【連載】勝てる! 最強営業組織のつくり方
TORiXの高橋浩一です。今回から勝てる営業組織づくりをテーマに連載を始めます。一般に「営業組織をつくる」というと、「営業で有名なあの会社はこうやっている」など、世の中にすでにある強い営業組織を見本にするパターンが見受けられます。一方で、理想の営業組織をつくるのには時間がかかります。経営者や営業マネージャーが知りたいのは、どういう手順を取れば強い営業組織をつくることができるのか、ではないでしょうか。
コロナ禍で企業経営が様変わりする中、うまくいっている営業組織とうまくいっていない営業組織はどこが違うのか、私自身が経営者や現場の皆さんと話して感じた実践知があります。今回はそれを踏まえ、営業組織づくりの基本となる考え方についてご説明します。(構成=大澤義幸)
高橋浩一氏のプロフィール
営業組織づくりでは「四つ角」を意識せよ
図「『四つ角』の順番に込めた意味」をご覧ください。これはオセロの四つ角を模した、うまくいっている営業組織(右)とうまくいっていない営業組織(左)の図です。いきなり本稿の結論になりますが、勝てる営業組織づくりの柱(あるいは土台)となるのが、この四つ角を、順番通りに押さえることです。この中身について見ていきます。
うまくいかない営業組織は「競争」で疲弊する
まず、うまくいっていない営業組織の特徴として、1つ目に勝ちパターンがありません。特にコロナ禍の今は、お客さまと会えない、展示会などイベントがなくなった、営業アプローチをしても連絡がつながらない、など今までとはビジネスの前提が変わっています。
そうした時に、経営者や営業マネージャーが営業メンバーに対して、「何が何でもアポを取れ」「どうにかして商談にこぎ着けろ」とハッパをかけるわけですが、組織として勝ちパターンの共通認識がない状態では、皆、先の見えない戦いに疲れてしまいます。また、2020年は「コロナを言い訳にするな」というセリフもよく聞かれました。勝つ算段が見えない状態でかけられるプレッシャーは、現場を疲れさせるだけです。
2つ目に、活動の実態が見えません。営業マネージャーもメンバーも活動の実態が見えなければ、「本当に営業をやっているのか」「このやり方でいいのか」と疑心暗鬼に陥ります。
現在は世の中でDXが普及し、営業でもSFAやCRMなど営業プロセスを「見える化」したり、あるいは顧客への営業活動をデータとして蓄積したりするツールが出てきました。
しかし、いくら効率的に、より生産性の高い営業を行うためのツールを導入しても、勝ちパターンに関する共通認識がなければ、かえって足かせになります。「どこに焦点を絞ってマネジメントするのか」が曖昧なままに、「あれもこれも報告せよ」となってしまうと、営業メンバーの入力事項ばかりが増え、そんなに報告するのは面倒だからと必要な情報を上げなくなったり、逆に本来は不要な細かい情報まで上げてしまいます。結果として、「たくさん訪問している営業は売上が上がっている」程度のことしか分からず、そのうちツール自体が使われなくなります。
3つ目に、人が育つ仕組みがありません。コロナ禍で象徴的なのが、新卒入社の社員への研修がまともにできず、その後もリモートワークが導入され、現場での先輩社員のOJTができない、商談の経験値が積めない、若手の成長スピードが上がらない……という声がよく聞かれたことです。これが続くと、営業メンバーの能力差が埋まらず、成果を出せない人は生き残れない組織になります。
これは新卒に限った話ではありませんが、営業組織はOJT以外に人材をトレーニングする教育体制がないところが大半です。「とりあえず」でロールプレイングなどをやってみても、目的が不明確なままだと単なる練習に終わりがちで、営業メンバーは意味がないと心が離れる原因になります。
このような状態になると、経営者や営業マネージャーは「ひたすら目標へのプレッシャーをかけ続ける」ようになります。すると、営業メンバーの報告事項がますます増え、頻繁なミーティングが催され、営業する時間が削られていきます。成果が出づらい組織では、4つ目のコミュニケーションのバランスが悪くなります。
