特別対談 山本敏行(チャットワーク創業者)×戸村光(hackjpn CEO)
シリコンバレーで起業し、企業と投資家に関する豊富な情報を武器に活躍するハックジャパンCEOの戸村光氏。その戸村氏が初めてシリコンバレーに渡った時に頼ったのがチャットワーク創業者の山本敏行氏だった。この2人が昨年、起業家とエンジェル投資家を結ぶ「SEVEN」を開設した。そこで今回は2人にエンジェル投資の意義とSEVENの役割を話し合ってもらった。(『経済界』2021年4月号より加筆・転載)
山本敏行・チャットワーク創業者プロフィール
起業家とエンジェル投資家を結ぶSEVENが地域格差をなくす
―― 山本さんと戸村さんはエンジェル投資家とスタートアップのマッチングを行う新たなコミュニティ「SEVEN」を昨年、共同で立ち上げましたが、そもそもどういう関係なんですか。
戸村 山本さんは大阪桐蔭高校で15歳上の先輩です。高校時代、ある勉強会に出席したら、山本さんが講演していて、それで知り合いました。
山本 当時、僕はシリコンバレーに拠点を置いていたのですが、7年前のある日、フェイスブックで、彼が高校を卒業してシリコンバレーに来たことを知りました。そこで連絡してランチに行ったら、親の援助なしで来ていて、住む場所もろくにないという。そこでチャットワークでインターンをしながら、オフィスで寝泊まりしたらどうかと誘ったところから、付き合いが始まりました。以来、彼が起業する時にアドバイスしたり、僕がやっていたシリコンバレーでの社会人インターンを手伝ってもらったり、という関係です。
―― SEVENを始めたきっかけはなんだったのですか。
山本 ある時、2人でカフェにいたら、彼が、「僕の周りにはたくさん起業家がいるけれど、彼らに対して2人で何か新しいことができないか」と言ってきた。
戸村 僕は投資家さんの評価サービスをやっていて、多くの起業家と付き合いがあります。彼らはみな資金調達をしたがっている。だけど僕は情報は提供できるけれど、資金は提供できない。一方、山本さんは、チャットワークを退いたあと、エンジェル投資家として活動しているし、何より、チャットワークを起業し、上場まで導いた経営者としての実績もある。2人が組めば、面白いことができるのではないかと考えました。
―― SEVENはVCではないのですか。
山本 VCの場合、ファンドを組成しますが、そうなると金融の免許も必要です。そこでアメリカではよくある、シンジケートファンドのようなものを目指しました。僕や戸村君が面白い投資先を見つけてきて、オンラインでピッチイベントを開催しています。そこに対して投資するエンジェル投資家を招待する。ただし、ファンドではなく、投資家が直接、出資する形です。
VCから資金調達するスタートアップも増えていますが、VCの場合は必ずリターンが求められます。そのため、可能性への道筋がきちんと見えないと、リスクを負いにくいところがあります。そこで起業家が親戚や仲間から資金調達することも多いのですが、やはり限界があって、なかなかスタートできない、あるいは途中で終わってしまうケースも珍しくありません。その点、エンジェル投資家は、自分だけのお金で投資してくれるので、リスクを取りやすい。失敗するリスクもありますが、成功すれば百倍、千倍になる可能性もある。
しかもエンジェル投資家の大半が経営者ですから、出資するだけでなく、自分の経験も提供することもできますし、それにより自分自身経営者になったような感覚で成功を分かち合うこともできる。これもエンジェル投資の醍醐味です。
戸村 地方創生の観点からも、エンジェル投資は重要です。今は昔に比べてスタートアップの資金調達もやりやすくなったと言われますが、それは東京のベンチャー村に入っている場合です。VCとの接点も多いし、情報も多くある。ところが地方に行けば、投資家が会ったこともない起業家がたくさんいます。しかし彼らの情報が東京に届かないから、VCも資金を出すことができません。SEVENは、東京に来なくても、地方にいながら資金調達ができる仕組みです。すべてオンラインで完結するので、地方の方にも平等にチャンスがあるし、逆に地方の経営者もエンジェル投資家になることができます。
最近では、長野県と宮城県のアクセラレーターと連携して、彼らが1年間育ててきたスタートアップ3社を紹介してもらいました。優秀な起業家なのに、地方にいるために資金調達ができないためSEVENを活用したいとのことで、ものすごく喜んでいただいています。こうした取り組みを今後はさらに広げていき、全都道府県のアクセラレーターと連携し、地域に貢献できたらいいと考えています。
