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平沢勝栄・復興大臣が語る「被災地復興における政治、行政の責任」

インタビュー

東日本大震災から10年。この節目に復興大臣・福島原発事故再生総括担当大臣の任に就いた意味は大きい。初入閣の平沢勝栄復興相に突き付けられているのは、これまでの復興政策の反省と次の10年に向けてレールを敷くという大仕事だ。被災地では、道路や公園、復興住宅などのハードは整いつつあるが、一方でコミュニティが壊れ、住民の心の問題もある。また、復興バブルが冷え込んだところへ新型コロナが重なって経済の落ち込みにも直面している。被災地を離れる人も多く、人口減の中でどんな再生を目指すのか。(『経済界』2021年5月号より加筆・転載)

平沢勝栄氏プロフィール

平沢勝栄
(ひらさわ・かつえい)1945年岐阜県生まれ。64年福島高校卒業後、東京大学法学部入学。68年警察庁入庁。71年米デューク大学大学院修了。80年在イギリス日本国大使館一等書記官。後藤田正晴内閣官房長官秘書官、警視庁防犯部長、岡山県警本部長、警察庁長官官房審議官、防衛庁長官官房審議官などを経て、96年衆議院議員初当選。当選8回、自民党内でさまざまな役職に就いた後、2020年9月、菅義偉内閣で復興大臣・福島原発事故再生総括担当大臣就任。

東日本大震災から10年経った被災地の現状

復興とは持続可能型の街を創り出すこと

―― 10年という節目の復興大臣としての務めをどう考えるか。

平沢 私は福島の出身です。地震が起きた後、すぐ宮城、岩手、沿岸部などに行って被災の状況を見ました。まさに地域が完全に壊滅した状態でした。しかし、地域の方々の大変なご尽力や世界中のご支援もあって、やっとここまできたと思います。10年で津波被害の地域に堤防や復興住宅が出来上がってきたことは非常に良かったと思っています。しかし、これに満足しているわけではありません。

―― 次のステージに入ってやるべきことはたくさんある?

平沢 本当の復興っていうのはただ元に戻すことではなく、持続可能型の街と生活を創り出すことです。そういった観点からすると、まだまだやることは山積しているわけで、これからが正念場だと言えます。その時にこのポストに就いたわけで、私としては自分の故郷に対する恩返しもできますし期待に応えていきたいと思っています。多くの方から、特に福島の方からは大変な激励をいただきまして、ありがたいと同時に、非常に責任は重いなと思っています。

被災地にとって人口減少は特に大きな問題

―― この10年を振り返って、被災地への政策についての検証、評価、反省などは?

平沢 完全に壊滅的な状態になっていた街で、道路とか橋とか堤防とかの整備は十分に行われたと思います。ただ、これから社会は大きく変わり、人口もどんどん減って行く。被災地は、今度は人口減で壊滅状態に追い込まれてしまうわけです。ですから人を増やすためにはどうしたらいいのか。そういった観点から街づくりをやっていかないといけない。

 それから異常気象ですよね。次またどんな大災害が起こるか分からない。今後大切なのは、人口減に対する対策と異常気象への対策です。この2つを兼ね備えた街づくりだと思います。

―― 人口減は地域経済にも大きく影響する問題だと思うが。

平沢 大きな課題です。人口減は全国的な問題ではありますが、被災地にとってはとりわけ厳しいわけです。そもそも少子化で人口が減っている上に、復興が待てずに被災地から出て行かれた方もおられる。いくらハードで良い住宅を用意しようが、安全な街にしようが、結局人口は減ったままです。

 一つの理由は、雇用がしっかりしていないことです。雇用をどう確保していくか。これは経済界の皆さんにもお願いしたいんですが、いろいろな形で復興庁もバックアップしていくつもりですので、できるだけ東北に雇用をつくるお手伝いをしてほしいと思います。地域によってはうまくいっていますが、全体的にはまだまだ不十分だと思います。

―― 人口を増やすのはそう簡単なことではない。どんな取り組みを考えているか。

平沢 企業にお願いする以上、政府としてはインフラの整備や住みやすい街づくりをやらなければと思います。雇用の機会をつくっていただいたとしても、働き始めた人たちがその地域に住み続けるには、当然のことながら教育や医療環境などで、住みやすい地域社会ができていないといけません。

 原子力災害被災地域では、移住してきてくださった方には、若干の新生活の準備金などを出すということで、来年度の予算の中に盛り込んでいます。もちろん規制緩和や、税制の優遇措置などのバックアップもやっていかなければ、企業の皆さんもそう簡単には来ていただけません。そうした総合的な環境整備が、これからの復興庁の仕事だろうと思います。

―― 既に具体的に進めているものはあるか。

平沢 今、福島の浜通り地域等において、福島イノベーション・コースト構想がありますが、これに加えて「創造的復興の中核拠点」となる国際教育研究拠点を設立すべく検討を行っています。世界トップレベルの拠点を作ることによって、ぜひ福島に行ってみたい、そこで学びたい、研究したい、ビジネスチャンスがあるんじゃないかといった理由で、企業や個人の方々が全国、世界から集まってくれるような地域をつくろうというのが拠点の目的です。

 今やっているのは水素エネルギーシステム、あるいはロボットなどの研究です。その司令塔のような形で、教育研究機関を創りたいと考えています。さらに、福島のためになるということだけではなく、そこから得られる知見が日本のため、世界のためにならなきゃならない。福島を世界的に知られる、時代を先取りした最先端の場所にしたい。この大きな試みに、これから経済界の方々にも是非、賛同して協力していただければと思っています。