「勝ちパターン」「見える化」「人が育つ仕組み」「コミュニケーションバランス」の4つがない営業組織は、疲弊する「競争」(すなわち、消耗戦)から逃れられません。営業マネージャーがいきなり改革をしようとしても難しいので、改善には手順が必要となります。その順番こそが、勝ちパターンをつくる→活動の実態を「見える化」する→人が育つ仕組みをつくる→コミュニケーションのバランスを整える、です。次から、うまくいっている営業組織について、手順に沿って解説していきます。
うまくいっている営業組織は幸せを「共創」する
①勝ちパターンをつくる
営業組織改革で最初にやるべきは、勝ちパターンをつくることです。この理由として、「どうすれば成果が出るかについての共通認識」がない状態では、営業マネージャーがマイクロマネジメントをしたり、うまくいっていない人の育成が難しくなるからです。営業メンバーがやるべきことにメリハリを付ける必要があります。
多くの会社では、「勝ちパターン」と呼ばれるものが機能していません。どういうことかというと、勝ちパターンが抽象的すぎるのです。例えば、「お客さまと信頼関係をつくれ」「決裁者に会え」などがそうです。営業メンバーは、その程度のことはもちろん理解しています。ただ、頭で分かっていても実行できないから困っているのです。そんなメンバーに「お客さまと信頼関係をつくれ」と繰り返すだけでは、営業組織としてズレが生じてきます。
そこで、まず着手するべきは、勝ちパターンの具体性を上げることです。どのタイミングのどんな行動が最も重要なのか。パソコンを使って何をどうやればいいのか、あるいはお客さまと直接会ってどういうことを話してほしいのかなどを明確にしていきます。
ここで多くの営業組織でありがちな失敗が、「具体的な指示」と「勝ちパターン」をごちゃ混ぜにしてしまうことです。例えば、「会社が期間限定キャンペーンを実施するから、営業メンバーは商談で必ずこのサービスについて紹介してくるように」と号令をかけたとします。すなわち「具体的な指示」です。この方向に偏りすぎてしまうと、営業マネージャーは顧客リストを作成し、紹介状況を逐一報告させるなど表面的な行動管理を始めます。
しかし、勝ちパターンは、全員一律の「具体的な指示」というより、「うまくいかない人へのアドバイス」という位置づけにした方がうまく機能します。勝ちパターンを「具体的な指示」として管理しようとすると、「その勝ちパターンには例外がある」と思うメンバーがちらほら出てきた瞬間に、「それをやることではたして成果が出るのか」という現場の声と「つべこべ言わずに、やるべきことをやりなさい」というマネジメントの衝突が起こりやすくなるからです。
それよりも、「成果が出ずに苦しんでいるなら、ちょうどいま会社が期間限定キャンペーンをやっているから、お客さまに紹介することで案件化率が上がるよ」というように、アドバイスという位置づけのほうが、メンバーからすると受け入れやすくなります。
ここで例に出した「期間限定のキャンペーン」は一時的なものですから、もちろん、「普遍的に通用する勝ちパターン」を組織でつくっていけるのが望ましいです。
私は、経営者や営業マネージャーによく「御社で、成果が出ない営業社員に営業マネージャーがどんなアドバイスをしているか、そのセリフを教えてください」と聞きます。勝ちパターンがある会社は、このセリフが具体的なレベルで揃っています。つまり、勝ちパターンが共通言語化しているということです。営業がうまくいっていない会社は、これが抽象的な精神論だったり、「ケースバイケースです」という返答が返ってきたりします。
②活動の実態を「見える化」する
2つ目は、活動の実態を「見える化」することです。「見える化」により、こうやればうまくいくという勝ちパターンの仮説が正しいかどうか、決めた方針や施策が業績に結び付いているかを検証します。
