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コロナ禍で少子化が加速し「社会の老化」が始まった

河合雅司・人口減少対策総合研究所理事長

昨年の出生数は一昨年より大幅に減少した。今年はさらに減少幅が拡大する見込みで政府の少子化予測は大幅に前倒しされることになりそうだ。コロナ禍によって加速する少子高齢化は日本に何をもたらすのか。さらなる少子高齢化が避けられないなら、どうすれば活力を導きだせばいいのか。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年10月号より加筆・転載)

河合雅司・人口減少対策総合研究所理事長プロフィール

河合雅司・人口減少対策総合研究所理事長
(かわい・まさし)1963年生まれ。中央大学卒業後、産経新聞入社。政治部が長く論説委員を務める。現在は人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、厚労省や人事院など政府の有識者会議委員を務める。2017年の『未来の年表』はベストセラーになった。

日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減少に転じ、昨年は1億2301万人だった。減少は今後さらに加速するが、コロナ禍がそれを後押しする。それにより日本はどうなるのか。「未来の年表」で人口減少時代を予測した河合雅司氏に話を聞いた。

50歳以上の女性が過半を超えた意味

―― コロナ禍により少子化が加速しています。昨年の出生数は前年より2万4千人以上減って84万842人。政府の想定より5年早く84万人台に突入しました。今年はさらに大きく低下すると見られています。

河合 今年の出生数が減るのは、昨年の妊娠届出数の減少からも明らかです。コロナ禍が深刻化すると同時に届け出数が減り、5~12月の前年同期比は7・0%減。これが今年の出生数に直接響いてきます。さらに昨年は婚姻数も前年比で10%以上減少しているため、これも出生数の減少に影響します。今年の出生数は75万人台になる可能性があるということです。そうなれば政府の想定より18年ほど前倒しとなります。

―― コロナが収束すれば、その反動で持ち直したりしませんか。

河合 コロナが収束してもこの傾向は変わりません。というのも昨年、女性人口の過半数が50歳以上となりました。これは出生可能な年齢の女性の比率が減ってきていることを示しています。「未来の母親」が減っていく以上、今後の出生数も減り続けます。

 少子高齢化が進むことで社会にはさまざまな影響が出てきていますが、一番怖いのは社会が老化することです。世の中が保守的になり、チャレンジを避けます。困難な状況に立ち向かうよりも無難さを選んでいくのでは日本の衰退は早まります。

 社会の老化は、コロナ禍でより顕在化しています。夏の甲子園の鳥取大会では、学校関係者がコロナに感染しただけで、強豪校が出場辞退に追い込まれそうになりました。野球部とは関係ない人の感染で出場辞退にしてしまうという発想が出てくること自体が、社会が老化している証拠です。

社会の老化で抑制される若者たち

―― コロナ対策でも、若い人たちの自制を求めるケースが目立ちました。小学校では給食の時も私語禁止。本来感染して家に持ち帰って高齢者にうつすのを避けるためだったのに、高齢者にワクチンが普及してからも続いていました。

河合 コロナ禍では大学を含め、多くの学校行事が中止となりました。本来、どうやったら開催できるか考えるべきなのに、ここでも世間の目を気にして無難さを優先する姿勢が見られます。社会の活力である若者たちの貴重な時間や機会を奪えば、必ず歪みが生じます。

 これはコロナ対策に限ったことではありません。さまざまな場面で、社会の老化による若者たちの抑制が起きています。少子高齢化が進み、かつてなら若者が就いていたポジションをベテランが担うケースが増えています。安定感はあるかもしれませんが、発想が硬直化しやすくなります。さらにベテランが従来の手法や価値観にこだわることが、数の少ない若い人たちの手足を縛ってしまうことにもなります。

 高齢者と若者を比べたら、イノベーションを起こす確率は明らかに若い人の方が大きい。新しいカルチャーやアミューズメント、ファッションも、若者から生まれています。今の日本は、こうしたことを生み出す力がどんどん衰えています。今後とも日本が先進国の一角を占めるには技術立国であり続ける必要があります。そのためにはイノベーションが不可欠なのに、それが起こりにくくなっている。これでは日本全体がどんどんシュリンクしていってしまいます。

 本来であれば、日本のような高齢化した国こそ意識して、有能な人たちが年齢に関係なく力を発揮できる社会、チャンスの機会を広げていく社会をつくっていかなければいけません。ところが現実は反対に動いているようにしか思えません。これでは、国家としての自殺行為です。

社会の老化を防ぐ「5つの提言」

―― 河合さんは最近出版した『未来のドリル』(講談社現代新書)の中で、社会の老化を防ぐための5つの提言をしています。そのひとつが「国政選挙に『若者枠』を新設」です。「選挙区枠」「比例区枠」とともに「若者枠」をつくり、20、30代の声を国政に反映させていこうというものです。

河合 若い人には若い人ならでは悩みや社会課題があります。しかし現在の20~30代の人口規模は合計しても65歳以上の7割でしかありません。「高齢者向け施策を優先する〝シルバー民主主義〟を是正するには、若者がもっと投票に行くべきだ」などと言う人がいますが、この世代の投票率が上がったところで、最初からかなわないのです。有権者の年齢が18歳に引き下げられましたが、焼け石に水です。若い人の声を国政に届けるには、必ず当選する仕組みを作ることです。このくらいのことをしないと、高齢者向け施策を優先する社会の老化の進行を止めることはできないと思います。

―― このほかにも、「中学卒業時からの『飛び入学』導入」や「『30代以下のみが住む都市』の建設」などの提言が並んでいますが、実現は難しそうというのが率直な感想です。

河合 国政選挙の「若者枠」の創設には時間がかかるかもしれませんが、若者だけの街はその気になればすぐ実現します。例えば大企業が資金を出し合って3万~5万人の街をつくり、若い社員がそこに住みながら働くようにすればよいのです。多くの若者が集まり住んで切磋琢磨したならば。そこから新しい発想が生まれ、商品開発や文化の発信に結び付くことでしょう。少子社会では、若者をバラバラにしてはいけません。

 人口減少社会の企業経営は、生産性向上と高付加価値化がポイントです。そのためにはイノベーションが不可欠であり、その担い手が若い人たちです。彼らが自由に活躍できる環境をつくることこそ、社会の老化を防ぐ唯一の手段なのです。