経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

暗号資産価格は沈静化し誰もが使う時代がやってくる

暗号資産(仮想通貨)の魅力であると同時に胡散臭さの源泉となっているのが価格変動の激しさだ。4年前のブームの時は大金を稼いだ「億り人」を生んだ一方、その後の下落で大きな傷を負った人もいる。昨年終盤から今年にかけても、再び乱高下した。今後暗号資産はどう動き、どのように使われていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(『経済界』2021年10月号より加筆・転載)

 暗号資産というと、相場ばかりに目がいくが、金融界では新しい決済/送金の手段として注目を集め既に海外送金などでその技術が使われ始めている。暗号資産はわれわれの生活とどう関わってくるのか。SBIリクイディティ・マーケット社長の尾崎文紀氏に話を聞いた。

尾崎文紀・SBIリクイディティ・マーケット社長プロフィール

尾崎文紀・SBIリクイディティ・マーケット社長
(おざき・ふみのり)証券会社などでの外国為替ディーリング業務を経て、2008年SBIホールディングス入社。FXや暗号資産を取り扱うSBIリクイディティ・マーケットの設立に携わり、17年に社長に就任。19年より暗号資産取引所、SBIVCトレードCEOを兼務。

大手金融機関や機関投資家が暗号資産市場に参入

―― 昨年秋から暗号資産価格が乱高下しています。代表的暗号資産であるビットコインは、昨年10月には100万円台だったものが今年4月には700万円を突破、その後急速に落ちていき、7月には320万円と半値以下になりました。

尾崎 現時点でのビットコインをはじめとする暗号資産市場は、まだ個人投資家中心のマーケットと言えると思います。4月には米国大手投資家の動向・思惑が交錯しビットコイン価格は急騰しましたが、ここでもSNS等を情報リソースとして敏感に売買を行った個人投資家の動きが大きく影響していたと見ています。

 そして、高値が続けばリスクオフの動きが起きて調整が入り下落する、端的に言えばこの動きが最近まで続いていたということになりますが、ビットコインが株や為替などの他のアセットと異なるのが流動性の厚みです。まだ市場参加者における個人への偏りがあることから流動性は安定せず、買いが買いを呼び、一転して売りが売りを呼ぶ、一方向にブレやすい非常に荒い値動きが続きました。

―― 乱高下は続きそうですか。

尾崎 こうした極端な値動きは、今後は少しずつ変わっていくのではないでしょうか。というのも、足元は暗号資産価格の軟調な推移が続いたこともあり個人の動きは以前に比べやや小康気味となっていますが、逆にここにきてマーケットのメインプレイヤーの一つである大手金融機関や機関投資家、ファミリーオフィス(超富裕層顧客)における暗号資産に対するニーズ、オファーが増加してきています。直近の報道でもヘッジファンドが2026年までには資産の7%まで暗号資産を保有するとの見通しが出されたように、こうした機関投資家層の投資比率が高まっていけば、マーケットに大きな流動性をもたらします。

 他の金融市場と同様、暗号資産市場も市場参加者の増加と多様化、そしてそれにより生み出される流動性の安定した厚みが今後整っていくことで、マーケットはより安定化し、価格のボラティリティも落ち着いていくものと見ています。

―― 一方で、本来の暗号資産の価値は、決済や送金にあるはずです。ところが、三菱UFJフィナンシャル・グループが5年以上前からMUFGコインの開発を進めているものの、いまだ実用化されていないように、そうした使われ方は普及化のめどがたっていないように思えます。

尾崎 決済/送金の機能は、暗号資産の価値を考えるうえでも重要な要素と考えます。ビットコインの成り立ちからしても、元来その役割が求められていましたが、これを阻害してきたのが新しいものであるが故の未成熟なマーケット状況があったと思います。

 現在、金融機関が直接暗号資産を扱う際には、そのボラティリティの高さからリスク・ウェイトは1250%という極めて高い数値が課されており、なかなか本格的なサービス参入には踏み切れないのが実状です。ただ、これも先に述べた市場の安定化とともに各種整備が進み、大手金融機関等も参入できる素地ができてくれば、一気に普及していく可能性があります。

 こうした動きの先駆けとして、SBIグループでは、7月28日に日本初となる暗号資産を用いた国際送金サービスをフィリピン向けに開始しました。従来の銀行利用の送金の場合、日本とフィリピンの銀行の間にいくつかの中継銀行が入るため、その分、高い手数料がかかっていましたが、われわれのこの新スキームでは、ブリッジ通貨としてメジャー暗号資産の一つであるXRPを用いることで手数料を最小限に抑え、かつ短時間での決済を実現しています。

スマホ決済の裏側で暗号資産が使われる

―― 知らないうちに暗号資産を使っているようになるのでしょうね。

尾崎 そう思います。このフィリピンへの送金スキームでも、利用者はそれが暗号資産を使ったものだとはわかりませんし、知る必要もありません。そう遠くない将来、スマホを用いて何気なく利用している取引、決済/送金サービスの裏側では暗号資産が当たり前に動いている、そういった形になっていくものと考えています。

―― SBIはネット証券ではトップを走ります。暗号資産でも同様のポジションを狙っているのですか。

尾崎 もちろんです。証券はインターネット金融の先駆者として、矢継ぎ早に革新的なサービス展開を推し進めることで現在の大きなシェアを獲得しましたが、暗号資産でもその方針は変わりません。

 その一環として、われわれは早くから暗号資産事業の肝がその流動性管理にあるととらえ、昨年末にロンドンに本社を置く暗号資産分野の大手マーケットメイカーであるB2C2社を買収いたしました。グローバルで本物の流動性を取り扱う彼らをグループ内に取り込むことで、お客さまに対してはより安定した、取引コストを抑えた利便性の高い暗号資産サービスが実現できています。

 加えて重要なのが、SBIの持つ基盤の活用。投資商品としてだけでなく、ファンド運用、送金、保険、その他あらゆるマーケットを包括するSBIの生態系の中に暗号資産を取り込み、またNFT(非代替性トークン)やDeFi(分散型金融)といった新たなビジネス領域への展開の模索も行っていくことで、お客さまがストレスなくさまざまな形で暗号資産を利用し、ポートフォリオのひとつとして保有できる、そうした環境の構築を図ってまいります。

 これらを実現することで、おのずと暗号資産分野でも圧倒的シェアを獲得できると考えています。