経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

コーポレート・ガバナンスの観点から見た反社チェックの重要性

対談企画 反社会的勢力と企業経営(第2回)牛島信(弁護士)

企業経営におけるコンプライアンス重視の流れが強まる中、反社会的勢力とのかかわりに対する世間の目も厳しくなっている。対応を誤れば、事業の存続を脅かす大きなリスクになりかねない。最善策はそもそも関係を持たないことだが、一目で暴力団と分かるようなケースは減っており、ビジネスの取引を装って企業に食い込もうとする反社勢力は引き続き暗躍している。本対談企画では、独自のデータベースを駆使して反社チェックを専門に行うリスクプロの小板橋仁社長をホストに、企業経営における反社対策の現状とその重要性を議論する。(モデレーター:吉田浩・経済界ウェブ編集長)

対談ゲストプロフィール

牛島信(うしじま・しん) 1949年生まれ。東京大学法学部卒業後、東京地検検事、広島地検検事を経て弁護士に。牛島総合法律事務所代表として、多くのM&Aやコーポレート・ガバナンス関連の案件を手掛ける。97年『株主総会』(幻冬舎)で作家デビュー。この他、『株主代表訴訟』『買収者(アクワイアラー)』『少数株主』等、企業社会を舞台にした多くの作品がある。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)理事長。上場会社など4社の社外役員を務めている。

企業の反社への対応が本格化した時期

―― 今回は、牛島先生にCGネットの理事長や複数企業の社外取締役を務められている視点からいろいろお話をお聞きしたいと思います。まず、1992年に施行された暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)によって、企業側の反社会的勢力に対する意識変化はどの程度ありましたか。

牛島 暴対法で、企業の姿勢が大きく変わったわけではないですね。私自身が変化をひしひしと感じたのは、もっと後です。金融機関に暴力団絡みの口座がたくさんあったことが判明して問題になったとき。

小板橋 2013年にみずほ銀行がオリコの提携商品を使って行った、暴力団への融資事件のことでしょうか。

牛島 そうです。そこをきっかけに他の金融機関にも調査が入りました。私の感覚では、今は状況が全く変わって、反社会的勢力への対応は企業として当たり前になっています。

 リスクプロさんの仕事が面白いと思ったのは、ISS(議決権行使助言会社)のような存在と同じく、企業にとって必要なプロ集団の1つだというところです。

小板橋 ネット検索の結果をそのまま反社チェックとするのではなく、われわれのように検索結果からさらに深堀りをする調査会社というのは実はあまりないんです。また、一般的に、反社チェックは調査結果を〇か×かだけで判断しますが、われわれはいわゆるグレーゾーンの情報も調査して依頼者にお伝えするスタンスを取っています。

リスクプロ
反社チェックの深堀り調査を得意とするリスクプロの小板橋社長

表面的な調査では見抜けない反社

牛島 反社かどうかの判断は、今はすごく難しい。警察は反社に関するデータを持っていますが、それを外部の者が直接見ることはできません。だから、大きな金融機関などは自分たちの機関を持って調査している。

小板橋 金融機関の持つ調査機関と、われわれのような第三者機関はまた意味合いが変わります。

牛島 どう違うのでしょうか。

小板橋 まず、取引相手だけに縛られず、取引相手の広範にかかわる調査するところですね。たとえばある人の名前をデータベースで検索して何も出てこなかったとしても、さまざまな情報を組み合わせると、過去に犯罪歴やネガティブ情報があるのが分かったりします。会社については、会社にまつわるサービスや商品といった様々な情報も調べます。単純に検索するだけでなく、いろんな角度から調べると見えてくるものがあるんです。

牛島 検索は基本的にgoogleで行うのですか?

小板橋 googleも使いますが、そのほかに有料データベースをはじめ、これまでの調査で蓄積した独自のデータベースから、独自の検索システムを使って調査を行っています。また、登記簿に記載された住所に行って、実際に現地に行ったりもします。現地に行くことによって判明した情報や商業登記簿謄本や閉鎖謄本を取得して得られた旧商号や役員の情報を全部調べると、昔に違法行為を行っていたとか、そんなこともありますね。

取締役としての善管注意義務にも影響

―― 弁護士の個人的なルートで警察情報が取れたりするんでしょうか?

