経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

メガネスーパーを再建させた社長の「逆境への向き合い方」―星﨑尚彦(ビジョナリーホールディングス社長)

インタビュー

メガネチェーンの老舗であるメガネスーパーは、10年ほど前に危急存亡の危機に陥った。そこに社長として派遣された星﨑尚彦氏は、無料だったレンズを有料にするなどの逆張り商法で、経営再建に成功した。経営者として常に危機に直面してきた星﨑社長の逆境乗り切り法とは――。文=関 慎夫 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年5月号より加筆・転載)

星﨑尚彦・ビジョナリーホールディングス社長プロフィール

星﨑尚彦
(ほしざき・なおひこ)1966年生まれ。早稲田大学卒業後、三井物産入社。スイスIMDビジネススクールでMBA取得。三井物産を退社後、スイス「フラー・ジャコー」など外資の日本法人トップを務めたほか、アパレルメーカーの「クレッジ」を再建。2013年メガネスーパー社長。17年持ち株会社のビジョナリーホールディングスの社長を兼務。

メガネスーパーの現状とコロナ対策

コロナで上がった店舗の運営効率

―― 1月に2度目の緊急事態宣言が発令されました。昨年の1度目の時は、メガネスーパーの来店客も大きく減ったそうですが、今回はどうですか。

星﨑 昨年4、5月よりは10%ほどいいですね。特に1月後半からは感染者数が減ったこともあって、昨年よりも人出が多くなっています。ただし、これで暖かくなって、人の気持ちが緩んでくると、4月以降、第4波がくる可能性があると見ています。当社は4月決算ですが、そうなると4月の売り上げはあまり期待できません。そこで3月いっぱいが稼ぎ時だと、発破をかけているところです。それでもし第4波がこなかったら、ラッキーですしね。

 ですから今は、DMや、チラシのポスティング、テレビコマーシャル、さらにはフォローコールなどを徹底的にやっています。それがうまくいけば、今期は利益的には、前年比100%を維持できそうです。

 ただし、同じ利益でも、以前より随分と筋肉質になりました。新型コロナが流行した昨年3月から、全国の400店舗のうち15%にあたる70店舗を閉めました。営業時間も、午前10時半から午後8時までが多かったのですが、これを午前11時から午後7時までに短縮、これにより残業代もなくなりましたから、コストは大きく下がりました。さらにそれまでの週休2日を雇用調整助成金を利用して週休3日にしています。ですから運営効率は、ものすごく良くなっています。

―― 残業代がなくなると社員は辛いんじゃないですか。

星﨑 1人2万~3万円ですけれど、給料が20万円台の人にとっては大きいと思います。そこで、今までは、辞めたいという社員はできるかぎり引き留めていましたが、それをやめました。もっといいところに行けるなら、それはその人にとっても幸せなことですから。私は今まで、社員が辞めない会社がいい会社だと思っていました。でも、不満を抱えながら働くことは、その人にとっては決していいことではない。他で働くことができるなら、それも選択肢です。それをコロナによって学びました。

 ただし、コストカットありきではありません。優秀な人の給料は逆に上げていますし、新卒採用も例年どおり行っています。つまり、店舗も人材も、コロナによって新陳代謝が進みました。

 今後、コロナが収束しても、元には戻しません。次に別なパンデミックが起きないとも限りません。それに備えるには常日頃から効率経営をするしかありません。社員に対しても、残業代に頼らない生活をしよう。それよりも自分たちの実力を上げて給料を上げようというメッセージを伝えています。

コスト削減の一方で増やした広告宣伝費

―― ちょうど1年前に、「人との接触を7割減らしましょう」と社会活動の自粛が始まりました。店舗販売を中心とする小売業として、最初、何を考えました?

星﨑 まず思ったのは、小売業として成り立つのかどうか。仮に店を全部閉めたら、10カ月後にキャッシュが尽きることも分かっていましたし、それは社員にも伝えました。

 その一方で、私たちはメガネやコンタクトレンズ、補聴器を販売しています。これがなければ、生活できない人がたくさんいる。その意味でソーシャルワーカーに近い仕事です。ならば私たちは営業を続けるべきだと考えました。ただし、社員の中にはお年寄りと暮らしている人もいますから、出社したくないなら、それは自由だということを決めて、店を開き続けました。

 この時、社員に言ったのは、ホモサピエンスが滅びる時にはわれわれも死ぬ。けれどホモサピエンスが生き残るなら、私たちも生き残らなければならない。そのためには給料も払わなきゃ駄目だし、家賃も払わなきゃ駄目だと。だから、会社としてはあらゆる戦略を取るから、みんなも現場で頑張ってくれということでした。