「7」にこだわるSEVENの運営
―― では実際にどのように運営され、どうやってスタートアップとエンジェル投資家をマッチングさせているのですか。
戸村 SEVENですから「7」には徹底的にこだわっています。
このコミュニティに入るには、毎月7千円の会費が必要です。会員になると、毎月7日と21日の午後7時から開かれるZoomイベントによるピッチ(事業プレゼン)に参加できます。ただし、参加できるのは、毎回、われわれが厳選した7社前後に限られます。その日のうちにファーストラウンド、セカンドラウンドを行い、そのうえで投資したい投資家がいるかアンケートを行い、いれば、次回に7分間のファイナルランドを行います。そこで、投資家が集まれば、ファーストラウンドから14日後に資金調達契約を締結することになります。VCからの資金調達は早くても3カ月ほどかかりますから、ものすごいスピード感です。
―― 株式型のクラウドファンディングと似ています。違いはあるんですか。
山本 クラウドファンディングの場合、誰でも出資者になることができます。SEVENの場合は、出資者を7人以下に絞っています。エンジェル投資家は単にお金を出すだけでなく、スタートアップに対して何ができるかを説明しなければなりません。そのうえで、スタートアップ側が出資者を選定することもあります。つまり出資者だけでなく、スタートアップも選ぶ権利がある。ですから投資家とスタートアップは上下関係ではなく、一緒に歩んでいく夫婦のような関係です。SEVENはその仲人です。
戸村 昨年12月に、栃木県の障がい者就労支援施設と一般企業を結びつけて雇用を生み出す事業を行っている会社と投資契約を結びました。これが第1号案件で、これまでに5社のマッチングを行っていますが、今後はさらに増えていく見込みです。最初の頃は、ファーストランドの7社のうち、ファイナルラウンドに進むのは1、2社でしたが、今では6割近くが進んでいます。それだけ有望な企業が集まってきています。
チャットワーク以上の上場企業育成を目指す
―― 出口の目標はどのあたりにおいているのですか。
山本 これもやはり7にこだわって、M&Aなら70億円の買収、IPOの場合、時価総額700億円以上の上場を目指します。チャットワークが上場した時は550億円でしたから、それ以上の会社に育てたいというのが僕の次のミッションです。
それと、シードのような早い段階での投資は、成功するのは100分の1でもリターンは取れるというのが一般的です。でも僕は、SEVENでマッチングしたスタートアップを全部成功させたいと思っています。もちろん、100%は無理でしょうが、それでも70%ぐらいを成功させる。そのために、毎年7社上場させるという目標を立てています。
同時にエンジェル投資家を育てていきたい。出資をするだけでなく、出資先のスタートアップに関与して、上場までもっていく。これを僕はパワーエンジェル投資家と名付けました。日本全国にパワーエンジェル投資家を増やしていく。
SEVENを通じて、そのノウハウを学ぶことができれば、次は自分で見つけた若手起業家を育てていく。SEVENだけでやれることに限界はあっても、そうやってパワーエンジェル投資家が増えていけば、日本のスタートアップが育つ可能性がより大きくなります。
戸村 僕の会社(ハックジャパン)の使命は、「周りの人から幸せに」というものです。これはチャットワークの使命のひとつでもあるのですが、SEVENでも同じように考えています。SEVENを利用することで、その周りの人たちが人・物・金・情報を手にいれることができるような仕組みをつくっていきたい。
先ほど言った、各都道府県との連携もその一環です。地方のスタートアップで、これまで上場なんか考えてこなかった会社でもセブンを知ることで新しい可能性が生まれるかもしれません。日本中でスタートアップが誕生し、そこに投資する人が増えてくれば、ベンチャー企業が社会に与えるインパクトが今以上に大きくなります。そしてやがてはその中から日本経済を牽引する企業も生まれてくる。そうなる日がくることを信じています。
戸村 光(とむら・ひかる)――1994年生まれ。大阪府出身。高校卒業後の2013年に渡米し、14年スタートアップ企業とインターンシップ希望の留学生をつなぐ「シリバレシップ」というサービスを開始し、hackjpn(ハックジャパン)を起業。その後、未上場企業の資金調達、M&A、投資家の評価といった情報を会員向けに提供する「datavase.io」をリリース。一般向けには公開されていない企業や投資家に関する豊富なデータを保有し、独自の分析に活用している。