロボティクス、米国では、クラウドマインド、ブライトマシーンズ、カナダのキンドレッドAI、日本ではプリファードネットワークスなどがあります。

トレンド⑧実用化が拡大するVRとAR

―― ようやく日本企業が入ってきました。

ウッザマン 8番目は「VRとAR技術の使用が増加」です。昨年は、AR(仮想現実)とVR(拡張現実)にとって大きな躍動の年となりました。エンターテインメントからビジネスまで、ARとVRは今や日常生活の一部となり、あらゆる分野で驚異的な変革を可能にしました。5Gが普及すれば、その使用率は一気に上がります。この分野ではマイクロソフトやインドコンサゴウス、クイテック、インドのNICなどが業界を先導しています。

トレンド⑨マイクロモビリティ業界を盛り上げるベンチャー

 9番目は「マイクロモビリティの継続的な成長」です。電動バイクや電動スクーターは、簡単にソーシャルディスタンシングができるだけでなく、とても便利であることから、ユーザー数が急増しています。マイクロモビリティ市場はプライベートマイクロモビリティで9%、共有マイクロモビリティで12%成長すると予想されています。この業界を盛り上げているのはベンチャー企業です。具体的には、アメリカではバード、ライム、オランダのドット、ドイツのティア、スウェーデンのヴォイなどが、世界のマイクロモビリティ業界をリードしています。また中国のオフォ、モバイク、ハローバイクはユニコーン企業になりました。

トレンド⑩実用化目前の自動運転車

 そして最後が「自動運転のイノベーション」です。米テスラ社のオートパイロットでは、車線の中央走行や、自動車線変更をするだけでなく、速度制限を認識したり、信号の色を検出したりする機能も今年、追加されました。フォードも、年内に自動運転車のライドシェアリングサービスを開始する予定です。メルセデス・ベンツを含む他の自動車メーカーも、21年から自動運転技術を新型モデルに搭載しようとしていますし、GMは23年までにハンズフリードライビングを実現する予定です。

 自動運転技術を持つのベンチャー企業の買収も盛んになっています。GMはクルーズを10億ドルで、ウーバーはオットーを6億8千万ドルで、フォードはアルゴAIを10億ドルで、インテルは153億ドルでイスラエルのモバイルアイを、それぞれ買収しました。

 以上、10のトレンドを紹介しましたが、コロナに対応した行動スタイルはすでに日常となっています。それが主要な技術とビジネスの革新を促進し、「コロナ特需」を起こしてもなってもおかしくありません。