具体的な勝ちパターンが見えてくると、どのタイミングでどう行動すればいいかがクリアになります。そこで、営業メンバーの勝ちパターン行動が見えるように、情報の共有・管理体制をつくります。勝ちパターンを実行すればするほど成果が上がっているかどうかをウォッチするのです。勝ちパターンを「一律の具体的な指示」にはせず、「勝ちパターンの実行状況が成果と相関しているかを見えるようにする」という、このバランス感覚が重要です。
ここでは、勝ちパターンに関係した行動はつぶさに見る一方で、勝ちパターンに関係ないところは報告義務を軽くするというように、見る必要のないポイントのメリハリを付けていきます。
SFAやCRMを導入してもうまくいかない企業では、このメリハリの重要性が理解されておらず、何もかも全部報告させようとして入力事項が多くなりがちです。メリハリがない状態でSFAやCRMのデータ入力をする現場の負担は過剰になるため、営業メンバーの心が離れてしまいやすくなります。
③人が育つ仕組みをつくる
3つ目は、人が育つ仕組みをつくることです。勝ちパターンにまつわる行動がうまくできていない人を、うまくできるようにサポートします。この人材育成をやることで、営業組織として勝ちパターンが正しいかどうかという検証もできます。
「ロープレをやっているが、成果に表れない」という会社では、ロープレで何を練習するかが明確になっていないケースが多々見受けられます。なんとなく商品説明をさせても成果は伸びませんし、一定の営業成果が出ている人にとっては基本のおさらいにしかなりません。ロープレは、「これが上達すれば成果が出る」というポイント(勝ちパターン)に絞って行うことが効果的です。
例えば、「お客さまの表面的な断り文句に対して、裏にある背景や本音を聞き出す」ことができると、成果が上がりやすくなります。コロナ禍でお客さまから「会社の予算が削られたので……」と断られすごすごと会社に戻ってくるメンバーがいる一方で、逆にお客さまがコロナ禍で重点方針として掲げていることを聞き出し、その重点方針を実現するためのストーリーをお客さまと一緒に考える人もいます。前者と後者では成果がまったく異なります。こういったシーンを切り出し、ロープレで練習するのです。
これを具体的な「仕組み」に落とし込むうえでは、実際に成果が出ていない人をどうサポートしていけばいいのでしょうか。
勝ちパターンを体現した行動は、言葉の説明だけでは分かりづらいので、商談場面の見本動画を制作して見せたり、行動のチェックポイントを挙げてどれだけできているかを確認し、パフォーマンスのテストに落とし込むなどが有効です。
④コミュニケーションのバランスを整える
①から③の3つが整うと、上司と部下の不毛な会話やコミュニケーションが減り、4つ目「コミュニケーションのバランス」に着手できるようになります。「不毛な会話」とは、「とりあえず頑張れ」などの精神論や、「何でもかんでも報告せよ」というマイクロマネジメント、目的のないロープレをやらせるなどです。こういった不毛な時間が減れば、その分を大切なコミュニケーションに割くことができます。
コミュニケーションのバランスが取れた状態というのは、パフォーマンス(目標や業績に関すること)とメンテナンス(人間関係や心身の健康)の両面に気を配れるということです。
バランスに目が向いた経営者や営業マネージャーは、業績や目標の達成に向けてメンバーと真剣な議論を重ねながらも、コロナ禍で疲弊しがちな営業メンバーの心身の調子を気遣ったり、1対1のコミュニケーションを取ったりすることができるようになります。
「四つ角」を制する組織は最終的な勝利を手にする
今回は、営業組織づくりの柱となる考え方についてお話ししました。オセロのごとく「四つ角」を制する組織は最終的な勝利を手にします。
「時間がない。とにかく成果を出せ」という経営者や営業マネージャーの皆さんも、この「四つ角」を意識した営業組織づくりをしてみてください。この手順に沿って組織づくりをしていくことが、消耗戦を強いられる営業組織から、お客さまと共に幸せを創る営業組織への転換を図る第一歩となるはずです。