 そこで店舗の統廃合や営業時間の短縮のほかにも、リモート検査や移動式検査車両の導入など、感染に気をつけながら営業を行う一方で、先ほど言ったように売り上げを上げるためにチラシの配布を以前より増やしています。

 4、5月頃に気づいたのですが、自宅に来るチラシがどんどん減ってきた。テレビコマーシャルも空きが出ているという話を聞きました。企業がコスト削減のため、宣伝費を絞っていたのです。でもこれはチャンスかもしれない。同じようにチラシをまいても、ほかがなければ目立ちます。そこで以前は2カ月に1度だけだったのを1カ月に1回、あるいは2回にすると、以前より明らかにリターンがいい。1円単位で徹底的にコストを削る一方で、マーケティングコストだけは増やしていきました。

―― 意外なところにチャンスが転がっているんですね。

星﨑 ですから、コロナはあるべきではなかったし、今後もパンデミックは来ないほうがいいに決まっていますが、ビジネスマンとしては、この1年間ですごく成長させてもらいました。

星﨑尚彦
「自分たちはソーシャルワーカーに近い仕事」と語る星﨑社長

星﨑尚彦社長の逆境に向き合う心構えとは

毎日、家を出る時は戦に出かける気持ちで

―― 星﨑さんは、8年前に債務超過だったメガネスーパーに乗り込んで、再建に成功しています。それ以前も、業績の厳しい会社に入っては、すべて結果を残しています。そうした経験に比べても、厳しい局面だったということですね。

星﨑 今までもかなりの修羅場をくぐり抜けて、いろいろな場面で戦ってきたつもりでしたが、まだまだ思考が及ばないところがありました。例えばこれまでは聖域と思っていなかったものが、いつの間にか聖域になっていたところもあります。残業や営業時間はその一例です。そしてその聖域に手を付けようとすると、みんな反対します。「絶対そんなことはできません」という。でもやってみると、案外うまくいく。改めてそのころを学びました。

―― 逆境にあって、心が折れたりすることはないのですか。

星﨑 言い方が不謹慎かもしれませんが、厳しい状況になればなるほど、ドキドキするんですよ。逆境のほうがエネルギーが湧いてくるタイプのようですね。その意味では平時より非常時向きなのかもしれません。

―― 危機的状況にある時、まず何を考えますか。

星﨑 こう見えても私は、石橋を叩いても渡らないくらいすごく慎重です。ですから最初は悪いことばかり、ワーストケースばかり考えます。その上で、考えて、考えて、考えた結果、それでもやる価値がある、チャレンジする価値があると思えば、「じゃあ、やろう」となるわけです。

 チャレンジというのは1つの縁です。自分で選んでチャレンジするだけでなく、なんらかのタイミングで仕事が回ってくることもある。その時に私は常に逃げないと決めています。逃げるといってもいろんな逃げ方があります。目の前の難事から逃げる。あるいは自分のミスを他人のせいにする。今なら、業績悪化をすべてコロナのせいにして、自分の経営手法には問題ないと考える。これも逃げです。そしてビジネスマンというのは一度逃げてしまうと逃げ癖がついてしまう。それは嫌ですね。

 ですから、毎日、「この家を出るのはこれが最後かもしれない」と思って出掛けます。武士のごとく、刀を持って戦場に向かう気持ちです。

逆境においてこそ日々の覚悟が試される

―― コロナは当面、収束しそうにありません。逃げずに戦い続けるのは容易なことではありません。

星﨑 でも、人として生まれてきて、自分が社会や仲間に必要とされるってうれしいじゃないですか。ですから、その自己満足感も含めて、必要とされているなら行かねばならぬ、と思っています。

―― 社員に対しても、常に戦場に出るつもりで家を出て来い、と言っているのですか。

星﨑 似たようなことは言っています。ですから社員からしたら厳しいと思います。そんなに怒るわけではありませんが、社員には緊張感を持って、自分の頭で考えてほしい。

 よく言うのが「あなたが最後の判断者でもやりますか?」という問い掛けです。上司がOKを出したから、あるいは予算にあるからこの仕事をやる、というのでは、下の人間はどんどん馬鹿になってしまいます。あるいは稟議というシステムがあると、稟議を通すことが目的になってしまう。これでは本質からずれる可能性があります。

 そうではなく、一人一人が会社のためにやるかやらないかを判断する。上司の指示がなくても会社のためだと思えばファクトをもって主張し続ける。そういう気構えで仕事をしていってほしいですね。

 それを毎日続けても、そんなに周囲の評価は変わらないかもしれない。でもこれが5年、10年、20年たつと、心構えの違いで、人としても、ビジネスマンとしても大きな差がついてくる。いわゆる〝人間力〟や〝気迫〟がついてくる。逆境においてこそ、日々のそういう覚悟が試されていると思います。