新型コロナの影響で多くのイベントが中止や延期に追い込まれ、会社の理念や経営者の考えを伝える機会が減少している。また、リモートワークの浸透によって、社員の一体感が薄れることを危惧する声も聞こえてくる。ライヴスがリリースした「TSUKURIBA(ツクリバ)」は、そんな課題を抱える企業と日本が誇る伝統工芸を結び付ける新たなサービスだ。社長の清家貴氏は「オリジナリティ溢れるモノづくりによって、ブランディングや社員の士気向上に役立ててほしい」と提案する。取材・文=吉田浩
職人の技術でオリジナルグッズをつくる「TSUKURIBA」
工芸品で伝える経営者の想い
「モノに想いが宿ると言えばいいんでしょうか、職人が貰い手のことを考えながら細部にこだわってつくるので、他にはない特別な品が出来上がるんです」
こう語るのはライヴス社長の清家貴氏。同社は今年1月、全国の工房・工芸作家とのネットワークを用いて、フルオーダーメイドでグッズ制作を手掛けるプラットフォーム「TSUKURIBA」をリリースした。個人や企業が記念品やノベルティ、顧客向けギフトの制作などに、日本が誇る伝統工芸の技術を生かすことができるサービスだ。
コンセプトは「買うから、つくるへ。」――大量生産品をマスマーケットで売るのではなく、「必要なものを、必要なぶんだけ、必要とする人に」届けることを目指している。発注は小ロットから可能で、商品企画、制作、生産管理、納品まで一気通貫のサービスでありながら、既製品を購入するのと同程度の料金でつくれるという点も特徴だ。
「今は特に、新型コロナの影響で周年パーティなど人が集まるイベントを企業が開けなくなっています。取引先や社員などに経営者が感謝の気持ちを伝える手段として、TSUKURIBAをぜひ活用していただければと思います」
企業理念や経営者の想いを、ステークホルダーに伝える機会が減っている。そんな状況だからこそ、想いのこもったオリジナルグッズを制作することの価値を清家氏は強調する。
サービスを支える一流のプロデューサーと職人集団
TSUKURIBAを支えるのが、ショップ展開やモノづくりの分野で豊富な経験を有する外部プロデューサーたちだ。現在名を連ねているのは、ジョージクリエイティブカンパニー社長の天野譲滋氏、ヴィーナス・スプリング社長の鵜野澤啓祐氏、UMENODESIGN社長の梅野聡氏、和える社長の矢島里佳氏、建築家・プロダクトデザイナーのYang Hen Chen氏の5人。彼らが顧客から持ち込まれたアイデアをもとに製品企画、デザイン考案などを請け負い、全国各地のモノづくり事業者の中から選んだ職人とコラボレーションして形にしていく仕組みとなっている。
一方、制作を手掛ける職人集団も精鋭ぞろいだ。徳島県の藍染、東京都の江戸木目込人形、京都府の京焼・清水焼、愛知県の刺し子織り、茨城県の笠間焼、石川県の山中漆器・木地師、群馬県の硝子製品、東京都の東京染小紋、等々、全国各地の工房から協力を得られる体制を敷いている。
顧客から持ち込まれるアイデアが漠然としたものでも、これら一流のプロデューサーと職人たちによって「世界にひとつしかない製品」を作り出せるのがTSUKURIBAの魅力だ。
TSUKURIBAはどのようにして生まれたのか
工芸職人と企業とのコラボで生まれるもの
TSUKURIBAの原点となったのが、2007年に東京の表参道に設立されたジャパンデザインのセレクトショップ「Rin」。経済産業省の支援の下、デザインの要素を加味した全国の工芸品が一堂に会する場として設立され、個人の顧客が気に入った製品を購入したり、法人のバイヤーなどが商品を発掘したりする場として好評を博した。今でこそこうした場は珍しくないが、地方の伝統工芸品を広く世に出す契機となった施設だ。
その運営に加わった経験が、ライヴスの貴重な財産になっている。当時、700以上の工芸品生産者が会員として加盟し、その形態も個人から中小規模のメーカーまでさまざま。この時に作り上げた職人たちとのネットワークが、TSUKURIBAの土台となった。