牛島 それは相当限られているとは思いますが、民暴専門の弁護士であれば自分のデータベースを持っているでしょうし、いろいろなことをご存じだと思います。ただ、警察情報にも挙がっていない人たちについて、本当に反社と決めつけられるかという部分が難しい。たとえば暴力団の準構成員以下の人物などについて「怪しい」とは言えるかもしれませんが、反社と断定するのはなかなか難しいのではないかと思います。

 今回の対談に臨むにあたり、思い出したのが富士通の野副州旦社長が解任された件です(※注)。野副氏の解任理由の一つに反社との付き合いを指摘されたことがありましたが、私自身が社外取締役としてその問題にアプローチするとすれば、会社がどの程度調べていれば善管注意義務を果たしていることになるかという部分です。その意味でリスクプロさんの事業に将来性があると思うのは、会社と利害関係がない第三者からの情報だからこそバリューが高いと思うからです。会社として、そうした情報を取るのが当たり前だというふうになれば、積極的に取りに行かなければなりません。

小板橋 世の中がそうなっていく予感はあります。あとは調査会社がいくつかあるので、その中からわれわれを選んでいただかなければなりません。

牛島 個人の銀行口座も調べようと思えば調べられるようです。今はマネーロンダリングの問題もあるのでそこの管理は一段と厳しくなっています。そうして、いろんな規制ができてくるということは、取締役としての善管注意義務の問題が問われやすいということでもあります。その際に、第三者機関に頼んで報告を貰うというケースが将来的に増えてくるかもしれないですね。

複数企業の社外取締役を務める牛島氏は、反社チェックが取締役の善管注意義務に関わってくる可能性を指摘する

反社との関りに敏感になってきた日本企業

小板橋 社外取締役の立場から見て、今の日本企業はそこまで神経質になっていない感じですか?

牛島 いえ、すごく神経質にはなっていて、調査結果がグレーであれば、大半が付き合いはダメということになるでしょう。「火のないところに煙は立たない」という態度は調査の対象になった人には気の毒かもしれないけれど、基本的にそれが当たり前だと思っています。

 富士通の件にしても、決定的な証拠があったわけではないが、会社としてのレピュテーションリスクを避けるためには辞めさせざるを得なかった、ということでしょう。ただ、解任の手続きが取締役会ではなかったという部分で、今から見れば不足があったかもしれません。

小板橋 われわれの顧客も、過去に比べると反社との付き合いには神経質になっています。事件になっていなくても、過去の経歴がある日突然、週刊誌の記事になるようなことも多いので、反社チェックはリアルタイムで徹底的にやるほうがいいと思います。

牛島 たとえば昔、暴走族で鳴らした芸能人が、人気が上がれば上がるほど、そのことにスポットが当たるようなものですね。つまり、反社チェックもある時点で満足していたらダメで、次の瞬間にはまた次の課題が待っている。社外取締役としては、特に会社で偉くなる方に関しては、反社との関りが公になる事案があれば徹底的に洗い出さなければいけないという態度を取るでしょうね。そうでなければ人々が納得しません。

小板橋 M&Aで会社の中身がガラリと変わってしまうこともあります。

牛島 反社にとってみれば、M&Aによってそれまでの会社の信用を利用できるということですから。今後はデューデリジェンスの一環として、弁護士にも反社チェック関連でいろいろな仕事が来るのではないかと思います。法人格というのはいくらでも作れてしまうので、何年も前からある登記簿はそれだけで価値があるということです。

反社チェックを社内だけで行う問題点

小板橋 取締役会で反社との取引について議題に上がることはなかったですか?