平沢勝栄
「東北にいかに雇用を作るかが課題」と語る平沢大臣

風評被害対策にどう取り組むか

―― つまり創造的復興の象徴がその国際教育研究拠点だと。

平沢 経済面でもう一つ言わせていただきますと、福島をはじめ東北で採れた農産物、畜産、海産物などに対して、まだ世界の一部で輸入が規制されたりしていて、いわば差別されているんです。

―― 原発事故による風評被害の問題ですね。

平沢 先日、フォーリン・プレスセンターのオンライン講演でも申し上げましたが、いまだに15の国・地域が福島県等の産品に対して差別的な取り扱いをしています。これらは全く科学的な見解に基づいたものではなく一種の偏見や誤解に基づいています。最初は54の国・地域でした。そこから次第に減ってはきましたが、まだ15も残ってるんです。企業からすれば、福島で生産したものを輸出するにあたって差別を受けるんだったら、福島に進出したり福島で事業を始めようとはならないでしょう。

―― 科学的な反証が重要ではないか。

平沢 これまでも科学的にきちんと調査してもらい、IAEAなども大丈夫と言っています。それでもなかなか差別的な取り扱いは治りません。私がフォーリン・プレスセンターで話したときにも、質疑応答で「15カ国の輸入制限は日本政府に対する信頼が欠けているからではないか」「日本政府が第三者を入れてきちんと客観的に検証しなければダメだ」とか言われましたが、実際に第三者を入れてやっているんですよ。だけどなかなか納得してもらえない。しかしこの問題もあと一歩というところまで来ています。

―― その風評被害の理由になっている原発ですが、経産省や環境省にもまたがるが復興庁としてはどう取り組んで行くか。

平沢 原発は、処理水の問題だとかいろいろあります。これは国民のみなさん、特に福島にお住まいのみなさんの理解、協力なくしては一歩も前に進みません。それを抜きにして進めても、途中で必ず挫折します。ともかく理解と協力が得られるように、その努力をしっかりとやることが重要だと思います。

 その際に必要なのは、しっかりと現状について発信していくことだと思います。風評に対しては、正確な情報発信が必要なことから、これに関する復興庁の広報予算を5億円から20億円に増やしました。いろいろな媒体を通して、どうすれば正しい理解をしてもらえるか、協力してもらえるか、しっかり取り組んでいきたいと思います。

被災地に残された課題とこれからの復興庁の在り方とは

問題を検証し教訓を伝承する

―― 10年経過しても復興住宅での孤独死などまだまだ残されたままの課題も多い。

平沢 ご指摘のように心の問題をはじめ、ソフトの問題ではまだまだやらなければならないことがたくさんあります。その一つが地域コミュニティです。ただ住居があれば、そこに住めばいいというのではなくて、そこにあるコミュニティに入って、その一員として初めて元気に楽しく過ごすことができるわけです。

 孤独死の問題とか、震災関連死とか、こうした問題にもしっかり取り組んでいかなければと思います。この10年間、いろいろな問題がクローズアップされました。これらを検証して、教訓やノウハウを伝承していくことも10年の節目における大きな仕事だと思っています。これらに対する取り組みは、近く復興庁のホームページに掲載することにしています。

あらゆることを想定した危機管理の組織を

―― 被災地だけでなく、復興庁そのものの組織の在り方も考えていく必要があるのではないか。

平沢 復興庁は組織の半分の人員が現地に住み、地域の住民や自治体の人と話し合ってさまざまなニーズや問題点を掴んで、それを政策に反映させてきました。被災地の現場の最前線、一番近いところでやってきたわけです。一方で今後は発展的に考えていくことも大事ではないでしょうか。

 復興庁という組織はもともと10年という時限的なものでしたが、さらに10年延びることが決まりました。これまでは調整機関のような役目が多かったんですが、今後は日本の災害や危機管理について、しっかり議論し検討していくことが重要だと思います。

―― よく言われる防災省まで行かなくとも、総理直轄のもっと権限やお金を横串にした危機管理の組織ができるのではないか。

平沢 これからも異常気象が続く可能性があるわけで、それへの対応をどうするか。いろんな事態が想定されるわけで、よく逃げ口上に使われがちな「想定外」を言ってはダメです。あらゆる可能性を考えて「想定内」として取り組んでいくことが政治、行政の責任です。そうだとすれば、そうした中で、この復興庁をどのように持っていくか、しっかり考えていきたいと思います。

―― 日頃から準備をしてこなかったのに「想定外」で片づけてしまうのは問題だ。

平沢 復興庁というのは、特定の一回の大災害で作られた役所です。危機管理の役所を作る動きにはなりません。例えば大臣も官僚も、そのポストにいるのは1年から3年。それに対して大地震などは100年に1回かもしれないし、200年に1回かもしれない。明日くるか100年後か分からない。ですから、どうしても腰を据えた取り組みができません。日本もそろそろ、あらゆることを「想定内」という意識でしっかりとした危機管理の組織をつくらなければならないと思います。

話を聞いて、その危機管理の考え方に共感した。つまり「政治・行政は大災害に対して想定外だったと逃げてはいけない、すべて想定内としてあらゆる可能性を考えて準備すべきだ」という姿勢だ。平沢氏は警察庁出身で危機管理は専門だ。復興庁という東日本大震災に特化した組織を発展させ、その延長線上に「危機管理庁」といった組織改編の流れを作ってほしい。10年目を迎えた東北で2月にも震度6強の地震があった。日本は危機管理体制の構築へ取り組めという警鐘ではないだろうか。(鈴木哲夫)