「Rinを核に、ジャパンデザインの記念品やセールスプロモーション用の製品を企業に提案して販路拡大に取り組みました。その延長線上にあるのがTSUKURIBAなんです」と清家氏は説明する。
工芸品との関りを深めていく中で、興味深い事例も生まれた。例えば、富山県高岡市にあるすず製品メーカーの能作は2017年、「ファイナルファンタジー」で有名なゲームメーカーのスクエアエニックスと協業。「ファイナルファンタジー×NOSAKU」と称してタンブラーや小皿などの限定品を制作し、知名度を大きく高めることに成功した。
清家氏が法人向け需要の可能性を感じたもう1つの事例が、『ポケットモンスター』シリーズなどのゲーム開発を手掛けるゲームフリークと石川県の輪島塗職人とのコラボだ。会社設立30周年を控えたゲームフリークでは、記念品として輪島塗で味噌汁椀を制作することを決定。出来上がった製品は社員や取引先などから非常に好評で、毎日の生活の中でずっと使える、特別な一品になったという。
「好評だった理由の1つは、デジタルなゲームの世界に、手作りの工芸品というアナログな要素を入れることで、新たなクリエイティブの可能性を感じられたことだと思っています。特に他と違うことをやりたいという欲求が強い会社にとっては、インナーインセンティブの向上につながるのではないでしょうか」と清家氏は言う。
地方の工房が抱える課題
法人需要の開拓は、地方の工芸品メーカーや工房にも利益をもたらす。
ライヴスはこれまで地方の工芸品メーカーの商品企画や販路開拓などを通じて、地域振興を支援する事業に取り組んできた。その中で清家氏が直面してきたのが、メーカーや工房が抱える課題だ。
「作り手は今や土産物屋や百貨店に商品を卸したり、個人向けに小売りしたりするだけだと、商売が成り立たなくなっています。一方で、消費者に飽きられないために新しい商品を作り続ける必要があり、常に過剰在庫のリスクを抱えている状態です」
全国各地を回れば、それぞれの地域で長く愛されてきた伝統工芸品に触れることができる。知名度は低くともデザインや品質で一級の製品は全国に数多く存在する。しかし、ブランディングに成功している作り手は極わずかで、多くのメーカーや工房は、地方経済の衰退とともに厳しい状況に追い込まれている。
TSUKURIBAで目指すのは、こうした埋もれた技術を世に出すことで日本のモノづくり文化を身近なものにしていくとともに、新たな販路開拓で作り手をサポートすることだ。
「法人からある程度まとまった量の仕事が来れば、職人さんたちは仕事が読めるので安心できます。販売が苦手な人たちも多いのですが、われわれが支援することで、本来の仕事である“作ること“”に特化できるというメリットもあります」
職人の想いという価値
TSUKURIBAを活用した商談は既に動き出している。
例えば、直近で手掛けたのは、神奈川県の私立小学校向けの案件で、例年は百貨店などから購入していた卒業記念品の制作を、伝統工芸によるオーダーメイドで手掛けることになった。卒業生一人ひとりに対して職人からのメッセージを付けるなど、既製品にはない想いが詰まった製品になるという。
「モノを貰うこと自体も嬉しいのですが、職人が貰い手のことを考えながら、こだわりを持ってつくるという点に最も価値があると思っています」
今後はサービスのさらなるブラッシュアップを図ると共に、将来的には海外展開も考えていると清家氏は語る。
「日本の伝統工芸の価値を高く評価する外国人は多い。たとえば海外に進出している日系企業が、現地社員のためにオリジナルグッズを制作するといった使い方もできると思います」
記念品やノベルティの制作は、企業の売り上げに直接的に影響するものではない。しかし、会社の姿勢を社内外に訴求するものとしても、地方振興の観点からも、TSUKURIBAが提示する世界観は興味深い。
清家貴・ライヴス社長プロフィール