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世襲を義務付けられた2世が知らないうちに学んだ帝王学―冨澤昌宏(メガネトップ社長)

冨澤昌宏・メガネトップ社長

インタビュー

国内1千店舗の「眼鏡市場」を展開するメガネトップ。2代目社長の冨澤昌宏氏社長は、小学校の卒業文集に「将来はメガネトップの社長となる」と書くほど、後継者であることを自覚をしながら育ってきた。冨澤氏はどのような帝王学を受けてきたのか。そして創業者である父とどう折り合いをつけてきたのか。聞き手=関 慎夫(『経済界』2021年9月号より加筆・転載)

冨澤昌宏・メガネトップ社長プロフィール

冨澤昌宏・メガネトップ社長
(とみざわ・まさひろ)1981年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て2005年メガネトップ入社。06年グループ会社のフィットミー社長、07年メガネトップ常務を経て09年、父・昌三氏(現会長)からバトンを引き継ぎ社長に就任した。

「眼鏡市場」がトップを走る理由

―― コロナ禍の影響はいかがですか。

冨澤 緊急事態宣言などの影響から一時的な売上減少はあるものの、リモートワークが増えたこともあり、PC用のレンズやマスクをしても曇りにくいレンズが人気を集めています。あるいはコンタクトレンズにおける衛生面の不安からメガネで過ごす人も増えています。そういう意味で需要が増えています。

―― 眼鏡市場は、この6月に国内1千店舗を達成しました。JINSやzoffなどSPAの進出により大きく勢力図が変わる中で、トップを走る理由はどこにあるのでしょう。

冨澤 2000年代に入ってからメガネのマーケットは大きく変わりました。その中でトップに立つことができたのは、社名にも込められた、トップに立ちたい、業界1位になりたいという使命感、信念の強さだと思います。マーケットが変わる中、今までのビジネスのやり方ではトップに立つことはできない。そこで新たな業態である眼鏡市場が生まれ、競合店との明確な差別化ができたことが今につながっています。創業者である父(昌三会長)にしてみれば、どうせやるならナンバーワンにならなくてはならないと思っていたようですね。

―― 冨澤さんがメガネトップに入社したのは05年ですが、最初から創業者の後を継ごうと考えていましたか。

冨澤 兄弟構成は姉2人ですが、それぞれ10歳、9歳離れています。やっと生まれた長男ですから、幼い頃から「お前が後を継ぐんだ」と刷り込まれて育ったように思います。小学校の卒業文集には、友達が「サッカー選手になりたい」と書いているのに、私は「メガネトップの社長になる」と書きました。

 ただし大学卒業後は、父の勧めもあり、マーケティングや広告の勉強をするために広告代理店に入社しましたが、1年10カ月後にメガネトップに入っています。

冨澤昌宏氏が28歳で座った「社長の椅子」

―― 小さい頃から帝王学を叩きこまれたりしましたか。

冨澤 礼儀など、人として当たり前のことは教わりましたが、それ以外のことは特になかったですね。父は家では仕事の話はしませんでしたし、帰ってきても寝転んでテレビを見ている。仕事人には見えませんでした。ただ、正月に社員があいさつに来た時には一緒に食事をしていましたし、私が小学生の時にあったメガネトップの15周年祭には私も参加し、社員の方々と触れ合っています。高校時代は1年に一度開かれる決起大会に呼ばれるなどしてますから、そうやって教育していたのかもされれません。

―― 05年に入社、その4年後に社長に就任しましたが、その時点で28歳。早すぎると思いませんでしたか。

冨澤 社長になるのはまだ先だと思っていましたし、何より社長になって何をやっていいかも分かりませんでした。4年間、父がいて自分がいるという環境で仕事をしてきましたし、社長といっても肩書だけ、父との関係は変わらないというのが正直なところでした。周りも同じように受け止めていたと思います。

―― そこからどうやって社長としての存在感を増してきたのですか。

冨澤 社長になってからというより、入社してからずっと意識していたのは、自分を認めてもらうということでした。「父親は素晴らしいけれど息子はダメだね」とは言われたくない。社員に安心して働いてもらうためには、自分が信頼できる人間にならなければならない。そのためにはどうあるべきか。ずっとそう考えてきました。

違う意見を言ってくれる存在のありがたさ

―― 会長と社長との間で意見が食い違うこともあるでしょう。

冨澤 もちろんあります。そのうえで私の意見を聞いてくれることもありますし、聞いてくれないこともあります。聞いてくれない時はストレスがたまります。そういう時は、父が築いた会社だから仕方ないというふうに自分を説得しながら物事を進めていました。そういうことを繰り返しながら思うようになったのは、自分1人だけで判断していては、父のような考え方は出てこなかったということです。むしろ自分と違う価値観を持って意見してくれる人がいてくれることがありがたい、と思えるようになりました。