牛島 私の経験から言えば、取締役会で話す必要もないほどに社長が気を遣っているケースがほとんどです。たとえば、反社がらみのこんな問題がありましたという報告があがると、その問題については既に調査済みというケースがほとんどでした。ただ、リスクプロさんのような第三者機関を使うのではなく、社内機関か弁護士を使った調査が多いですね。

小板橋 ただ、やはり社内で調査すると、恣意的な判断になってしまう恐れがあるのも事実です。営業出身の役員が反社チェック担当を呼び出して、調査対象の会社がブラックではないと報告しろと圧力をかけて、後に事件になったケースもあります。そこはやはり第三者機関の目が必要だと思います。

牛島 社内の派閥闘争に利用されることも考えられるわけで、たとえば対立する派閥の長が反社と付き合いがあると噂を流して追い落としを謀ることもあり得ます。そうしたときに攻撃された側はもちろん弁護士に相談しても良いでしょうし、リスクプロさんのような機関に事実を証明してもらうこともできるわけです。

―― △がついた企業についてはその後、後追い調査もするのでしょうか。

小板橋 調査結果を何に使うか、ということで変わりますね。たとえば第三者割当増資の引き受け手を調べるような場合は、財務当局から反社チェックを行うよう指示されると思いますが、そうした場合だと△が付いたら基本的にアウトです。日常の取引先についての調査だと、どの程度の規模の取引かとか、内容によっても変わります。

牛島 取引先の人が逮捕されたとして、どういう立場の方が捕まったのか、通勤途中だったのか休みの日だったのかなど、さまざまなファクトによっても変わってくるのでしょう。ただ弁護士の立場から見ると、対象者の人権にも配慮しなければならないという部分は意識することになると思います。

反社チェックでは第三者機関からの情報価値が高まる

―― リスクプロは調査の費用が非常に低く、基本的な調査だけなら1万円に抑えられるのも特徴です。

牛島 1万円でどんなことができるのですか?興味ありますね。

小板橋 先ほど申し上げた、データからの調査報告書を作ります。ただ依頼者からもう少し詳しい調査をお願いされたときは、追加料金をいただいてさらに深堀り調査を行います。通常の場合は、名刺一枚の情報から会社の謄本を取得して役員を調べて、続いて関連会社などもチェックします。大きな案件の場合は、対象会社だけでなく、関連会社や関連会社の役員にまで広範に調査を行い、さらに出張して現地に行くので、10万~30万円程度かかる感じです。ただし、調査の範囲や項目の量によって料金が変動するので、あくまで参考値です。

牛島 企業の情報収集・分析を手掛ける会社としては米国のクロールが有名ですが、第三者情報の価値を重視する流れは日本でも起きてくる気がします。それが蓄積していくと、単にグレーという判断だけでなく、それをもう少し階層分けして具体的な提案ができるようになるのではないでしょうか。法律の世界では判例の蓄積と言いますが、それができるとさらに世の中のためになる事業になると思います。

小板橋 貴重なご意見ありがとうございます。

(※注)2009年9月、富士通社長だった野副州旦氏が病気療養を理由に辞任したが、後に秋草直之相談役、間塚道義会長らをはじめとする幹部数名から密室で辞任を迫られたと野副氏が暴露。野副氏は子会社のニフティ売却を投資ファンドの仲介で進めようとしていたが、この投資ファンドの背後に反社会的勢力がいることが退任を迫られた理由の1つとされた。だが、同ファンドと反社会的勢力との関係を示す証拠は、結局提示されなかった。

リスクプロとは 30年以上に渡ってマーケティングリサーチに係わる数多の実績を培ってきた市場調査会社と、10年以上に渡って反社会的勢力調査に係わる数万件以上の実績を培ってきた信用調査会社の協力を得て設立。検索結果ではなく調査結果を提供することで、企業の反社会的勢力との取引撲滅を担うための第三者専門機関として活動している。URL: https://www.riskpro.co.jp/

対談ホストプロフィール

小板橋仁(こいたばし・ひとし) 1957年生まれ。福島県出身。学習院大学法学部を経て80年ときわ相互銀行(現東日本銀行)に入行。本店営業部融資課長、審査副部長、支店長(東北沢、浜松町、新宿)、執行役員本店営業部長、東日本ビジネスサービス代表取締役社長を経て、19年リスクプロ代表取締役に就任。本店営業部融資課長時代に、数多くの不振先企業、問題先企業の回収実績を残し、審査部副部長時代には、反社会的勢力の排除に向けた取り組みの陣頭指揮を執り、その後、その実務経験により培った知見とネットワークを生かしている。