 それに意思決定が正しかったかどうかは、結果が出てみなければ分かりません。もし悪かったとすれば、それを次の経験値として生かしていければいい。そう考えています。

―― 今でも会長に比べて自分に足りないところはありますか。

冨澤 私の長所でもあり短所でもあるのですが、人の意見を聞くところに重きを置いて活動してきました。でも人の意見を聞きすぎることは逆にデメリットになることもあります。人の意見を尊重したために強い発信ができなかったり、中途半端にもなりがちです。会長のすごいのは、少ない情報の中からでも、オーナー創業者ならではの嗅覚により意思決定し、強い発信ができる。そのスピード感だったり、決めたことに対する徹底ぶりはすごいものがあります。

―― 会長から受け取った最大の財産とは何でしょう。

冨澤 この環境すべてです。自分が生まれた時には既にメガネトップという会社はありましたし、先ほど言ったように小さい頃から社員と触れ合う機会もつくってもらいました。入社後も、私が働きやすいポジションを用意してもらっています。非常に恵まれていたと思います。

―― 現在、会長と社長の役割分担はどのようになっていますか。

冨澤 会長はよく「俺はあと数年だからな」と言っています。以前は頻繁に会社に来ていましたが、今では会議やアポイントがない限り来ていません。その意味で私を軸に動いています。

 でもこれまでは新店を出すにあたり、会長が必ず下見に行き、そこに出店するかしないかを決めていましたので、その目利きの能力を、今後は私が身に付けていかなければならないと考えています。

―― 会長の時代と社長の時代で経営手法の違いはありますか。

冨澤 会長の時代は成長スピードが速かったため、トップのカリスマ性とリーダーシップで、組織が突き進んでいました。でも今は、1千店の規模になり、社員数も5千人に近づいています。そうなると一つのことをするにしても、合意形成や意見集約を行ったうえで進めなければいけなくなってきます。

―― 時間がかかりすぎると会長から言われたりしませんか。

冨澤 言われたことはあります。もちろん必要な時は、私が一人で意思決定して会社を動かしていきます。でも、今後も会社が成長していくには、強い組織が必要です、そのためには私がすべてを判断するのではなく、社員、幹部、役員一人一人が判断できるようにならなければなりません。時間はかかるかもしれませんが、このやり方で進めていこうと考えています。

眼鏡市場
国内1千店舗を達成した眼鏡市場

ファミリー経営の長所は社員との近さ

―― ところで、社長就任時のメガネトップは東証一部上場企業でしたが、13年にMBOにより上場を廃止しています。なぜですか。

冨澤 メガネトップは12年に業界トップになることができました。既に眼鏡市場は全国に出店していて認知度も相当高くなっていました。お客さまにとって上場企業かどうかは関係ありません。上場のメリットといえば、資金調達と人材採用ですが、採用に関しては業界トップになり知名度が上がったこともあり、いい人材が採用できるようになっていました。資金調達も収益面が改善され不安がなくなっていました。そうなると上場メリットはほとんどない。それに加えて、社長としてIR活動に時間の半分くらいが取られてしまう。

 資金調達に不安はないといっても借り入れ負担は大きくなりますから、社内には慎重意見もありました。でも当時私は、会社の将来のためも次世代の営業組織をつくりたいと考えていました。そのためにもIRに向けていた時間を営業現場に向けたほうが意義があると考え、MBOを決断、最終的にはオーナー企業の強さで、トップが決めたことをそのまま実行できました。

―― 最後に、ファミリー経営の利点を教えてください。

冨澤 経営者と社員が近く、家族のようなコミュニケーションが取れることが強みです。役職の階層でなく、社員それぞれと接点を持つ。そのために仕組みも考えています。

 私はゴルフやフットサルを若い社員と一緒にやっていますし、社内レクリエーションにも参加しています。社長室ではなく、社員と同じ部屋で仕事をしているのもコミュニケーションをとるためです。昔のように社員と家族ぐるみで付き合うというのはできないかもしれませんが、社員それぞれと深い人間関係を築くことはできると思います。

 私はずっとメガネトップは社員の幸せを実現する会社だと言い続けています。企業理念も「関わる皆の幸せを実現し、笑顔を創造します」です。そのためにも従業員満足度の高い会社にしていきたいと考えています。社員がメガネトップに入社してよかったと思える会社を目指しています。